第32話 砂糖と塩
「俺は……」
レッカの問いに、俺は自分が誰で、どういう状況化をドワーブン姉妹に包み隠さず説明する。
助けて貰っておいて嘘を吐くのもあれだと思ったし、なにより――
隠す必要はないと判断したからだ。
少なくとも、ドワーブン姉妹には。
「えっと、その……ゲームってのは何なんですか?」
「んー、物語……伝記物の小説みたいなもんかな」
メエラの疑問に、分かりやすくふわっとした例を出しておく。
実際は完全に別物だが、ゲームのない世界で逐一説明しだしたら切りがないからな。
「つまり貴方は別の世界の人間で、魂だけがエヴァン・ゲリュオンに乗り移ったという訳ね?」
「まあそうなる」
俺の話を聞いて、レッカが渋い顔をする。
まあ普通に考えれば、胡散臭い事この上なしの妄想話に聞こえるだろうからな。
信じられなくても仕方のない事だ。
「そして貴方はゲームという物で、この世界の事を詳しく知っていると……」
「信じられない話だとは思うけど――」
「いえ、信じます!だってヤマダさんは嘘を吐く様な人じゃありませんから!!」
メエラが真っすぐ俺を見てそう言う。
その綺麗な瞳には、微塵も猜疑の色は浮かんでいない。
話を信じてくれるのは嬉しいんだが……
あんまり
そのうち誰か悪い奴に騙されるんじゃないか、と。
まあ、姉のレッカの目が黒いうちは大丈夫だろうとは思うが。
「おねぇちゃんも信じるよね!」
「……」
メエラにそう言われ、レッカが少し困った様な顔におなる。
「異世界から来たって話は……正直、素直にそうなんだとは言えないわね。流石に、ね……」
奇想天外な話を、疑いもせず純粋に信じ切っている妹にレッカは肩を竦める。
「けど……中身が入れ替わったというのは、納得出来る部分があるわね。とんでもない大悪党が改心して急に善人になったと考えるより、まだ現実味ががあるわ」
悪人の急な改心と異世界の人間が体を乗っ取るでは、前者の方がよっぽど現実味がある様な気がするんだが……
まあ魔法のある世界だしな。
悪人の改心より、不思議パワーによる中身入れ替えの方が信憑性が高くなるのかもしれん。
これはきっと、生まれ育った世界の違いによる感覚の差なんだろう。
「だから異世界の話は置いておいて、貴方がエヴァン・ゲリュオンじゃないというのだけは信じてあげるわ」
「それだけ信じて貰えたなら十分だ」
まあ、地球からゲーム世界に来たという話を信じないのはしょうがない。
別にその部分を信じて貰わないと困るって訳でも無し。
一番重要な、中身が別人ってのを信じて貰えたなら十分である。
「もう、おねぇちゃんったら。ヤマダさんが嘘を吐く訳なんかないのに」
「はいはい。それで、貴方はこれからどうするつもりなの?」
「ああ、それなんだけど……実は、邪神がもうじき復活するから――」
自分の行動を穴埋めする計画。
自らが壁としてレイヤに立ちはだかり、彼を強く育てるという計画を彼女達に話す。
――その計画ならば、安定した形で世界を救える。
俺はそう考えていた。
だがその考えには、大きな欠落があった。
何故自分がこの世界へ来たのか。
そしてそれが何故エヴァン・ゲリュオンの体なのか、という部分だ。
もしそれが奇跡と呼ばれる類の偶然などではなく、何者かが意図をもって行ったものだとしたら?
そうだとしたなら今の自分の在りようは、それはその何者かの思惑の元で踊らされている可能性が高いと言えるだろう。
この時の俺は知らなかった。
疑問にも持たなかった。
俺の行動が。
俺を呼び出した物の意図が。
世界にどういった結末を齎す物であるかを。
――俺がその事に気付くのは、ずっと先の話だ。
最後の最後。
取り返しのつかない所まで来て、俺はそれを知る事になる。
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