第11話 ゲインロス

「ふんふふーん」


今日一日でカルマ値が65も上がったので御機嫌だ。

俺は鼻歌交じりに、露天商で適当な果物を購入していく。

寝床で待つ、ゴンザ兄妹に食わせる為に。


本当は快気祝い、に妹であるカニカの好物であるパンを喰わせてやりたかったのだが、店員をおもっくそぶん殴ってしまっているのでそれは無理だ。

ワンちゃん殴った衝撃で記憶が飛んでる可能性もあるが、流石にそれに賭けるつもりはない。

まあ果物で我慢してもらうとする。


「もぐもぐ。しっかし……この程度で65とか破格すぎるぜ」


リンゴっぽい果物――ゴンリを齧りつつ呟く。

ゲームだと同じ様な人助けをしても、10とか、高くても20位しかカルマ値は上がらない。

そう考えると、一連の行動で65も増えたのはまさに破格と言えるだろう。


「何でだろうな?」


パッと思いつくのはゲインロス効果だ。


不良なんかがいい事をしたら、そいつが凄くいい奴に見えたりする事があるだろ?

善人がやる分には普通の行動にもかかわらず、だ。


正にそう言う現象。

意外性から過大評価を受ける事を指す言葉、それがゲインロス効果だ。

通称、ヤンキー効果とも呼ばれていたりする。


まあ要は、同じ善行でも悪人の方が大きな評価を受けやすいって事だ。


「まあもしそうだとしたら、完全に裏設定的なシステムだよな」


主人公やその仲間のカルマ値が、マイナスになる事はない。

基本善人集団だからだ。

だからもしジャスティスヒーローにゲインロス効果がシステムとして取り入れられていたなら、それは隠し設定と言っていいだろう。


もちろん、そんな設定があればの話だが……


「ゲームその物じゃなくて、ゲームに似た異世界って可能性も……」


ゲームとして終始一貫行動してはいるが、此処が本当にジャスティスヒーローのゲームが世界化した場所とは限らない。

すっごくよく似ている世界の、設定の凄く似ているキャラに転生しただけの可能性も……


「……」


……いやまあ、流石にゲームと全く関係ないって事はないよな。


システム回りはそのまんま。

主人公の姉は瓜二つだったし、レッカまでいるのだ――あってはいないけど。

これで関係ない世界だったとしたら、逆に驚くわ。


「ま、考えても仕方ない」


答えに至るだけのピースは揃っていない。

寧ろ、現状では一欠けらすら手に入っていないと言ってもいい位だ。


つまり考えるだけ無駄。

今はとにかく、レイヤから逃げ切って生き延びる事――カルマ値上昇だけを考えておけばいい。


「よう、目が覚めたか?」


兄妹のねぐら――というにはアレだが――に戻ると、妹のカニカが既に目を覚ましていた。


「あ、あの……ありがとうございました」


「ありがとうございます」


「気にしなくていい」


これは施しではなく、持ちつ持たれつの行為だ。

こっちも得る物があった以上、礼の言葉を貰う様な立場ではない。

まあ流石に、それをこの兄妹に説明する事はないが。


「それより腹減ってるだろ」


「わあ!」


カニカの病気は治ったが、体力までは回復できていない。

それに兄妹そろって見事にガリガリだ。

俺は二人の為に買って来た果物を、マジックアイテムである革袋から取り出して渡す。


革袋は魔法のかかった特殊製品で、見た目は小さいがその容量はかなり大きくできている。


「あの……ありがとうございます。こんなに色々良くして貰って」


「良いから気にせず食えよ」


カルマ値を確認すると、590になっていた。

予想通り、腹をすかした兄妹に食い物を与えてもカルマ値は増える様だ。


下心ありきの行動なのかって?

ああそうだぞ。

まあもちろん、可哀そうと思う同情心もあるが。


ま、あれだ。

やらない善よりやる偽善って言うだろ?

お互い得をしてるんだから、細かい事は言いっこなしだ。


「なあ、この街にはゴンザ達みたいな子は他にいないのか?」


二人が果物を食べ終わるのを待ってから、俺は尋ねる。

浮浪児童に食事を与えるだけでカルマ値が増えるのだ。

なら配らない手はない。

幸い、金は結構あるからな。


人様から奪った金だけど……


まあ奪われた人達も、可哀そうな子供達に手を差し伸べるために使うのならきっと許してくれるだろう。


たぶん。

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