第12話 追放

俺はゴンザから、浮浪児達の話を聞く。


「ふむ……」


この街の浮浪児は、基本集団行動している。

皆で落ちている金目の物を探して拾ったり、ちょっとした仕事をこなし、その金で全員の食い扶持を賄う。

弱いながらに力を合わせて生き残る、弱者ながらの知恵って感じだ。


とは言え、金になる様な物なんてのは早々落ちてなどいないし、ありつく仕事もその給金は足元を見られてか雀の涙程だ。

そのため彼らは腐りかけの野菜や、カビの生えたパンなどの食べ物を買って劣悪な条件下で食いつないでいる状態だ。


「……」


同じ浮浪児であるにもかかわらず、ゴンザ達は兄妹二人っきりである。

それは何故か?


彼らも別に、ずっと兄妹だけで行動していた訳ではなかった。

元々は、その集団の一員だったのだ。

だがある日、兄妹は――正確には、妹のカニカはそこから追い出されてしまう。


病気にかかったせいで。


福祉などなく、その日食べる物にすら困る浮浪児達に病気の治療を受ける術はない。

そんな彼らにとって、重い病気とは死を意味していた。

そしてもし感染系の病気が広まれば、瞬く間にその集団は全滅してしまうだろう。


だから彼らはカニカを追放したのだ。

それを避けるために。


ま、ずっと一緒にいたゴンザがかかってないあたり、感染系の病気ではなかった様だけど……


病気についての知識のない浮浪児達に、それを判断しろと言うのは無理な話だ。

だから問答無用で追い出す決まりになっているのも、仕方のない事ではある。


「二人は……そいつらの事を恨んでいるか?」


大の為に、迷わず小を切り捨てるのは非常に厳しい決まり事だ。

だがそうでもしないと生き残れない。

それがこの街の浮浪児の現状なら、それを責める事は誰にも出来ないだろう。


とは言え、切り捨てられた側は憤懣やるせないはずだ。


「恨んでなんかないよ。仕方ない事だし……きっと逆の立場だったら、僕だって同じ事をしたと思うから」


「カニカも皆の事、恨んでなんかないよ」


「そうか」


そう言う二人の顔に、怒りや憎しみの感情は全く浮かんでいなかった。

建前などではなく、本気で恨んでいないのだろう。

優しい兄妹である。


まあ恨んではいないとの事なので――


「もしよかったら、その子達のねぐらにしてる場所に俺を案内してくれないか?」


――俺はゴンザに案内を頼んだ。


食い物を配るにしても、一々探し回ったのでは時間がかかってしまう。

それに見知らぬ男が近づいて来て、急に食い物をやろうとか言い出したら、普通は警戒するだろうからな。

そう言う意味で、ゴンザに案内して貰えればハードルが下がるという物だ。


「え?良いけど……」


俺の言葉の意図を測りかねてか、ゴンザが少し怪訝そうな顔になる。


「最初に言っただろ?俺は人助けが趣味の、お人好しだって?」


まあもちろん、これは真っ赤な嘘だ。

俺は自分に利があるから行動しているに過ぎない。

けどまあお互い得する訳だし、嘘も方便って事で。


「その子達に、腹いっぱいの夕飯をご馳走しようかと思ってな」


「そっか。だったら案内するよ。カニカが治った事も伝えたいし」


カニカの病気が治ったので、ゴンザは集団に戻るつもりなのだろう。

恨みもないみたいだしな。

まあ、浮浪児達は支え合っていかなければこの街では生きていけないのだから、仮に恨みがあっったとしても戻るしかないだろうが。


「そうか。じゃあ俺は一旦晩飯用の買い物に行って来るから、その後案内を頼むよ」


「うん」


夕飯の時間まではまだ少し時間があるので、まずは買い物を済ませるとしよう。

どうせ今すぐ行っても、浮浪児達は揃って居ないだろうしな。


俺は出来合い物を買いあさりに、再び買い出しに出かける。

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