第61話
窓から微かな光が差し込んでいる。
夜が明け始めているようだ。
助かったと思いながら神澤より遅れてみんなが待つ出入口の前に行くと、陣内と軽部が力任せに扉を左右に引っ張っていた。
由紀子と麗奈と香奈は階段の方を気にしながら、扉が開くのを待っている。
望月 愼介:「開かないのか?」
俺が声を掛けると一斉に振り返り、助けを求めるような表情を全員が浮かべていた。
神澤 真梨菜:「望月さん!! 大変なの!!」
座っていた神澤が立ち上がろうと腰を浮かすが、俺の隣にいる誠也を見てその動きを止めた。
望月 愼介:「骨になってた友達だよ。後で紹介してやるから今は状況を説明してくれ」
隣の幽霊が安全だと分かり、神澤は立ち上がって俺に駆け寄った。
神澤 真梨菜:「……見ての通り扉が開かないの。呪いの余韻が残ってるみたいで」
神澤は力任せに扉を開けようとしている陣内と軽部を心配そうに見つめた。
神澤 真梨菜:「206号室の割れた窓から2人を先に脱出させて、外から開けてもらおうと思ったんですけど……」
田所 誠也:「2階に行けない理由があるんだな?」
神澤の説明に対して誠也が質問し、彼の視線は階段を気にしている由紀子に向けられていた。
田所 誠也:「なるほどな。先生が蘇らせた亡霊が彷徨ってんだな」
神澤 真梨菜:「そうです。2階からは入院病棟。死者は1階で殺された人数より多いです。お守りもお札も無い状態では2階に踏み込むこともできません」
お守りは坂巻先生を倒した時に灰になり、お札は1枚だけしかなかった。
望月 愼介:「日が昇れば、呪いが浄化されるって事は……無いのか?」
俺は隣に立つ誠也や由紀子に聞いてみるが、2人とも頷くことは無かった。
答えを知っているというわけではなく、分からないという表情だ。
望月 愼介:「外側からなら簡単に開けられたのに、面倒なことになっちまったな……」
俺は扉を力任せに開けようとしている陣内と軽部を見る。
望月 愼介:「陣内、代わるぞ。悪いけど軽部はもう少し付き合ってくれ」
陣内:「でも、望月さんその怪我じゃ」
俺のこめかみから流れる血と赤くなった右足のスニーカーを見て、陣内は扉の前を動こうとしなかった。
軽部:「そうですよ。望月さんも神澤さんも怪我してるんですから、ここは無傷な俺たちが頑張りますから」
軽部は俺の怪我を見て「何言ってるんですか!?」というような顔をしている。
田所 誠也:「いや、どの道、その扉を開ける時間は無さそうだよ、慎介」
誠也の声に振り返ったが、彼は廊下の向こう側を見つめていた。
望月 愼介:「……来ちまったか」
視線を辿れば、階段をゆっくりと下りてくる亡霊たちが見えた。
亡霊の姿を見た陣内と軽部は慌てて扉の取っ手に飛び付いた。
望月 愼介:「誠也、お前なんとかできるか?」
上の階で溢れかえった亡霊たちは目的無く彷徨っているように見えるが、俺たちの存在に気が付くのは時間の問題だろう。
田所 誠也:「俺には無理だ。確かにこの場に死体が在るって条件は坂巻と同じだけど、あれは別格だ。せいぜい俺は相手にできて3人だろうな」
誠也は申し訳なさそうに溜め息をついた。
望月 愼介:「力は別格でも、壁は通り抜けられるよな?」
田所 誠也:「それなら俺もできるけど、外側に回って開けるの手伝えってことか?由紀子さん混ぜて4人で力合わせても、無理だと思うぜ?」
望月 愼介:「5年も前じゃ忘れちまったか? お前が花壇に隠した鍵のこと」
誠也は花壇に落ちていた鍵を使って扉を開け、再びその鍵を花壇に戻した。
それを俺が発見して同じように使用してから花壇に隠している。
坂巻先生が何もしていなければ、花壇に鍵があるはずだ。
田所 誠也:「任せろ。俺が開けてやる」
そう言って誠也は扉に歩み寄り、片手を扉の外に突き出した。
田所 誠也:「死体が在る建物から出たら、消えちまうかと思ったけどそれは無いみたいだ」
誠也はそのまま前に進み、身体が扉の向こう側に吸い込まれるように消えていった。
これで脱出できる。
そう安堵の溜め息を漏らした時だった。
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