第56話
望月 愼介:「なるほどな。軽部、またお手柄だな」
軽部:「さすがにこれは、たまたまですよ」
神澤 真梨菜:「まさか仕掛けがないなんて……」
本棚を調べていた神澤は、肩を落として陣内の隣に立った。
陣内:「その穴に指引っ掛ければ、タイル外れそうですね」
陣内の感心した声に、俺たちは動き出す。
指先に引っ掛けた薄汚れたタイルは冷たく、コンコンと鳴る音の通り軽かった。
だが6枚あるタイルを外すにつれて、下から溢れ出す危険な気配は生温く身体に纏わり付き、吐き気がするほど重かった。
神澤 真梨菜:「これ、この病院を壊したらバレちゃうような簡単な隠し扉だったね」
神澤は溜め息とともに何のひねりもない隠し扉に毒付いた。
望月 愼介:「そうだな。元々、自分が隠れるための場所じゃなかったんだろ。お陰で青い小箱より簡単だったよ」
俺は床下収納の様なタイル2枚分の大きさの扉を開けた。
抑えていた蓋が無くなった瞬間、容赦なく溢れ出した危険な気配と共に充満していた死臭も溢れ出した。
陣内:「うっ……」
陣内は顔をしかめて、鼻を押えた。
望月 愼介:「お前ら、少し離れろ。これ吸うなよ」
布で鼻を抑えるように指示し、自分もTシャツの裾で鼻を覆う。
軽部:「これだけ死臭がしてるのに、蠅一匹飛んでこないっておかしくないですか?」
軽部は眉を寄せながら、死臭だけが飛び出してきたことに疑問を思った。
望月 愼介:「蠅が生きられないぐらいの環境下だったか」
神澤 真梨菜:「あの男が殺したか」
望月 愼介:「大好きな由紀子さん守るためにな」
俺と神澤の言葉に、地下室の恐ろしい世界が容易に想像できたのだろう。
疑問に首を傾げていた軽部は更に眉を寄せ、陣内は遠くを見るような目で地下に続く階段を見つめた。
望月 愼介:「この先は今までの亡霊とは比べられないほど、危険なのは分かるな?だからこの先は自己判断だ」
神澤 真梨菜:「えっ?」
陣内と軽部よりも、止めなかった俺に驚いた神澤は反論しようと口を開く。
望月 愼介:「この地獄の入り口は軽部が見つけたんだ。それなのに『ここで待て。後は俺が殺る』って主人公みたいに『良いとこ取り』したら昌暉に怒鳴られちまうだろ」
神澤が声を発するよりも先に俺が声を出す。
望月 愼介:「神澤、お前も自己判断だ」
◇◇◇
神澤
『望月さんと一緒に行くよ』 『ここに残る』
◇◇◇
軽部
『またお手柄上げに行きますよ』 『ここに残る』
◇◇◇
陣内
『残るなんて選択肢ありません』 『ここに残る』
◇◇◇
3人は下唇を噛み、そして真剣な眼差しを俺に向けて声を上げた。
神澤 真梨菜:「望月さんと一緒に行くよ」
軽部:「またお手柄上げに行きますよ」
陣内:「残るなんて選択肢ありません」
3人は笑っていた。
俺たちは人間が勝てるかどうかも分からない相手に挑もうとしている。
神澤 真梨菜:「望月さんだって自己判断だよ?」
軽部:「俺たちと一緒に」
陣内:「地下に行きますか?」
◇◇◇
望月
『当たり前だ』 『お前らだけで行ってこい』
◇◇◇
俺も笑って答えた。
望月 愼介:「当たり前だ。今度こそ、俺がお手柄上げてやるさ」
俺たちは地下へと続く階段をゆっくりと下りた。
望月 愼介:「(……あいつらの仇は俺が討つ)」
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