第54話


死体を隠している場所が分からない。


きっと見つけられないと分かっていて、俺たちの前に姿を現したり俺を殺すと挑発したんだ。


陣内:「どこか、警察でも見つけられない場所……」


軽部:「それはきっと隠し部屋だろうけど、扉の無い部屋じゃないと……」


陣内と軽部は再び頭を悩ませている。


神澤 真梨菜:「危険な気配ってさ、怨念が強いからってだけじゃないよね、きっと。本体である死体があるから他の霊より気配が強いんだよね?」


望月 愼介:「おそらく、そうだろうな」


神澤 真梨菜:「死体があるのと無いので気配が変わるんだったら能力も違うだろうし、探すのは隠し部屋だけで十分だと思わない?」


望月 愼介:「つまり死体がない麗奈たちは壁を通過できないが、死体が存在する坂巻先生は通過できるってか?」


神澤 真梨菜:「だって、あの男が出てきたのって血だまりからだったでしょ?」


望月 愼介:「そうか! やつは床を通過してきたんだった! 麗奈たちが通過できない先入観ですっかり忘れてた……」


神澤 真梨菜:「私もその先入観で忘れてたよ。まぁ、一番は怖くて思い出したくもなかったからなんだけど」


陣内:「その定義だと、母親も壁を通り抜けられるから逃げられるはずなのに逃げないって事は、囚われてるって事ですよね」


軽部:「監禁するのなんて、あの男なら容易そうですし」


陣内の考察に軽部が同意する。


望月 愼介:「きっと警察が見つけられなかったって事は、普通の部屋じゃない。地下室とか天井裏とか、隠し部屋ってところだろうな」


神澤 真梨菜:「だったら探すのは一階か最上階?」


軽部:「一階だと思いますよ」


悩まし気に腕を組む神澤に、軽部が得意げな顔をする。


望月 愼介:「なんでだ」


手掛かりもないのに、一階だと断定するのは難しいだろう。


通っていた俺が検討もつかないのに。


軽部:「俺たちの轟チャンネルは心霊写真の検証をするだけじゃないんですよ。都市伝説や怖い話なんかも紹介したり独自に調べたり、ホラーゲームなんかもやるチャンネルなんです」


望月 愼介:「……つまり?」


軽部:「大体、ホラゲは地下で始まるか終わるかが主流ですよ。そうでなくても地下室というのは必ずと言っていいほど探索します。でもこの廃病院で地下室はまだ発見できていません」


廃病院で起きた出来事を、ホラーゲームに例える軽部に腹が立った。


望月 愼介:「誠也も昌暉も、ゲーム感覚で殺されたって言いたいのか!?」


陣内:「望月さん!?」


神澤 真梨菜:「落ち着いて!!」


怒りに任せて軽部の肩を強く掴んだ俺を、陣内と神澤が止めに入る。


軽部:「違いますよ。昌暉がゲーム実況を担当してました。その昌暉がホラーゲームには地下室が鉄板だって言ってたんです。実際、隠し部屋を探しているんですから、可能性はあるかと思います」


確かに隠し部屋があるなら1階が妥当だろう。


2階は入院患者の部屋や受付や、小さな給湯室しかなかった。


そんな2階に隠し部屋を作るスペースは無い。


行ってはいないが、それより上の階は同じ理由で除外される。


最上階の屋根裏なら可能かもしれないが、死んだ人間を上に運ぶのは簡単ではない。


そこまで考えて、俺は軽部の肩を掴んでいた手を離した。


望月 愼介:「悪かった。ついカッとなっちまって。大人気なかったな」


離した手でシワになってしまった軽部の服を整える。


軽部:「俺もすみませんでした。この状況をゲームに例えるつもりは無かったんですけど、昌暉の事考えたらホラゲの鉄板が浮かんじゃって」


神澤 真梨菜:「あーはいはい。誤解は解けたんだから、もうおしまい。それで? 地下室って線は私も賛成だけど、望月さんはどう思う?」


気まずい空気を強制終了させた神澤が俺に意見を求めた。


望月 愼介:「そうだな。なら地下室の可能性があるのは診察室1だな」


『こっそりリハビリを行っていた件で坂巻先生に謝りに診察室をノックしたんですけど返事が無く、いらっしゃらなかったので他を探していたら、診察室から出て来たんですよね。気が付かない間に戻っていたようです』


看護婦の日誌に書かれていたこの文章が気になっていた。


もし地下室が診察室1に存在したら、探したはずの部屋から坂巻先生が出てきてもおかしくはない。


だが日誌の通り、タイミングが悪かっただけの可能性もあるが、広い病院ではないし、探していたなら『先生を見てないか?』と声を掛けながら探すはず。


そうすれば目撃証言が得られるし、看護婦が探していたと坂巻先生に伝わるだろう。


それがないということは、坂巻先生は診察室1から出ていないということになる。


それを説明すれば納得したように3人は頷いてくれた。


神澤 真梨菜:「じゃあすぐに行こ」


神澤が扉に向かう。


望月 愼介:「待て。外を確認してからだ」


俺は神澤の肩を掴んで先を歩く。


廊下には微かな気配がするが、坂巻先生の危険な気配ではない。


おそらく麗奈から貰った四つ葉のクローバーのしおりで退治できるだろう。


俺は黄色いお守りを握りしめて扉を開けた。




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