第53話
目を開けると、麗奈と香奈が俺を見つめていた。
もう悪霊の様な黒い姿ではなく、俺の記憶の中にある2人の姿に俺は目を合わせる事が出来ずに下を向いてしまう。
坂巻先生が『お前が殺したんだ』と言ったのは、的外れではなかった。
直接手を下したのは坂巻先生だが、キッカケを作ってしまったのは俺だった。
望月 愼介:「やっぱり、俺がリハビリなんてしなかったら……」
麗奈も香奈も大人になって、人生を楽しんでいたのかもしれない。
なにより大切な母親を失うことはなかっただろう。
望月 愼介:「2人とも、悪かった……」
俺は2人の少女に頭を下げた。
神澤 真梨菜:「望月さん」
神澤に呼ばれて顔を上げると、麗奈の日記を差し出された。
神澤は困ったように笑っているが、その表情の意味は分からない。
神澤 真梨菜:「最後のページ、読んでみて」
言われた通り俺は受け取った日記の最後のページを開いた。
そこには『さかまきせんせいが おかあさんをころした』の下に『しんすけくん ありがとう』と書かれていた。
その言葉だけで俺は救われた。
望月 愼介:「俺こそ、ありがとな」
今度は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
軽部:「これから、どうすればいいんですか?」
陣内:「ご指示を!」
警戒心が解けた軽部と陣内が俺に歩み寄る。
どうやらこの部屋に居る全員に、2人の記憶が見えたらしい。
望月 愼介:「由紀子さんを見つければいいんだな?」
麗奈と香奈は頷いた。
神澤 真梨菜:「きっとあの男に囚われてるのね!」
コクリとまた頷く。
望月 愼介:「今度こそ俺が2人を助けるから、任せろ」
俺は2人の目を見て、意気込んだ。
すると2人は微笑むと俺の胸に飛び込んで、すーっと消えた。
望月 愼介:「俺が母親の所まで連れてってやるからな」
拳を胸に当て誓う。
陣内:「母親を見つければ、この呪いも解けるんですかね?」
陣内は顎に手を当てて、考え込む。
望月 愼介:「解けるかどうかは分からんが、由紀子さんが先生の弱点なのは確かだろうな」
由紀子を成仏でもさせて、この廃病院から居なくなれば、坂巻先生の隙が生まれて対応しやすくなるだろう。
俺は神澤に日記を返した。
神澤 真梨菜:「……これ」
望月 愼介:「お前が持ってろ」
俺の真剣な眼差しに、神澤は何かを感じ取って全てを悟ったように頷いた。
軽部:「それで、母親を探すって言っても今のところ開いてる部屋には居ませんでしたし、もしかしたら霊感の無い俺たちには探せない可能性も……」
望月 愼介:「幽霊を探す必要はない」
軽部:「え?」
望月 愼介:「探すのは由紀子さんの死体だ」
陣内:「死体!?」
陣内と軽部は目を丸くする。
望月 愼介:「なんだ、神澤は驚かないのか」
神澤 真梨菜:「まぁね。2人も記憶を見たから分かると思うけど、先生は狂った愛情を由紀子さんに向けていた……旦那さんや病院内の人を殺してしまうほど独り占めしたかった。そんな先生が大好きな由紀子さんを殺したら、そのまま放置して逃げると思う?」
軽部:「た、確かに……それで逃げたら手を汚した意味がありませんね」
陣内:「私なら……そこまで好きな人なら死体でも傍に置いておきたいかな」
望月 愼介:「そういう事だ、陣内。先生は死体の由紀子さんをどこかに隠したんだ。しかもこの殺人事件は犯人が捕まってない……つまりどういうことか、分かるな?」
ヒントを揃えて軽部と陣内を挑発すれば、2人は目と口を大きく開けて声を揃えた。
陣内:「犯人の先生も一緒に居るって事ですね!!」
望月 愼介:「おそらくな」
坂巻先生は麗奈と香奈を殺した後、診察室に戻り由紀子の死体と一緒に隠れたのだ。
遺体として見つかった麗奈と香奈より危険な気配がしたのは、本体である死体があるから。
だから由紀子を発見できれば、坂巻先生の本体も同時に発見できるし制圧することも難しくはないだろう。
望月 愼介:「警察が現場検証したんだから、簡単に見つかるような場所じゃないはずだ。しかも扉を通過できないんだから扉の無い場所……」
神澤 真梨菜:「そんな場所なんて無いよ……」
幽霊を退治する術も探すべきものも分かり、呪いを解いて脱出できる可能性も見えて
来たのに立ちはだかる壁は大きく分厚かった。
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