第42話
俺は思い出した記憶を神澤に話した。
望月 愼介:「それで仲良くなって、冬樹のリハビリ付き合いながら麗奈の見舞いも行ってたんだ」
毎日行くようになり、会話をしてお互いを下の名前で呼ぶ仲になった。
それから麗奈の母親と麗奈の双子の妹である
望月 愼介:「麗奈はいつまで入院してんだって聞いたら、分からないって答えてさ。歩けないって言うけど足は平気そうに見えたから、俺がこっそりリハビリしてやるよって提案したんだ」
麗奈は先生に怒られる事を心配していたが、俺が支えながら最初は病室で床に足付ける練習をした。
冬樹のリハビリに付き合っていたので、見様見真似で麗奈のリハビリを行ったのだ。
望月 愼介:「麗奈は歩きたいって気持ちが強かったから、すぐに手助けなくてもその場に立ってられるようになったんだ。そしたら……看護師に見つかって怒られたんだ。看護師は麗奈が歩けないもんだと思ってたからな、危ないから止めなさいって」
でも看護師を麗奈と俺で説得して、担当医に内緒でリハビリに付き合ってくれることになった。
なぜ担当医に内緒なのかというと、看護師がそう提案してきたからだった。
『先生は、麗奈ちゃんが怪我しないように必死なんだよ。私は歩けるならリハビリした方が良いと思うけど、先生はリハビリのせいで病状が悪化しかねないって言ってるし。過保護というか贔屓というか……だから許可なく勝手にリハビリしてるのバレたら怒られちゃうから、先生には内緒ね』
麗奈は先生はとっても優しいと言っていた。
望月 愼介:「病弱だからと納得していたが、今思えば……何か別の意味があったのかもしれない」
神澤 真梨菜:「別の意味って過保護に対して?」
望月 愼介:「あぁ。過保護というよりは溺愛、かもな」
それから説得した看護師、俺、香奈、冬樹、誠也で麗奈のリハビリを続けた。
少しづつリハビリの成果が出ていた。
母親にその成果を見せると大喜びしていた。
望月 愼介:「でも隠し事なんていつまでも続かなくてな……こんな小せぇ病院だし、担当医にバレちまってさ。俺らでリハビリしてるのを先生に見られちゃったんだ」
廊下から病室内を覗く担当医の気配に気づかなかったのだ。
そんなことも知らずに翌日もリハビリをするため、放課後の時間に病院へ向かった。
今日はどれくらい歩けるようになるかな、と考えながら歩いていると病院の入り口に白衣を着た先生が仁王立で俺たちを睨んでいた。
担当医の坂巻先生だった。
俺は隠れてリハビリしているのがバレてしまったと悟る。
坂巻先生:「君は骨折でこの前まで入院していた深谷冬樹君だね。もう足は大丈夫そうだね」
深谷 冬樹:「あ、はい。もう大丈夫……です」
冬樹はおずおずと声を出す。
坂巻先生:「それから……君たちの名前は?」
坂巻先生の視線が俺と誠也に向けられる。
望月 慎介:「……望月、慎介です」
田所 誠也:「田所、誠也……です」
名前を言うだけで、こんなにも寿命が縮まる思いをするなんて思わなかった。
坂巻先生:「君たち、柳さんのお友達でもあるよね?」
望月 慎介:「は、はい。俺たち友達で……今日もお見舞いに来ました」
坂巻先生:「そんな必要はない」
坂巻先生の言葉に、その場の空気が凍り付く。
学校の先生に悪戯がバレて怒られる時よりも怖いと、俺だけでなく冬樹も誠也も思っていた。
望月 慎介:「な、何でですか……?」
俺は怒られる事をした自覚はあるが、リハビリが悪い事だとは思わなかった。
坂巻先生:「お前たちがリハビリなんてするから、柳さんの体調が悪くなっちゃってね」
子供に向けるような視線ではない、殺意にも似た冷酷な視線は小学生の鼻の奥をつんとさせるには十分すぎた。
坂巻先生:「帰れ。餓鬼ども」
俺達は言い返す事も出来ず、その日はお見舞いを諦めて真っ直ぐ家に帰った。
望月 愼介:「それで、俺がリハビリなんてやらなきゃ病状が悪化しなかったのにって、悪いと思って謝りに行ったんだ」
翌日、俺と冬樹と誠也の三人で再び病院に足を運んでいた。
謝って帰ろうと思っていたのに、坂巻先生は昨日と同じように入り口の前で仁王立ちしていた。
そんな坂巻先生の姿を視界に捉えて、ドクンと心臓が大きく跳ね、引き返したい衝動に駆られた。
坂巻先生:「また来たんだね、君たち」
相変わらず冷たい声で俺たちを睨む。
望月 慎介:「お、お見舞いに……来ました」
俺は震える声で目的を伝える。
坂巻先生:「その必要はないと昨日も言ったはずだよ、君たち」
望月 慎介:「で、でも俺のせいで体調が悪くなったんなら、謝ろうと思って……」
坂巻先生:「その必要もない」
坂巻先生は拳を握った。
望月 慎介:「な、なんでですか……?」
坂巻先生:「柳麗奈さんは……死んだんだ」
望月 慎介:「え!?」
深谷 冬樹:「うそ!?」
田所 誠也:「ッ!!」
衝撃の事態に俺たちはそれ以上、声が出なかった。
坂巻先生:「お前たちが……お前が殺したんだ!!」
坂巻先生は怒りに体を震わせ、俺を睨んだ。
きっと俺がリハビリを勧めた第一人者だと知ったのだろう。
坂巻先生:「この人殺しが。ワタシの病院に二度と来るな!」
親にもそんな大きな怒鳴り声を浴びせられたことは無い。
俺達は鬼の様な坂巻先生から逃げるように、一斉に駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます