第41話 古い記憶
望月 慎介:「冬樹! お見舞いに来たぜ!」
俺と誠也は看護婦さんに案内されて、冬樹が入院してる部屋に飛び込んだ。
田所 誠也:「クッキー持ってきた!!」
誠也と俺はベッドの隣に椅子を持ってきて腰を下ろした。
深谷 冬樹:「来てくれてありがとう。暇で死ぬかと思ったわ」
笑っている冬樹を見て、元気そうだと思った。
田所 誠也:「まだ痛む?」
誠也は下半身に掛けられた白い布団をチラリと見た。
深谷 冬樹:「昨日より全然痛くないよ」
冬樹はサッカークラブに入っていて、学校が終わると練習に行っていたので俺達と放課後に遊べない時が多々あった。
練習がない日は3人でゲームをしたり、サッカーやドッヂボールをして遊んでいた。
日曜日の練習試合、張り切っていたのにドリブル中にサッカーボールを踏んでしまい、転んでしまった。
そのせいで冬樹は右の足首を折ってしまっていたが、一昨日、手術をしたからもう心配ない。
田所 誠也:「早く治るといいな」
誠也の心配した声が、3人の空気を重くする。
俺はこういう暗い雰囲気が苦手だ。
望月 慎介:「あ! クッキー食べようぜ! 俺、ずっと食べたかったんだよ」
俺はケーキ屋で売っていたクッキーの袋を開けて、冬樹に差し出した。
深谷 冬樹:「ありがと!」
冬樹は笑顔で袋の中のクッキーをつまんだ。
冬樹が「冷蔵庫にジュースが入っているから飲もう」と言うので、3人で飲みながら学校であった出来事や、クラスのみんなが冬樹を心配している事を伝えた。
望月 慎介:「なぁ、隣にも誰か入院してんのか?」
俺は目の前に見えるカーテンの壁を指さした。
昨日の見舞いの時も、カーテンは閉まっていて声も聞こえなかった。
深谷 冬樹:「あぁ、女子が居るぜ」
田所 誠也:「え!? お前、女子と同じ部屋なのかよ!」
冬樹の返答に誠也が驚いて声を上げた。
望月 慎介:「いいなぁー」
俺は素直な気持ちを零す。
望月 慎介:「どんな子?」
俺はカーテンの向こう側に興味津々だった。
深谷 冬樹:「自己紹介したぐらいで……」
望月 慎介:「名前は?」
俺の食いつき具合に、冬樹は苦笑いした。
深谷 冬樹:「確か、何とか
望月 慎介:「ちゃんと覚えてないのかよ。よし! 友達になってくる!」
田所 誠也:「はぁ!? マジ言ってんの?」
誠也が立ち上がった俺を、しかめっ面で見上げた。
深谷 冬樹:「おい、止めろよ」
ベッドに座る冬樹にも行動を咎められた。
望月 慎介:「友達になればお前の入院生活も楽しくなるだろ?」
俺は遮るカーテンの前に移動した。
田所 誠也:「おいおい……その逆を考えろよ」
俺の背中を誠也は呆れた表情で見つめるが、そんなことは気にしない。
深谷 冬樹:「マジ入院してんの俺なんだから止めろって! 慎介!」
冬樹はそう言って俺の腕を掴むが、片腕で俺の事を止めることなどできず、俺はピンク色のカーテンを思いっきり開けた。
シャッとカーテンは開く音と、背後で冬樹と誠也の小さな悲鳴が重なる。
望月 慎介:「あ……」
俺はカーテンを開けて固まった。
窓から差し込む光に照らされて、少女は神々しく輝いて見えた。
白い肌に、対照的な黒くて綺麗な長い髪。
目は大きく、小さい鼻に、驚いて半開きになった唇。
ベッドに座っている少女と、目が合う。
望月 慎介:「……か……い」
少女:「え?」
無意識に呟いた俺の言葉に、少女は眉を寄せて首を傾げる。
思わず『可愛い』と呟いてしまったが、聞こえていないなら黙っておきたい。
変なものを見るような視線に耐えられなくなり、俺は「あ! ごめん!」と謝った。
そして視界に入る見慣れたものを指さした。
望月 慎介:「あ! 俺と同じ教科書!」
少女:「え?」
少女は驚いて自分が読んでいた教科書の表紙を見た。
望月 慎介:「……5年生なの?」
少女の言葉に俺は頷く。
望月 慎介:「同い年だな! 俺、望月慎介! お前、名前は?」
柳 麗奈:「私は、
望月 慎介:「麗奈、ね。よろしく!」
柳 麗奈:「うん……よろしくね!!」
麗奈は嬉しそうに笑った。
日記を読んで唐突に思い出したこの記憶は、『11歳の俺』と黒い少女の正体である『柳麗奈』との出会いだった。
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