第43話
望月 愼介:「……思い出せた」
何でこんな重要なこと、忘れていたんだ俺の脳は。
望月 愼介:「俺がリハビリしようなんて言わなきゃ、麗奈は生きてたかもしれない」
神澤 真梨菜:「……で、でもそれは望月さんが女の子を殺したことにはならないでしょ?」
望月 愼介:「いや、俺のせいなんだ。こんなこと忘れてたなんて……俺はあの男の言う通り、人殺しなんだ」
神澤 真梨菜:「で、でもっ」
望月 愼介:「これ見てくれよ」
俺は廊下で拾った『四つ葉のクローバーのしおり』を神澤に見せた。
望月 愼介:「この、四つ葉な。俺が麗奈に元気になってもらおうと探してきたやつなんだよ。しかも同じ場所に2つあってさ」
俺はしおりを指の腹で撫でる。
望月 愼介:「これで病気が良くなるよって渡したら、しおりにしてくれてさ。ひとつ渡してくれたんだよ。お守りだって。お揃いだからねって。それなのに……それなのに、俺は」
俺が殺してしまったと思い出せば、全てにおいて辻褄が合う。
俺の夢に出てきた事。
幻覚が見えた事。
俺にだけ気配が感じるようになった事。
担当医が俺を恨んでいる事。
望月 愼介:「ここの脱出方法として呪いを解けばって話、したろ? あれきっと、俺が死ねば」
神澤 真梨菜:「やめてよ!!」
俺の仮説を神澤が腕を掴んで止めた。
神澤 真梨菜:「大丈夫だよ! 望月さん! きっと呪いを解く方法は他にあるから!!」
神澤は俺の肩に両手を置いて、強く掴んだ。
神澤 真梨菜:「そりゃ女の子が亡くなったのはキッカケになったのかもしれないけど、望月さんが手を下したわけじゃないし! なによりここが廃病院になったのは殺人事件があったからでしょ!? 犯人見つかってないならその犯人見つけるのが脱出に繋がるんじゃないの!?」
長い爪が皮膚に食い込む痛みが、妙に心地よかった。
神澤 真梨菜:「確かに忘れてた記憶の内容はショックかもしれないけど、呪いを解くのに望月さんの命が必要だなんて事は絶対にない!! 死なせないよ!!」
真剣に怒鳴る神澤に俺は思わず、彼女の腕を掴んで自分の胸に引き寄せた。
神澤 真梨菜:「――えっ!? ちょっ!?」
俺の行動に神澤は驚いて、声が裏返っている。
望月 愼介:「わりぃ。情けなかったな、俺」
神澤を抱きしめる腕に力を込める。
神澤 真梨菜:「……そうだよ。すごくかっこ悪い」
神澤はため息を漏らしながら、俺の胸に額を押し当てた。
神澤 真梨菜:「反論してたら殴ってた」
望月 愼介:「……そりゃ、殴られなくて良かったわ」
自分の命と引き換えに脱出する案は捨てて、俺は新たな脱出方法を考える。
あの幽霊男の怨念を目の当たりにして、この廃病院は呪われているのだと確信した。
あとはどうやって、その呪いを解くかだ。
誠也は幼い頃に被害者と面識があったから未解決事件の犯人を突き止めるべく、殺人現場の病院に来ていた。
確か201号室が殺人現場で、遺体で発見された2人……。
麗奈は俺が勧めたリハビリのせいで、事件より前に亡くなっている。
なら殺害されたのは担当医と、麗奈の双子の妹である香奈なのか?
でもなぜ亡くなったあとに、香奈が病院に居るんだ?
俺は麗奈を死なせてしまったショックで脳が耐え切れなくなって、麗奈の記憶を病院ごと消してしまったらしい。
未解決事件なら当時の新聞やニュースにでもなっていただろうが、これ以上俺の引き出しから記憶は出て来なかった。
それとも、人殺しだと罵られて逆恨みした当時の俺が……。
神澤 真梨菜:「あの、も、望月さん……?」
望月 愼介:「あ? 今考え中だからあとに」
神澤 真梨菜:「いや、だからその……」
望月 愼介:「んだよ、神澤。はっきり言え」
神澤 真梨菜:「……離してください」
望月 愼介:「は?」
神澤 真梨菜:「だから、この腕を離してくださいッ!」
俺は考え事に夢中で、神澤を抱きしめていたことを忘れていた。
望月 愼介:「あぁ、わりぃ。つい、な」
俺は抱きしめていた腕を緩め、神澤を解放する。
神澤 真梨菜:「こんな所に居たら誰でもおかしくなるから、気にしてませんけど……急には止めてください」
望月 愼介:「じゃあ……言えば抱きしめてもいいのか?」
神澤 真梨菜:「なっ!?」
なんで敬語になってるのか指摘する代わりに冗談を言えば、神澤は俺から一歩退った。
懐中電灯の明かりだけではよく見えないが、きっと神澤の頬は赤くなっているだろう。
神澤 真梨菜:「そういうのは雰囲気とかでするものであって許可を得るものじゃないしカレカノがするものだしそもそも私たちはそんなんじゃないし!!」
息継ぎなしで慌てる神澤は面白い。
神澤 真梨菜:「そ、そんなことより、刑事さんの手帳を読み直そ?」
もう少しからかってみようと思ったのだが、神澤が本題に逃げてしまった。
望月 愼介:「お、神澤も俺と同じ考えか」
俺は廃病院で起こった未解決殺人事件を考えていたら、誠也の手帳を途中までしか読んでいない事を思い出していた。
神澤 真梨菜:「いや、望月さん口に出てたからね」
望月 愼介:「あ、そんなに夢中で考えてたのか」
神澤 真梨菜:「……いいから早く手帳見ようよ」
神澤は俺の手から懐中電灯を奪ったので、俺はポケットに入れていた誠也の手帳を取り出した。
神澤の持つ懐中電灯で手元を照らしてもらい、俺は手帳を広げて読み直し始めた。
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