第38話
望月 愼介:「……平気なのか?」
陣内:「はい。大丈夫です」
大丈夫だとは思えないが、時間が惜しいのは確かだった。
望月 愼介:「分かった。でもさすがに霊感があるのは俺だけだから、部屋を開ける所までは一緒に行く。探索は任せるから」
軽部:「分かりました。探索は俺たちに任せてください」
軽部は陣内の肩を叩いて、胸を張った。
軽部:「望月さん、今、嫌な感じします?」
トイレの壁を見透かすように、軽部は視線を彷徨わせた。
望月 愼介:「逃げてる途中に消えたみたいで、この部屋に入るときには無くなってた。外出るなら今の内だな」
神澤 真梨菜:「じゃぁ、そろそろ移動しよ。逃げ場を増やしながらの方が探索しやすいし」
陣内:「そうですね、行動範囲も広がりますし。望月さん、ご指示を!」
神澤の言葉に頷いた陣内は、俺を見上げた。
俺は陣内と軽部に指示を出すため、持っている鍵束から探索してもらいたい部屋を選ぶ。
病室以外の鍵は、診察室1・2、リハビリルーム、更衣室、霊安室、手術室、準備室。
望月 愼介:「そうだなぁ……リハビリルームか更衣室だな」
手の中の鍵束を見つめながら、二人が探索しやすいように選択肢を絞る。
神澤 真梨菜:「更衣室って患者向けのものじゃないから、案内板には載ってないけど、誰かどこにあるか知ってる?」
神澤は全員に問いかけるが、知っている者は居なかった。
望月 愼介:「なら、お前らにはリハビリルームを探索してもらう」
当たり前のことだが、どこか分からない更衣室を探して開けるより場所が分かっているリハビリルームに行くのが安全だ。
轟チャンネルの2人:「わかりました」
2人は頷いた。
望月 愼介:「俺たちは別の部屋を調べるけど、お前らは扉を開けるな。ノックして俺が名前を呼ぶまで絶対に開けるなよ」
トイレから移動してリハビリルームに陣内と軽部を連れて行く。
望月 愼介:「カギ閉めろよ。後で迎えに来る」
軽部:「分かりました。お願いします」
軽部の返事を聞いてから、俺と陣内はリハビリルームから離れた。
神澤 真梨菜:「私たちはどこ調べるの?」
目的地に向かって足を進めている俺に、神澤は首を傾げながらついて来る。
望月 愼介:「まだ開けてない診察室があっただろ? そこを調べようと思っててな」
神澤 真梨菜:「あぁ、同級生が亡くなってた部屋の左隣ね。トイレから近い診察室より、少し離れたリハビリルームをあの子たちに任せたって事は、ここを自分で調べたかったんだね」
診察室1の扉の前に立って神澤は得意気な顔をする。
望月 愼介:「よく分かったな。少し気になる事が出来たからな」
鍵束の中から診察室1の鍵を取り出して鍵穴に差し込み、部屋の中に入った。
神澤 真梨菜:「気になる事って?」
神澤は初めて入る部屋を自分のスマホのライトで照らして見回す。
望月 愼介:「血だまりから出てきた、あの男。どんな感じか覚えてるか?」
俺は診察室に置いてある机を調べる。
神澤 真梨菜:「えっと……半透明で、気持ち悪くて。ゾンビみたいに蛆沸いてて……あと、気持ち悪い体に白衣羽織ってた、と思う」
神澤は俺が調べている机の反対側に設置された本棚を物色しながら、男の姿を思い出してその手を止める。
望月 愼介:「そう、白衣。白衣って誰が着てるものか分かるだろ?」
神澤 真梨菜:「……病院の、先生」
望月 愼介:「そう。だから俺は診察室1に来たんだよ。あの男が先生なら、死んだ理由が隠れてるかもしれねぇってな」
神澤 真梨菜:「……死んだ、理由か」
神澤はあの男の言葉を思い出し、振り返ってスマホのライトを俺の背中に当てる。
望月 愼介:「お前、俺を疑ってんのか?」
俺は振り返って懐中電灯のライトを、下から顔に当てた。
神澤 真梨菜:「そ、そういうわけじゃなくて!!」
神澤は図星だったのか、慌てて首と手を横に振った。
スマホのライトがあちこち乱暴に照らす。
望月 愼介:「疑われるのは仕方ねぇよな」
神澤 真梨菜:「……望月さん」
望月 愼介:「あんな恨んだ顔で‟お前が殺したんだ”って言われて、身に覚えがなくても自分を疑ったさ」
神澤 真梨菜:「望月さん」
望月 愼介:「もしかしたら俺は覚えてないだけで本当に殺し――」
神澤 真梨菜:「望月さん!」
『殺したのかもしれない』と言い終える前に、神澤が俺の名前を呼んで言葉を遮った。
神澤 真梨菜:「そういうわけじゃないって言ったでしょ!? 私は望月さんが人殺しをするなんて思ってないよ! ただ私は、いちゃもん付けてくる男の死因は何だろって思っただけだよ!!」
ぜぇぜぇと、肩を上下に動かし俺を睨み上げて荒い呼吸を繰り返す。
神澤 真梨菜:「ちょっと乱暴だったり少し意地悪な所あるなって思うけど、本当は優しくて面倒見が良くてカッコイイの知ってるし! ……私は望月さんの事信じてるから!!」
少々キレ気味だが言葉の節々に、俺に対しての絶対的な信頼を感じた。
‟良い女”に見えたのは黙っておこう。
望月 愼介:「……ありがとな、神澤。一緒に閉じ込められたのがお前で良かったわ」
心の底からそう思った。
もし、他の人間が一緒だったら怖がられていたかもしれない。
神澤 真梨菜:「……いいから、探索するよ」
下唇を噛んで神澤は素っ気なく言い捨て、棚の物色を再開した。
望月 愼介:「可愛くねぇなぁ……」
ふっと笑った俺も机の探索を再開する。
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