第39話


オフィスや学校の職員室にあるようなスチール机には、古いパソコンが一台置いてあった。


望月 愼介:「久し振りに見たなぁ」


子供のころ、親父が使っていたのを思い出す。


望月 愼介:「触ろうとして、怒られたっけなぁ」


クリーム色のブラウン管テレビのような大きなパソコンにも、机と同じように埃が残っていた。


試しに本体の電源ボタンを押してみたが、パソコンは起動しなかった。


次はフロッピーディスクを出すために、電源とは別のボタンを押す。


楕円形のボタンを何度か押したが、フロッピーディスクは出て来なかった。


望月 愼介:「神澤、フロッピーディスクってパソコンの電源入ってないと出て来なかったっけ?」


20年、それ以上前のパソコンの知識は無かった。


神澤 真梨菜:「えっと、確かフロッピーディスクは電源入ってなくても出し入れできるよ」


神澤は手にした本をパラパラとめくりながら答えた。


望月 愼介:「だよな、しばらく使ってないから忘れちまってよ」


神澤 真梨菜:「小学校のパソコンの授業で習ったから何となく覚えてたけど、時代的にフロッピーディスクなんて使わなくなったもんね」


望月 愼介:「俺らの時代はパソコンの授業なんて無かったからな……」


思わず昔を思い出してしまったが、今はそんな時間ではなかった。


フロッピーディスクが入っていれば何かヒントになるんじゃないかと思ったのだが、空だったのでパソコンの調べる所は無くなった。


次は引き出しに手を伸ばす。


机の左側にい一番薄い引き出しが1つ、右側の机には縦に並ぶ引き出しが3つ。


全部で4つの引き出しがあった。


俺は左側の一番薄い引き出しを開けた。


中には診療録と書かれた白紙の書類が束になって入っていた。


診察した患者の症状を書き留める書類だ。


手に取ってめくってみると、体や手足の絵が描かれた診療録など何種類かあった。


でもそれ以外に目ぼしいものは無いので、引き出しを閉じた。


次は右側の、一番上の引き出しを開けた。


中には文房具が入っていた。


鉛筆や使いかけの消しゴム、色あせた付箋に万年筆、病院の名前のゴム印、赤や青の朱肉。


そして錆び付いたハサミが入っていた。



◇◇◇


入手アイテム

『錆び付いたハサミ』を手に入れた


◇◇◇



望月 愼介:「ハサミがあった、これでガムテープの塊は何とかなりそうだな」


神澤 真梨菜:「やったー!」


神澤は本棚から離れて俺の隣に立ち、俺が見つけたハサミを覗き込んだ。


神澤 真梨菜:「赤錆が付いちゃってるね……大丈夫かな?」


望月 愼介:「まぁ、頼りないけど紙を綺麗に切るわけじゃないんだから大丈夫だろ」


残りの引き出し2つも確認したが、記入してある診療録や担当している患者のカルテのファイルなどが入っているだけだった。


望月 愼介:「本棚の方は何かあったか?」


神澤 真梨菜:「先生の日誌とかプライベートに関する日記みたいなのがあれば良いなって思ったけど……」


望月 愼介:「何もなかったのか」


神澤 真梨菜:「うん、他にも診察用のベッドとか背の低い棚とかも調べたけど収穫は無かったかな」


残念そうに神澤は溜め息をついて、大事に抱えていたガムテープの塊を埃が積もった机の上に置いた。


望月 愼介:「さて、この頼りないハサミでガムテープ切ってみるかな」


俺はハサミの刃の先端をガムテープにあてがい、カッターのようにして使う。


ハサミは錆び付き、しかもカッターのような薄い刃ではないので、簡単には切れなかった。


ガリガリとガムテープを削るように、同じ個所を切り続けた。


やがてガムテープに切れ目ができる。


望月 愼介:「おぉ、切れたぞ」


俺は小さな切り口を大きくする。


中のものと密着しているため、相変わらずハサミはカッターのように使用した。


望月 愼介:「とりあえず、端から端まで切れたな」


神澤 真梨菜:「でもこれじゃ、傷付けただけみたい」


望月 愼介:「切れ目が出来たから剥がしてみるか」


俺はハサミの切っ先で切ったガムテープを少し剥がし、つまみを作る。


俺はハサミを置いて、作ったつまみを親指と人差し指を使って引っ張った。


だが粘着力が強く、小さいつまみしか作れなかったため、なかなか上手く引っ張れなかった。


神澤 真梨菜:「貸して。私、爪長いから」


そう言って手を出してきた神澤に、俺はガムテープの塊を渡す。


受け取った神澤は、親指と人差し指の爪で器用につまみを引っ張り上げた。


ベリベリとガムテープがゆっくりと剥がれ始める。


長い時間、中のものにガムテープが密着していたため剥がすのは容易ではなかったが、交代しながら全てのガムテープを剥がした。


神澤 真梨菜:「手がベタベタになっちゃったよ……」


望月 愼介:「これ使え」


俺はウェットティッシュを差し出した。


神澤 真梨菜:「あぁ、そういえば持ってたね」


望月 愼介:「今持ってること思い出してな」


俺と神澤は血と粘着剤が付着した両手を拭いた。


神澤 真梨菜:「それってさ」


手を拭き終わった神澤は、ガムテープで隠されていたものを見下ろす。


望月 愼介:「本だな」


出てきたのは、辞書の様に分厚い日記だった。


表紙に貼られたガムテープは剥がせなかったが、日記が開けるように邪魔な部分はハサミで切断した。


神澤 真梨菜:「誰の日記か分かんないけど、201号室にあったんだから被害者のものなんじゃない?」


望月 愼介:「そうだろうな。隠してるってことは犯人の事でも書いてあるんじゃねぇか?」


神澤 真梨菜:「犯人が分かれば呪いが解けて脱出できるかも!」


俺たちは期待を込めて、日記の表紙をめくった。




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