第34話
神澤 真梨菜:「えっと……待合室のソファだよね?」
神澤は待合室の案内板と、青い小箱の底を見比べる。
望月 愼介:「とりあえず、ソファの裏を確認してくれ」
俺は緑色が位置するソファを、他の三人は赤色が位置する各ソファを確認する。
俺はソファの裏を覗き込み、何か無いかと視線を這わした。
だが何も見つからなかった。
ソファの背もたれや肘掛け、埃っぽいクッションの隙間に指を突っ込んだりもした。
望月 愼介:「……俺の見当違い、なのか?」
最早俺にはソファの位置を示す紙にしか見えないのに、他の意味を持つとしたらお手上げだった。
俺は謎解きが苦手なんだ。
陣内:「望月さん、ありました!」
入口から見て、左側の真ん中のソファを調べていた陣内が俺に声を掛ける。
望月 愼介:「本当か!?」
頷いた陣内の手には一枚の紙きれが握られていた。
神澤 真梨菜:「こっちもあったよ」
今度は右側の真ん中を調べていた神澤が、ひらひらと紙きれを見せてきた。
望月 愼介:「軽部、そっちはどうだ?」
同じ赤色が位置するソファを調べている軽部に声を掛けるが、彼は顔を上げて首を振った。
望月 愼介:「……なんで二人が見つかって、他は見つからねぇんだよ」
神澤 真梨菜:「もしかしたら、位置が反対なのかも」
望月 愼介:「反対?」
神澤は俺に小箱を手渡した。
神澤 真梨菜:「見る上下が逆なのかも」
神澤にそう言われて、俺は見ていた小箱の底を180度回転させた。
望月 愼介:「そうなると、軽部が本来見るべきなのは、ここか」
俺は自分が調べていた左隣のソファに視線を移す。
俺は左隣に移動して、屈んでソファの裏を確認した。
すると神澤や陣内が握っていたものと同じ紙切れが、ソファの裏に貼り付いていた。
引き剥がして立ち上がると、軽部は診察室1の前に設置されたソファから紙切れを見つけていた。
望月 愼介:「とりあえず揃ったか」
受付カウンターに小箱と、各々がソファから引き剥がした紙切れを並べる。
折り紙を四等分にしたような大きさの紙切れには、それぞれ『Ⅴ』『Ⅰ』『Ⅶ』のローマ数字が書かれていた。
軽部が発見した紙切れは内容はメモのようなものだった。
『G E A』
軽部:「やっぱ緑の所は違う意味だったか……」
望月 愼介:「おいおい……また謎解きかよ」
俺はお手上げだというように頭を乱暴に掻いた。
陣内:「いや、これそんな難しくないですよ」
陣内が紙切れを見つめながら言った。
陣内:「まずⅤ・Ⅰ・Ⅶはローマ数字で、数字に直すと5・1・7になります」
陣内は紙切れに手を伸ばしながら口を動かす。
陣内:「それでこの英語は数字の順番を表しています。A、B、C、D、E、F、G……Aは1、Eは5、Gは7」
陣内はメモのアルファベット順に数字の紙切れを並べていく。
望月 愼介:「7・5・1……になるのか」
俺は受付カウンターに並んだ数字を読み上げた。
神澤 真梨菜:「やってみるね」
神澤は小箱を手に取り、ダイヤルを回す。
カチッ……
三つ目のダイヤルを1に合わせると、手応えのある音がした。
陣内:「やった!」
見事に数字とその順番を当てた陣内は、鍵が解除できたことに喜びの声を上げた。
神澤は、俺の顔を見てから小箱の蓋を開けた。
神澤 真梨菜:「やった! 鍵だ! しかも束! ……あと紙が入ってる」
◇◇◇
入手アイテム
『鍵束』を手に入れた
◇◇◇
神澤は小箱の中身を取り出して、受付カウンターに並べた。
複数の鍵が紐で束ねられたもの、そして小さな文字が描かれた紙切れ。
望月 愼介:「何が書いてあんだ?」
折りたたまれたメモを手に取る。
綺麗な文字は女性を連想させた。
おそらくここで働いていた看護婦が書いたものだろう。
俺は手に取って文字を読む。
『最近鍵が無くなっています。うっかりなのか意図的なのかは分かりませんが、使用後は受付の壁に掛けるのではなく、この箱に戻すようにしてください。注意:情報漏洩を防ぐ為、番号のメモは書き残さないでください。他の方に聞くのも厳禁です。忘れた場合はヒントを元に自力で解読してください』
望月 愼介:「……だそうだ。とりあえずこれで昌暉が居る部屋を開けられるな」
神澤 真梨菜:「それに窓が割れてるから、三人は逃げられるね」
良かったね、と神澤は陣内に笑いかける。
陣内:「あの、本当にお二人はここに残るんですか?」
神澤の言葉に、陣内は苦しそうに言葉を返した。
神澤 真梨菜:「うん、私たちはここに残るよ。ね? 望月さん」
神様は俺を見上げて同意を求める。
望月 愼介:「そうだな。田所の無念も晴らさねぇといけねぇからな」
俺は独りで骨になった田所を思う。
軽部:「日が昇ったら、三人で迎えに来ますから! それまで無事でいてください」
軽部は俺たちを心配してくれた。
望月 愼介:「お前らも山降りる時、気を付けねぇと怪我するからな」
四人の緊張が少しだけ解けた瞬間だった。
唯一の脱出口である割れた窓へ、あともう少しで辿り着けるのだ。
未成年の轟チャンネルの三人は安全な外へと逃げ出せる。
もう命が危険に晒されることはない。
なのに、妙な胸騒ぎがするのはなぜだろうか?
昌暉が206号室に居ないかもしれないと思っているからなのか。
それとも、もっと別の予想外の展開が待っているかもしれないという不安からか。
望月 愼介:「……とりあえず、鍵開けて昌暉と合流するぞ」
昌暉は黙って隠れているだけだと自分に言い聞かせて、俺たちは再び二階へ向かった。
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