第32話 


俺と神澤で辺りを警戒しながら、見張りをする。


その背後で懐中電灯を持った陣内と軽部は、二階の受付で206号室の鍵と刃物を探していた。


神澤 真梨菜:「ねぇ、望月さん」


望月 愼介:「ん?」


意識を集中させながら、声を掛けてきた神澤に視線を向ける。


神澤 真梨菜:「……私たち、どうなっちゃうんだろうね」


ため息交じりの言葉に、すぐに返事はできなかった。


そんなの俺にだって分かるわけがない。


この中では男の俺が最年長で、こいつらの先頭に立つ役目なのは理解しているが、霊がうろつく廃病院からの脱出方法なんて分からなかった。


神澤 真梨菜:「望月さんも、分かんないよね……」


上手く言葉を返せないでいると、神澤は力なく笑った。


望月 愼介:「この廃病院で何があったか分かんねぇけど、まずは脱出方法を探さないと、あいつらが危険だ」


神澤 真梨菜:「そうだよね……」


望月 愼介:「神澤、俺はずっと考えてることがあるんだけどな……」


度々現れる、少女の霊。


警察官だった同級生の、死。


割れない、窓。


突然手に入れた、霊感。


幼少期の、謎の記憶。


そもそも来た事の無い廃病院の存在を知っていた、俺。


望月 愼介:「神澤、俺はもしかしたら、ここに来たことがあるのかもしれない」


それは俺が導き出した可能性だった。


四つ葉のクローバーの栞に触れた時に、唐突に蘇った記憶。


白いベッドがある部屋……あれはどこかの病室だ。


でも俺は入院した記憶も無いし、母親からそんな話も聞いていない。


おそらく入院していたのは栞を受け取った少女で、俺は見舞いに行っていたのだろう。


その病院が、もしかしたらこの廃病院なのかもしれない。


そんな俺の仮説を神澤に話した。


神澤 真梨菜:「じゃぁ、何度も現れてるのは、その少女ってこと?」


望月 愼介:「もしかしたら、そうかもしれない。殺人事件に巻き込まれた少女は殺されて……。そしたら田所がここに来た理由と辻褄が合うしな」


俺は一階の診察室で白骨化遺体になってしまった同級生の田所誠也を思い浮かべる。


神澤 真梨菜:「その事件があったのは201号室でしょ? もしかしたらこのガムテープの塊、何かの鍵になるかもね。ガムテープの下に何が隠されてるのかは分からないけど」


神澤は両手で持っているガムテープの塊を見下ろす。


望月 愼介:「ちょっと貸してくれ」


俺は神澤からガムテープの塊を受け取った。


分厚い塊は、重く、大きさは文庫本ほどだった。


辞書みたいなものなのか、それとも何かが入った箱なのか。


振ってみても、音はしない。


更に何かが入っているわけではなさそうだ。


引き出しの天井に隠してあったのだから、何か見つかってほしくない物なのは間違いないだろう。


望月 愼介:「爪で剥がせないから、やっぱりカッターとか刃物がないとだめだな」


神澤 真梨菜:「車の鍵、持ってない?」


望月 愼介:「あ、確かに」


俺はズボンのポケットから車の鍵を取り出した。


そして鍵の先端でガムテープを切り裂こうとガリガリ削ってみるが、白く跡を残すだけだった。


何年も貼り付いているガムテープは密着度が高く、まるで一枚の大きなテープのように剥がれる気配がしなかった。


望月 愼介:「ダメだな」


神澤 真梨菜:「カッター見つけるまでダメだね。無理に剥がして中のが壊れたら困るし」


望月 愼介:「そうだな」


俺は神澤にガムテープの塊を返した。


俺は振り返り、受付のカウンターの内側に居る陣内と軽部に声を掛ける。


望月 愼介:「なんか見つかったか?」


俺の声に二人は顔を上げる。


だがその顔は眉をハの字にして、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


望月 愼介:「何もなかったのか……」


軽部:「いや、そーゆーわけじゃないんですけど」


表情から空振りだと読み取ったが、軽部が首を振った。


そして受付のカウンターに青色の箱を置く。


望月 愼介:「なんだ、これ?」


俺と神澤は置かれた青色の箱を覗き込む。


小さな箱にはダイヤル式の鍵が付いている。


手に取ると、カランっと中から音が聞こえた。


望月 愼介:「なんか入ってんな」


神澤 真梨菜:「鍵かもよ?」


神澤も耳を澄ませて箱の中の音を聞く。


青色の塗料で染まった木製の箱は、金色の線が縁取っていて、可動する金具もダイヤル式の鍵も金色だった。



◇◇◇


入手アイテム

『青色の箱』を手に入れた


◇◇◇



ダイヤル式の鍵は、三桁の数字で解錠されるらしかった。


神澤 真梨菜:「望月さん、開けられそう?」


神澤は挑発的に俺を見た。


望月 愼介:「それは数字が分かるかって話か? それとも力尽くで開けられるかって事か?」


神澤 真梨菜:「どっちもだよ。でも1000通りの数字から探すより、ドアノブ壊した望月さんなら力尽くで開けられるんじゃない?」


望月 愼介:「さすがに箱が小さくて上手く力が入んねぇよ」


俺は青色の小さな箱を神澤に渡した。


神澤 真梨菜:「床に叩きつけたら壊れそうだけど、そんな事するのは危ないもんね。何かヒントはないかぁ……」


神澤はそう言いながら箱を色々なアングルで眺め始める。


望月 愼介:「刃物は無かったか?」


俺は神澤を見る陣内に声を掛けた。


陣内:「ボールペンとか文房具は転がってたんですけど、カッターとか刃物になりそうな定規も無かったです」


望月 愼介:「じゃぁ今はこの箱開けるのが先か」


ガムテープの塊の正体はまだ分かりそうになかった。


神澤 真梨菜:「あ! ねぇ! これ見て!!」


興奮気味に小さな声を出し、観察していた青色の箱を俺に突き付けてきた。


望月 愼介:「な、なんだよ……」


俺は神澤が指をさす、箱の底に視線を向けた。


望月 愼介:「なんだ、これ……」


箱の底には紙が貼られていた。




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