第20話 陣内視点・昌暉視点
陣内:「いやぁぁぁあああああっ」
私は突然背後に現れた黒い少女に悲鳴を上げる。
何かに弾かれた様に、その場にいた全員が走り出した。
望月 愼介:「お前ら!」
望月さんは何か叫びながら神澤さんの手を引いて、私たちに背中を向けた。
1階に5人で隠れられる場所は無い。
そんな事は嫌でも分かるのに、見捨てられた気がした。
遠ざかる2人の背中がスローモーションのように見える。
軽部:「早く!」
軽部が私に向かって叫んでる声が聞こえた。
切なさが込み上げて動けなくなった私は、強い力で小さな部屋に引き込まれた。
黒い少女が現れてからは一瞬の出来事で、脳が状況を理解するのに時間が掛かった。
軽部:「ここなら大丈夫なはずだから」
上から軽部の声が聞こえる。
陣内:「ト……トイレか」
軽部:「望月さんが『扉がある所に逃げ込め』って言ってたから」
私が聞き取れなかった言葉を、軽部が早口で教えてくれた。
最初に少女から隠れた時も、1階のトイレだった。
逃げ切れた結果が出ている部屋と、軽部の腕の中は私をすごく安心させた。
私は独りじゃない。
私には軽部と昌暉と……。
陣内:「昌暉はッ!?」
◇昌暉視点◇
望月 愼介:「お前ら! 扉のある所に逃げ込め!!」
望月さんと一瞬だけ目が合った。
『2人を任せたぞ』
そう言われた気がした。
1階に扉が開いている部屋は診察室2とトイレだけだ。
そして逃げ込めるのは必然的にトイレだけになる。
僕は軽部と陣内が逃げ込んだトイレに走り出す。
だが、信じられない事に、トイレの扉は僕が入る前に閉められてしまったのだ。
開けてくれと言っている時間は無く、僕は望月さんの背中を追って2階へ向かった。
僕の後ろを、すーっと音も無く追い掛けてくる少女と距離をあけながら階段を上り切った。
そして201号室に入る2人とは違う部屋に駆け込んだ。
僕たちが廃病院に侵入した時の部屋である。
扉を閉めて、内側からカギを掛ける。
昌暉:「はぁ……はぁ……」
扉に背中を擦り付けながら、その場に崩れ落ちる。
2度も黒い少女に追い掛けられて、神経がおかしくなりそうだ。
気配を感じ取れる望月さんから声が掛かるまで、ここで休もう。
ヒュ~~~……
昌暉:「ん?」
やけに大きく聞こえる風の音。
僕は顔を上げた。
昌暉:「ッ!!」
そうだ!
この部屋は窓ガラスが割れているのだ!
外と繋がる唯一の部屋。
昌暉:「やった!!」
立ち上がって窓に駆け寄ろうと、右足を前に出した。
だが左足が動かなかった。
僕だけで脱出して良いのか?
まだみんな居るんだぞ?
そう思うと2歩目が出なかった。
昌暉:「いや、でも……」
チャンスは今しかない。
これはゲームじゃないのだから、自分の命は1つ。
セーブもロードも存在しない。
昌暉:「そ、そうだ……気配が消えた時に」
それなら全員で脱出できる。
暗くなってしまったが、5人いれば山を下るのも何とかなるはずだ。
昌暉:「早く望月さん来ないかなぁ……」
ドンッ!
昌暉:「ひぃッ!?」
ガチャガチャガチャガチャガチャ……
乱暴にドアノブが回されている。
昌暉:「も、望月さんッ!?」
上ずった声で扉の向こう側に問い掛けるが、返事は無かった。
昌暉:「クソッ!」
黒い少女だと確信した。
僕はガラスが割れている窓に駆け寄り、窓の淵に足を掛けた。
昌暉:「この部屋に逃げ込んで正解だったな」
僕は窓を突き破った木の枝を掴み、廃病院の外に出た。
昌暉:「よし、脱出……成功」
地に足を付け、僕は安堵の溜め息を漏らす。
スマホのライトを点けて、僕は走り出した。
昌暉:「助けを呼んで必ず戻ってきますから!!」
僕は振り返り、暗闇に浮かび上がる廃病院に向かって叫んだ。
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