第18話


俺は目の前の光景を、ただ疑う事しかできなかった。


昌暉:「え……」


昌暉は眼鏡の奥の目を大きくして、俺と白骨化した誠也を交互に見た。


昌暉:「な、なんでこんなところに……」


震える唇で絞り出した問いに、俺は答えられなかった。


望月 愼介:「この前、飲み誘ったのに連絡取れなかったんだよ。死んでんじゃね?ってふざけてたら、マジで何年も前に死んでたのかよ。しかもこんな所に閉じ込められちまって……」


俺は立ち上がって、吹き飛ばしてしまった頭蓋骨を持って戻る。


望月 愼介:「痛かったよな、わりぃ……」


繋がる事も生き返る事も無いが、本来あるべき場所に頭蓋骨を戻した。


手を合わせて、問いかけた。


望月 愼介:「(お前は何でここに居るんだ?)」


望月 愼介:「(いつから閉じ込められてた?)」


警察の誠也が意味も無く、こんな廃病院に来るはずがない。


何か事件に巻き込まれたのかもしれない。


きっとそれが分かる鍵は、この白骨化した遺体に残されているはずだ。


俺は記憶にある誠也の面影ひとつないミイラに手を伸ばした。


抉れた腹に乗るドアノブを退かして、俺はコートを合わせ目をめくった。


少しの重さを感じて内ポケットを見ると、懐中電灯と手帳が入っていた。


試しに懐中電灯のスイッチをONにする。


望月 愼介:「そりゃ点かねぇよなぁ」


蓋を外すと電池は入っていなかったが、単三電池が一本必要だと分かった。



◇◇◇


入手アイテム

『空の懐中電灯』を手に入れた

『誠也の手帳』を手に入れた


◇◇◇



望月 愼介:「どっかで電池あれば使えるかもしんねぇな」


俺はポケットに誠也の懐中電灯を入れた。


望月 愼介:「昌暉、これで俺の手元照らしてくれ」


昌暉:「……分かりました」


昌暉に俺のスマホを渡して、誠也の手帳を広げた。


望月 愼介:「日付とか書いてありゃな……」


誠也がいつまで生きていたか分かるかもしれない。


パラパラと親指の腹でページをめくり、最後のページを探した。


望月 愼介:「あ、あった……」


手帳の真ん中ほどが、メモが記載されている最後のページだった。


望月 愼介:「日付は……あ、これだ」


【20xx.10.7】


それは今から5年前の日付だった。


『きっと今日、俺は死ぬ』


震えるボールペンの線で、衰弱していた誠也の苦しさが容易に想像できた。


26歳で命を失くすのは早すぎる。


俺は誠也が苦しんでいる間、何も知らずに過ごしていた。


しばらく連絡をしていなかったので、久しぶりに会おうと深谷と飲む日に連絡を入れていたが、電源が入っていないとアナウンスが流れ、結局二人だけが集まっていた。


もっと早く会おうと思っていたら、助け出せただろうか?


俺は誠也の身に何が起こったのか調べる為に、手帳の最初のページに戻った。


【20xx.7.25】


『俺はこれから、木々に囲まれた廃病院に向かう。

そこは15年前までやっていた病院だが、殺人事件があり廃病院と化している。

この事件は未解決事件で、子供の頃に俺たちと被害者は遊んだこともあり、他人事には思えず、何かヒントが無いか調べてみようと思う』


望月 愼介:「俺たち……?」


『山道を走行中、木が道を遮っていたので乗り捨てるわけにもいかず、バックで来た道を戻り、徒歩で山道を登った。

廃病院に辿り着いたのは夕方だった』


『俺の記憶とは異なる建物に、思わず足を止めてしまった。

病院の看板は無く、白かった外壁も汚れていた。

だが不思議な事に落書きは無く、窓ガラスが割れている所は見当たらない。

汚れてはいるが荒らされた形跡は無いようだ』


『花壇の中に鍵が落ちていた。

入り口の扉に鍵が掛かっていたので試しに差し込んだ。

開いた。

鍵は花壇に戻して中に入った』


『殺人現場である201号室は15年前の悲劇のまま、時が止まっていた。

ベッドや壁に染み込む血痕。

ここで遺体となって発見された被害者の2人。

俺たちと遊んで楽しそうにしていたのを思い出すと心が痛い』


望月 愼介:「被害者が二人……?殺されたのは少女一人じゃないのか?」


俺たちの前に姿を現したのは黒い少女一人だ。


殺されたのは2人でも悪霊と化したのは少女だけなのかもしれない。


『先ほどから、視線を感じる』


『黒い少女が出た』


『診察室に逃げ込んだ。少女は扉を通過できないようだ』


『「探して」と言っている』


『気配が消えたのが分かる。

俺に霊感は無いはずなのに』


望月 愼介:「誠也も、感じ取れてたのか……」


『怖い。

早くここを出よう』


『扉に鍵が掛かっていた。

窓ガラスは割れない。

俺は閉じ込められてしまった』


望月 愼介:「割れないだって!?」


俺はそこまで読んで、手帳を閉じた。



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