第17話
昌暉にはその考えが無かったのか、とても驚いている。
望月 愼介:「出口は無理だが、木製の扉に付いたドアノブなら俺の力でも壊せんだろ」
陣内:「で、でも物音で、その……あの幽霊、来ませんかね?」
軽部:「ってか廃病院だからって、壊さない方が……。祟りとか……」
ビデオカメラを構える軽部は怯える陣内を煽る。
陣内:「こっ、怖がらせないでよッ!」
軽部:「幽霊が来るって言ったのはお前だろ。俺は他の可能性を」
望月 愼介:「デカい声出すな」
陣内:「す、すみません……」
軽部の謝罪を待ったが、口を開く気配が無いので、俺は言葉を続ける。
望月 愼介:「まぁ色々思う事はあると思うが、カギ探すのにうろうろしてる方が危ないだろ? それに……」
俺は振り返って、廊下に並ぶ窓を指さす。
窓の外はオレンジ色から闇夜に変わりかけていた。
木々に囲まれているせいで、夏だというのに太陽の光は早々に奪われている。
今すぐにでも山を下りなければ、運転が危なくなってしまう。
望月 愼介:「時間が無い。この部屋に何も無きゃ、外したドアノブ叩き付けて脱出すんぞ。いいな?」
神澤 真梨菜:「うん」
轟チャンネルの三人:「はい」
黒い少女の気配は無い。
どうして分かるのか理解できないが、今は必要不可欠な力だ。
望月 愼介:「じゃぁドアノブ外してみっから。いつでも逃げられるように周り気にしとけよ」
俺は一歩前に出て、ドアノブを両手で掴んだ。
そして力任せに上から体重を掛けて押した。
メキメキと木製の扉とドアノブの結合部分が音を立てる。
手応えを感じて、更に力を込める。
奥歯を噛み締め、両手が赤くなるほど力を入れた。
メキメキ……メキメキ……ガゴッ!
扉が劣化していたおかげか、簡素な造りだったのか。
ドアノブは外れ、扉に穴を開けた。
望月 愼介:「思ってたより、簡単に外れたな」
俺はドアノブを見せびらかすように振り返る。
昌暉:「さすがッス!」
目を輝かせる昌暉は俺の隣に立って、外れたドアノブと扉の穴を交互に見つめた。
陣内:「き、来てないッ!?」
陣内は慌ただしく辺りを見回す。
神澤 真梨菜:「だ、大丈夫だと思うけど……ねぇ、何も感じない?」
陣内の背中を摩っている神澤が心配そうに俺を見上げる。
望月 愼介:「あぁ、今は大丈夫だ」
大きな音は出なかったので、不吉な気配は近付いてこなかった。
陣内:「よ、良かったぁ……」
陣内の肩の力が抜けた。
望月 愼介:「よし、さっさと中調べて帰るぞ」
俺は右手に外れたドアノブを持ったまま、左手で扉を押した。
ガッ……
指先で軽く押したが、扉の前に何かがあるようで跳ね返された。
ほんの少しの隙間から見えた何かは、暗くて正体が分からなかった。
神澤 真梨菜:「開かないの?」
神澤が心配そうに問う。
望月 愼介:「あぁ、何かが邪魔で。猫でも死んでんだろうな。でも押せば開くと思う」
軽部:「確かにドアノブ外した時、反対側のドアノブが落ちた音しませんでしたね」
軽部の言う通りだった。
俺の右手にドアノブは1つしかないので、当然反対側のドアノブもあるはずだ。
軽部:「僕も押すの手伝うッス」
昌暉は前に出て、扉に両手をついた。
望月 愼介:「じゃぁ、いくぞ」
俺と昌暉はグッと手に力を入れて、扉を無理やり押し開けた。
俺は猫の死骸や椅子などが扉の前にあるのだと思っていた。
それほどに扉は簡単に押し開けられたのだ。
ただ重たい物を動かすつもりで力を入れたので、勢い良く開いた扉に弾かれてなにかは部屋の奥へ転がって行った。
昌暉:「なんスか、あれ……」
暗くて判断が出来ず、昌暉は首を傾げる。
警戒しているのか部屋には入らず、首を伸ばして様子を窺っている。
望月 愼介:「猫の死骸だろうけど、暗くて見えねぇな」
窓の無い診察室は後方からの夕陽のわずかな光で、ぼんやりと浮かび上がっているが探索するには明かりが必要だった。
望月 愼介:「あんま使いたくなかったんだけどな」
俺はズボンのポケットからスマホを取り出した。
ロック画面で残りのバッテリーを確認すると、58%だった。
背に腹は代えられない。
まぁ他にもスマホは4台あるので、俺のが使えなくなっても大丈夫だろう。
俺はスマホのライトを点けて、転がって行ったなにかに当てた。
望月 愼介:「なっ!?」
ライトの白い光が映し出したのは、わずかに毛が残っている頭蓋骨だった。
勢いよく転がって壁にぶつかってしまったので、頭頂部が欠けている。
神澤 真梨菜:「なになに!? 何があったの!?」
神澤が俺の背中越しに部屋を覗く。
陣内も昌暉の後ろから覗き、軽部もビデオカメラで部屋の中を覗いた。
陣内:「きゃっ……んぐ!?」
大きな悲鳴を上げようとした陣内の口を、慌てて神澤が手で塞いだ。
神澤も自身の口を手で押さえて、必死に悲鳴を上げないように涙目になっている。
望月 愼介:「想像以上に、ここはヤバいかもな……」
強烈な死臭がしないのは、死体が白骨化してるためだろう。
俺は部屋の中へ入り、押し開けた扉の裏を確認した。
望月 愼介:「……体だ」
扉を塞いでいたものは白骨化した死体だった。
首が吹き飛んだ死体は頭蓋骨と同じく白骨化しており、壁に激突してしまったせいか、肋骨が砕けてしまっている。
抉れた腹の上には俺の右手にある片割れのドアノブが乗っかっていた。
スーツにコートを羽織った状態の死体は、服装から見て男だろう。
昌暉:「望月さん、これ……」
昌暉は本日何度目か分からない恐怖を体験してしまったせいか、顔を引きつらせながらも死体がある部屋の中で発見したものを手渡してきた。
俺はほこりまみれの『黒い手帳』を受け取り、表面の埃を指の腹で拭う。
望月 愼介:「昌暉、これどこにあった?」
昌暉:「部屋の右側に落ちてました。多分、さっきの勢いで飛び出たんだと……」
◇◇◇
アイテム入手
『警察手帳』を手に入れた
◇◇◇
白骨化した男のもので間違いは無いだろう。
俺はライトを当てながら、縦に開く警察手帳を開いた。
中はドラマや映画と同じ様に、顔写真と名前などが載っている。
望月 愼介:「警視庁捜査一課、
俺は警察手帳の写真と、部屋の奥に転がった頭蓋骨を交互に見た。
昌暉:「ど、どうしたんスか!?」
望月 愼介:「……こいつ、俺の同級生だ」
俺は目の前の光景を、ただ疑う事しかできなかった。
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