第16話


望月 愼介:「とりあえず、変なのが居ない内に扉を開けるぞ」


俺たちは待合室を出て、閉ざされた出入り口の前に立つ。


望月 愼介:「カメラは陣内が代われ。軽部は扉開けんの手伝え」


俺の指示通りに撮影者が代わり、男3人で力任せに扉を左右に引っ張った。


望月 愼介:「くッ……」


軽部:「ん~~~~ッ」


昌暉:「おりゃァ~~~~ッ!」


神澤 真梨菜:「3人とも頑張って!」


神澤は応援してくれるが、正気に戻った軽部と昌暉で力を合わせても、扉は鍵が掛かっている様にビクともしなかった。


軽部:「だ、だめだ……」


望月 愼介:「動かねぇ……」


昌暉:「開かないッス……」


先に音を上げたのは、俺たちだった。


開く気配すらない扉を諦める。


陣内:「ど、どうしよ……」


カメラを軽部に渡した陣内が声を漏らす。


望月 愼介:「仕方ねぇ。危ねぇけど、窓割って出るしかないな」


2階の既に割れている窓から脱出するより、目の前の窓を割って脱出する方が危険が少ない。


窓ガラスの破片で怪我をしてしまう可能性はあるが、殺されるよりマシだ。


望月 愼介:「なんかガラス割れそうな、硬いの探してくれ」


蹴って割るのは最終手段だ。


俺たちは何かないか、手分けして探す。


望月 愼介:「なんか、手ごろなのねぇかなぁ……バールがあれば最高なんだけど……」


神澤 真梨菜:「このソファじゃ重くて持てないもんね」


神澤は待合室に並ぶソファを見る。


望月 愼介:「使えない事も無いけどな。ただそれだと割る時の物音がデカいだろ」


神澤 真梨菜:「それもそうだね」


望月 愼介:「もっとコンパクトに硬いやつ探せ」


神澤 真梨菜:「うん」


俺は受付の隣にある『診察室2』のプレートが貼られた扉を開けようと、ドアノブを回す。


だが、鍵が掛かっていてドアノブは途中で動かなくなった。


試しに隣の『診察室1』のドアノブも回したが、こちらも鍵が掛かっている。


望月 愼介:「神澤、その辺にカギねぇか?」


神澤 真梨菜:「え? 硬い物探すんじゃないの?」


受付の中に居る神澤は、机の上に身を乗り出して俺を見た。


望月 愼介:「カギ開ければ探す場所が広がるだろ」


扉のカギが開いている所は少ない。


手分けして硬い物探している三人も、リハビリルームの扉が開かないと騒いでいた。


見る限り、窓ガラスを割るのに使えそうな長い木の棒や石は見当たらない。


都合の良い物を見つけるには、探索場所を広げる必要がある。


神澤 真梨菜:「いっそのこと、201号室のカギの先端でガラス割れば?」


望月 愼介:「アレは差しっぱなしで、手元にはねぇよ」


受付を覗くと、神澤は床に散らばる紙を捲りながらカギを探してくれている。


望月 愼介:「つーか、お前バカか。カギで割れたとしても、窓と自分の距離が近過ぎて、破片で怪我すんだろ?」


神澤 真梨菜:「あぁ、そっか。でも暗くなってきたし、そんなこと言ってられないと思うんだけど……」


望月 愼介:「車を運転すんのは俺だぞ」


神澤 真梨菜:「……だから?」


望月 愼介:「ガラスで怪我するの分かってて、お前らにやらせられねぇだろ」


神澤 真梨菜:「怪我の度合いによっては運転できないってこと……?」


望月 愼介:「そだよ。ガラスなめんな? ザックリいくんだかんな。肉なら良いけど、太い血管切れたら笑えねぇぞ」


小さなガラスの破片がチクリと指の腹に触れるだけで、血が出るのだ。


神澤 真梨菜:「……なんか、望月さんって自分の事しか考えてない人だと思ってたけど、意外と周りの事考えてくれてたんだね」


神澤は本当に意外そうな顔をしている。


望月 愼介:「……うるせぇ。んなこたいいんだよ。カギねぇのかよ」


俺は恥ずかしくなり、受付から離れて開かない『診察室2』のドアノブを回す。


ガチャガチャと音を立てるだけで、開く気配は無い。


神澤 真梨菜:「さっきみたいに、都合よく鍵は無かったよ」


神澤は受付から出て来て、俺の隣で開かない扉に視線を向ける。


昌暉:「望月さん、こっちの方は何も無かったッス」


リハビリルームの方を調べていた三人が戻って来る。


望月 愼介:「おう、ご苦労だったな」


俺は振り返って声を掛けるが、歩いている軽部がビデオカメラを回していたので再び扉に向き直った。


陣内:「カギでもあったんですか?」


俺と神澤が扉を見ているのを、不思議に思ったのだろう。


陣内が俺の背中に問い掛ける。


望月 愼介:「いや、こっちもお手上げだ」


神澤 真梨菜:「カギどころか、窓割る石すら見当たらなくてね」


昌暉:「こっちもッスよ。どの部屋も開かなくて」


陣内:「最悪、誰かが割るしかなさそうですね。暗くなってきたし……」


三人は俺たちの後ろで足を止めた。


望月 愼介:「これはホラーゲームじゃねぇから、わざわざカギを探さなくても良いと思うんだが、どう思う?」


俺はドアノブを見つめながら、顎に手を当てて返事を待つ。


神澤 真梨菜:「え、じゃぁ……まさか」


神澤は目を丸くして俺を見上げている。


強行突破な俺の考えを察したようだ。


昌暉:「まさかって……。え、望月さん……ドアノブ壊す気ッスか!?」

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