第11話


???:「クククッ……怖がってるぜ」


???:「ちょっと音出しただけなのにね」


???:「お前ら静かに。気付かれるぞ」


望月 愼介:「もう気付いてるわ!!」


俺は三つの声が聞こえた二階の受付を蹴飛ばした。


???:「ひぃぃぃぃいいいいいッ!」


???:「きゃぁぁぁあああああッ!」


???:「うぉぉぉぉおおおおおッ!」


俺は受付カウンターを覗き込むと、不気味な音や笑い声の‟主”と目が合った。


男二人と、女一人。


見たところ三人とも未成年のようだった。


望月 愼介:「ったく、仕事の邪魔しやがって。何やってんだお前ら」


目を見開く三人に俺が呆れた視線を送っていると、怖がっていた神澤も受付カウンターを覗き込んだ。


神澤 真梨菜:「えっ! 轟チャンネルじゃん!」


元気な神澤の声が薄汚い廃病院に響き渡った。


望月 愼介:「え、神澤……このクソガキども知ってんのか?」


俺は受付カウンターの向こうで立ち上がった三人を指さす。


神澤 真梨菜:「うん。Moveで最近人気の子たちだよ。この前見せたじゃん」


俺は神澤と一緒に動画を見た記憶が無いので首を傾げた。


この三人も初めて見る。


神澤 真梨菜:「ほら、この前『心霊写真が撮れるか検証してみた!』ってやつだよ。望月さんの写真の現場に行った動画」


望月 愼介:「あぁ、アレか」


そこまで言われて、ようやく‟体験報告”の話をした時に見せてもらったのを思い出した。


背の高い男がビデオカメラを持っている。


???:「え! 貴方が『PICTURES』の望月さんなんですか!?」


おしゃれな眼鏡をかけた少年は、興奮気味に詰め寄ってくる。


その勢いに驚きながらも、俺はコクリと頷いた。


すると三人は顔を見合わせて、その目を輝かせた。


残りの二人も受付から出てくると、俺の前で横一列に並んだ。


望月 愼介:「な、なんなんだよ……お前ら」


人をからかって笑っていた三人が、少し緊張した顔で俺の前に立つのだから気持ち悪い。


???:「僕たち、望月さんの大ファンなんです!!」


お洒落な眼鏡の男が嬉しそうに大きく口を開く。


望月 愼介:「お、おう。ありがとな」


ファンだと公言する人はそう多くないので、三人の嬉しそうな表情を見ていると、くすぐったい気持ちになる。


軽部:「俺、軽部かるべって言います」


背の高い男は胸に手を当てる。


陣内:「私は陣内じんないです」


華奢な女が後に続く。


昌暉:「僕は、昌暉まさきって言います」


お洒落な眼鏡の男も自己紹介をした。


望月 愼介:「俺は望月でこっちがUFO研究家の神澤だ。ってかなんでお前だけ下の名前なんだよ」


昌暉:「それは僕たちが『轟チャンネル』だからです!」


望月 愼介:「轟チャンネル……?」


俺は各々が名乗った名前の漢字を思い浮かべる。


軽部、陣内、昌暉。


三人の名前に『車』が使われている。


車・車・車が3つで『轟』か、と納得する。


神澤 真梨菜:「違うでしょ!」


必死な声を上げて、俺と三人の間に割って入ってくる。


神澤 真梨菜:「まず謝罪でしょ!? すっごく怖かったんだからッ!!」


轟チャンネルの三人:「す、すいません……」


三人は小さな声を揃えて頭を下げる。


神澤 真梨菜:「よろしい。でも何であんな事したの」


ビデオカメラで物音に怖がる俺たちを撮影していたとなれば、この場で削除を要求する。


陣内:「わ、私たち……ここで心霊現象の撮影をしてたんですよ」


陣内は言葉を続ける。


陣内:「人の声が聞こえたんで、一般の方が映らないように追い返そうと物音を立てたんです」


軽部:「望月さんだって分からなかったので……」


軽部は申し訳なさそうに自分のスニーカーを見る。


昌暉:「リア充の邪魔をするつもりはなかったんス」


昌暉は的外れな言い訳に呆れてしまう。


それは神澤も同じだったようで、大きなため息を吐いていた。


望月 愼介:「勘違いすんなよ。俺たちは仕事で来てんだ。まぁ俺たちが一階に居るのを撮影してなきゃ今回は許してやる」


‟素材”の撮影だと知られては困る。


神澤の話によればこの三人はMoveで動画配信をしているので、心霊写真が嘘だとバラされたら雑誌の売り上げに関わってくる。


軽部:「カメラは切っているんで問題無いです。ありがとうございます」


ビデオカメラを持った軽部が頭を下げると、他の2人も頭を下げた。


望月 愼介:「まぁ、いい。俺たちの仕事には差ほど影響してないからな」


昌暉:「あの、もしかして次の号にここの写真また載るんですか!?」


昌暉が再び目を輝かせる。


望月 愼介:「新しいもんが写り込んでたらな」


正しくは『良いものが作れなきゃ使えない』なので俺次第だ。


三人は俺の「嘘」を『真実』だと思っている。


うっかり口を滑らせないようにしなければならない。


神澤 真梨菜:「そっちはもちろん投稿用なんでしょ?」


軽部:「そうですね。でもここが雑誌に載る可能性があるなら、また改めて撮影に来ようと思います」


神澤が指さすビデオカメラを撫でながら軽部は言った。


望月 愼介:「俺たちが映ってないなら問題ないし、時期がかぶれば多少は話題になるんじゃねぇの?」


こんな山奥にわざわざ来ているのだから、お蔵入りでは無駄足になってしまう。


俺は無駄足になるのが嫌で、不気味だと思いながらも撮影をしているというのに。


昌暉:「僕たちはただの肝試しじゃなくて、雑誌の検証動画を投稿したいんです。それに元々この山には虫取りの撮影に来てたんで問題無いです」


昌暉は胸を張る。


望月 愼介:「そうか、なら良い写真が撮れるように頑張らねぇとな。じゃぁ俺たちは1つだけ部屋見て帰るから、二階の撮影すんなら少しばかり待っててくれ」


神澤 真梨菜:「またね。動画楽しみにしてるよ!」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る