第7話
車を降りた俺たちは空や廃墟を自由に撮影した。
正直、写真など撮らずに今すぐにでも帰りたかったが、この山奥にある廃墟に来るまで二時間かかったのだ。
手ぶらで帰るより一枚でも多く収穫を得て帰りたかった。
そして何より、そんな事をしたら神澤に怖がっていると悟られネタにされるのは目に見えている。
だから俺は物音や視線を気にしていないフリをして冷静を装った。
望月 愼介:「中も少し撮るか」
外観の写真だけ撮るのも不自然だと思い、内観の写真も撮る提案をする。
だが俺はそんな気は無く、この提案を神澤が嫌がると思ったから言ってみたのだ。
だが、神澤は予想に反して首を縦に振ったのだ。
神澤 真梨菜:「そうだね。中を色んな角度で撮影すれば、しばらく素材に困らないかもね」
確かに素材は、撮影した分だけ困らないだろう。
だが俺は嫌がる神澤に「仕方ないなぁ」と言いながら内観は撮影しない予定だった。
さすが『UFO』担当というか、あの出版社で仕事をしているだけあるなと、漏らした溜め息には感心と失望が含まれていた。
望月 愼介:「……じゃぁ、中入るか」
神澤 真梨菜:「そうだね」
神澤は何の躊躇も無く落ち葉を踏んで廃墟に歩み寄って行く。
夏なのに落ち葉が多いのは、去年や更に前の秋や冬の落ち葉がそのままなのだろう。
茶色い葉。
黒く変色している葉。
細い枝。
山の中だとはいえ、ほとんど土が見えないほど落ち葉で埋め尽くされている。
それだけ手入れされていないという事だ。
望月 愼介:「そりゃ廃墟が目の前にあったら、手入れどころじゃねぇだろうな」
俺は小さくなる神澤の背中を見つめながら落ち葉の上を歩く。
すると何か硬い物を踏んだ。
スニーカーを履いた足の裏でも、それが枝ではない事ぐらいは分かる。
石のような感触に足を止めて視線を下に向ける。
だが落ち葉に埋め尽くされていて、硬い物の正体は分からなかった。
俺は足で落ち葉を掻き分ける。
神澤 真梨菜:「ねぇ」
ガサガサと落ち葉を掻き分けていると、廃墟の入り口前に立つ神澤に声を掛けられた。
望月 愼介:「あ? ちょっと待て……お?」
落ち葉の隙間から、赤茶色が見えた。
俺はしゃがみ込んで乾いた落ち葉を手で掻き分けると、赤茶色のレンガが現れた。
神澤 真梨菜:「ねぇってば……」
神澤は耳を傾けない俺の隣に来て、左肩を掴んで揺らす。
神澤 真梨菜:「何してんのよ」
神澤もしゃがみ込んで俺の手元を覗き込む。
望月 愼介:「硬いの踏んだからさ」
そう言いながら落ち葉を掻き分けていると、レンガは一つではなく幾つも連なっていた。
神澤 真梨菜:「花壇なんじゃない?」
望月 愼介:「あぁ、そうかも」
神澤も手で落ち葉を掻き分け始める。
すると神澤が言うようにレンガは円を描き、花壇になっていた。
レンガの内側には地面とは違う 茶色い土が敷き詰められている。
俺と神澤は花壇の上にあった落ち葉もどかした。
望月 愼介:「なんだこれ?」
土の上に夕陽を反射して光るカギを発見した。
神澤は落ち葉をどかしていて気が付いていない。
カギにはタグストラップが付いており、ペンで書いた文字はかすれているが『入り口』と読める。
『入り口』と書かれた紙はプラスチック製の赤いケースに入っているが、何年も土の上に落ちていたのか、微生物が分解して端がボロボロになっていた。
これがあるということは、廃病院の中に入れてしまうということだ。
神澤 真梨菜:「え、カギじゃん! 」
神澤に見つからないように落ち葉の中へ隠そうとしたが、その前に彼女にカギの存在がバレてしまった。
もう隠しようがない。
このカギさえ無ければ、 廃墟の中に入らなくて済んだのに。
神澤 真梨菜:「あそこの扉、カギ掛かってたんだけど、多分これで開くよね? 」
そう言いながらも神澤はカギを眺めているだけで取ろうとはしなかった。
土で汚れているから触りたくないのだろう。
仕方なく俺が手を伸ばす。
◇アイテム入手◇
『入り口のカギを手に入れた』
嫌な予感しかしないのに、足は閉ざされた入り口に向かっていた。
何かが俺を突き動かしている。
他人事のように考えながら錆び付いた鉄の扉を見下ろす。
夢と同じ錆び付いた扉。
取っ手に手をかけ引っ張ってみるが、やはり鍵が掛かっていてビクともしなかった。
神澤 真梨菜:「カギ使ってみて 」
俺は言われるがまま土が付いたカギを鉄扉の鍵穴に差し込んだ。
◇◇◇
『入り口のカギを使用した』
◇◇◇
神澤 真梨菜:「ビンゴォ~ 」
発見したカギが合うことに感心しながら神澤は錆び付いた取っ手に手を掛けた。
俺は役目を果たしたカギをその場に捨て、神澤と反対側の取っ手に手を伸ばす。
神澤 真梨菜:「せーのッ」
神澤の声に合わせて手に力を入れる。
キィィィィィィィィィィ……
耳障りな音を立てながら俺と神澤が引っ張る鉄扉は口を開けた。
望月 愼介:「はぁ……」
埃っぽい空気が溢れ出る廃墟にため息が出た。
神澤 真梨菜:「やだぁ! 手に臭い付いた最悪ッ」
神澤が錆の付着した両手を見て悪態をつく。
望月 愼介:「ほれ」
俺はポケットに入れていたウエットティッシュを差し出した。
神澤 真梨菜:「あ、ありがと」
用意がいい俺に驚きながらも、神澤はコンビニで買ったウエットティッシュを受け取った。
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