第6話
結局深谷から20年前の事は聞き出せず、自分の記憶を探る手掛かりも無いので、俺は探すことに決めた。
体験報告がたくさん来ている「元病院の廃墟」に行くことにしたのだ。
深谷と飲んだ翌日、俺は愛車に乗り込んでネットで調べた住所に向かっていると神澤からメッセージが届く。
『UFOの目撃証言が多い場所があるから連れてって! 電子タバコの前に1カートンあげるから!』
タバコのストックはまだあったが心霊体験は人数が多いほうが信憑性があるので、都合がいいと考えた俺は神澤を迎えに行った。
神澤 真梨菜:「ちょっとッ!?私がお願いしてた場所過ぎてるんだけど!!」
望月 愼介:「うるせぇな。俺が行きたい所がこの先にあんの。お前が行きたい所は帰りに寄ってやるよ」
正直、行きたくはない。
でも俺は夢が夢である証拠が欲しかったし、深谷のいう20年前のことが気になって仕方がないのだ。
神澤 真梨菜:「はぁ!? そんなの聞いてないし!」
望月 愼介:「UFOの写真なら夜の方が良いだろ。俺は昼間の廃墟の写真で良いから俺が先なの」
神澤 真梨菜:「絶対よ!? 忘れてたら前払いのカートン燃やしてやるから!」
殺意剥き出しの神澤は後部座席に置いたカートンを指さした。
電子タバコを勧めていた神澤だったが、それじゃあ俺が動かないと分かっているので紙タバコを用意していた。
望月 愼介:「頼むからそんなことするな!! ちゃんと送るからタバコには手を出さないでくれ」
神澤 真梨菜:「煩いわね。わかったわよ」
たばこを人質にされた俺の必死の願いは受け入れてもらえたようだ。
ただもう一つ、寝ないでくれとお願いすればよかった。
ずっと同じような景色の山道に退屈したのか、助手席の神澤は夢と同じ様に寝てしまった。
寝顔まで一緒だ。
夢が正夢になりつつあることにぞっとしたが、一本道の山道でUターン出来るわけも無く、俺は突き進むしかなかった。
前から車が来たらどうすればいいんだ、と心配していたが細い山道を下りてくる車は現れなかった。
その事が俺を不安にさせた。
やはり俺が向かっているのは、人が行くべき場所ではないのだと痛感させられる。
望月 愼介:「……辿り着いっちまった」
細い山道を抜けると、広い空間に出た。
そして目の前には、俺が夢で見た廃墟が、俺を見下ろしていたのだ。
望月 愼介:「クソッ……おい、起きろ神澤。着いたぞ、起きろ」
シートベルトを外した俺はあまり目の前の廃墟に視線を向けないように神澤を起こす。
神澤 真梨菜:「う……ん……」
神澤の肩を揺するが、唸り声を上げるだけで起きる気配が無い。
望月 愼介:「早く起きねぇと、不細工な寝顔撮っちまうぞぉ」
そう言って慌てて起きた瞬間を撮影しようとスマホのカメラを向けるが、神澤は整った眉を寄せるだけで目を開ける事は無かった。
望月 愼介:「はぁ……なぁ、頼むから起きてくれって」
なかなか目を覚まさない神澤に頭を悩ます。
夢に現れた廃墟から視線を感じる。
それは気のせいだろうか?
気のせいだと信じたいが振り向く事はしたくないので、神澤に早く起きて欲しかった。
もしかして神澤が起きないのは、あの夢に出てきた黒い少女のせいなのか?
望月 愼介:「おい、神澤! いい加減にしろよ!? かみさ――」
フフフ……。
望月 愼介:「っ!?」
笑い声が聞こえた。
神澤の寝言ではない。
ずっと見ているのだから、口が動いていない事くらい分かる。
……じゃあ、誰が?
誰が、笑った?
誰が……。
望月 愼介:「はっ……」
何か聞こえてくる。
カサ……カサ……カサ……
落ち葉を踏む足音。
カサ……カサ……カサ……
その音はゆっくりと近付いて来ていた。
廃墟から真っ直ぐ、車に歩み寄っている。
見なくても音で解る。
望月 愼介:「くそっ……」
右肩を掴まれた感触が蘇る。
五本の指が、俺の右肩を鷲掴みにした感触と痛みが。
神澤 真梨菜:「ぅ、う~ん……ふぁ~」
望月 愼介:「か、神澤起きろ! 着いたぞ!」
神澤 真梨菜:「あれ、私いつの間に寝ちゃってたんだろ……」
のん気な神澤は大きなあくびをする。
そして目の前の廃墟を指さし「燃えてるみたい」と夢と同じセリフを呟いた。
俺の夢は「嘘」ではなく『真実』なのか……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます