第伍話 三位一体
(御三方が『東ノ宮家』に迎えられて14日………本当にお邪魔してよろしいのでしょうか?)
時は少し遡り、3人が養子として鍛錬を始めて14日。井伊より身体を休める一環として様子を見に行くように勧められ『東ノ宮邸』を訪れた誉。東ノ宮佳より事前に許可を得ていたものの御忍びで様子を見に来た。
(このようなご時世で国を治める者が休むなど心苦しいですが、あの時はまともにお話も出来ませんでしたし、彼等を知るには丁度良い機会と捉えましょう)
カンカン・・・・カン。
『東ノ宮邸』の庭で早速3人を見かける。
(あれは・・・・・武術の稽古でしょうか。)
「流石。光圀殿強い」
「お前も悪くない筋だぜ慶宗」
「既に藩主の中でも指折りの剣豪と噂されただけありますな」
「その俺様が認めてるんだ。自信持ちな慶宗」
「その剣豪も将軍の前では腕を披露する間もなく一瞬とはな」
「!?」「!?」
「嫌なこと蒸し返すな義道」
「お主はやや自身過剰が過ぎるのではないか?光圀」
「テメー」
「まあまあお二人とも」
「あの時、仕合になった時点で主は負けていたんだよ。光圀」
「なに?」
「義道殿それはどいういうことですか?」
「力だけで言えば光圀の方が格段に上だ。あの将軍も想像以上に武に優れているが、その一点だけで比較するなら、慶宗も負けてない」
「義道。お前は?」
「拙者は色々な武に触れたがどれもモノに出来なかった。自分の身くらいならなんとかなるが、それ以上のことは出来ない」
「器用貧乏ってヤツだな」
「そうだ」
「某には義道殿の立会を見る限りそうは思いませんが…………」
「………拙者の話しは別にいい、話しを戻すぞ。まず仕合前に主は将軍の仕掛けに既に踊らされていた」
「なんだと?どういうことだ?」
「主の不信感を察した将軍は、主に勝る点を示すことで自分の正当性を証明することにした。事前に主の情報を仕入れ一番自信があるものが戦のような武力による主張であると把握していた。だから主を煽る事でその流れに事を運んだ。そして案の定。冷静さを欠いた主は決闘に挑んだ」
「…………」
「決闘は戦と違い1対1の真剣勝負。力だけで無く技や心も重要となる」
「技や心だと?」
「技に関していえば、主は戦を想定した戦い方故どちらかというと力押しになりやすい。相手に合わせて臨機応変に攻撃するより、自分の自信ある型を押し通した方が戦の場合敵を倒しやすいのは事実。一方の将軍………あの戦い方はまさに決闘に特化した戦い方といえる」
「決闘に特化した戦い?どういうことですか?義道殿」
「将軍の使われた剣術は存じ上げないが、あの剣術は必ず一度攻撃を受け一回の反撃で仕留める型だと思われる。」
「わざわざ一度攻撃を受けるだと!?」
「左様。だから木刀を水平に構えた。何処に打ち込まれてもしっかりと防ぐ為に」
「確かに通常の構えから防御の体勢を取ると取り方によっては力が入らず押し通される危険性がありますね。」
「受け止めて素早く反撃し相手に反撃の機会を与えない。それが将軍の使われた剣術の戦い方だと思われる。」
「しかしだな、あの時は木刀だから良かったものの本物の刀だったらあの構え方。使用者も手に怪我するぞ」
「だからこその決闘特化の剣術といえる。決闘ならば相手によっては刃物以外を使えるからな。それに将軍は元々刀以外になることを見越してあの剣術を使った可能性がある。」
「!?」
「誠ですか!?義道殿。」
「確証は無い。しかし井伊大老か他の誰かが止めに入る前提で話しを進めていた可能性は十分ある」
「最初から刀以外で決闘する流れに仕向けたって言うのか?」
「…………。」
「なんと!?」
「そして主最大の敗因。それはあの場にいた者………正確には伊邪那美殿以外は全員当てはまるで有ろうことだ」
「あの御庭番の女以外?」
「油断………そんな甘い表現ではないな、我々は将軍を侮っていた」
「……………」
「前将軍の一人娘、我等と同じ年頃・・・・・少なくとも拙者はあの場で突如現れたあの女子をどこか懐疑的・・・・それも綺麗事だ。どこか見下していた。」
「・・・・・・」
「そのような驕りや優越感が主の油断や隙を生み、そしてあの結果となった。拙者はそう見ている。」
「言いたいことはあるが、確かに侮っていたのは間違いないな」
「そこまで分析されていたとは・・・・・お見事です義道殿」
「そこまで私を分析され、立てて頂けるとは大変嬉しゅうございます。」
気がつけば誉は3人の前に姿を見せていた。
「殿下!?」
「なんで!?」
「ご無沙汰しております!?」
慌てて膝をつく3人。
「そのように畏まらなくてよいのですよ?」
「そのようなご無礼・・・・・」
「あら?私の聞いていた限りでは、私は腹黒い女子だと遠に言われているように聞こえましたが・・・・・」
「聞いて・・・・・おられたのですか」
「はい、義道殿の考察。大変興味深いモノでした。」
義道の額から冷たい雫が流れ出す。
「でっ、殿下!」
「なんでしょう?慶宗殿」
「あっ兄上の考察は誠でございますか?」
「はて、ご想像にお任せしますわ」
誉の不敵な笑みに強張る一同。
「そう警戒されなくても、悪いようにはいたしませんよ、むしろ私は皆さんの人となりを垣間見えて嬉しいのです」
「どのような意味でしょうか?」
「これからこの国の為、幕府の為、民の為そして私の為にその生涯を全うして頂くことになる御三方について私はもっと知りたい。光圀殿の武勇伝も慶宗殿の思想も義道殿の多角的俯瞰的思考も・・・・・私は事前に知りえた情報だけでなくこの身この肌で実際に感じてみたかったのです。」
「殿下・・・・・」
「【真の志士】とはどのような方と思われますか?」
「【真の志士】・・・・・ですか?」
「はい。私は御三方にその可能性を感じています。」
「!?勿体無い御言葉。」
(【真の志士】・・・・・)
「御三方が己自身でその高みに辿り着くと私は信じております」
「・・・・・殿下」
「御三方の御力。私に貸して頂けますか?」
「勿体無い御言葉」
「この身に替えても」
「任せてくださいよ、将軍」
「フフフ・・・・。ではこれからよろしくお願い致しますね。『東ノ宮』の姓を与えられし者達」
かくして4人の顔合わせが終わり、茶を用意していた佳はその姿を微笑ましく見守った。
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