第39話 一閃断空

 気だるげな様子をかくす事なく、不満をらす。

 これからの予定では、武術科に丸投げしてさよならバイバイのはずだったのに、楽させてもらえないらしい。


 もしこのままにしておけば、どうなることやら――


 ラスターから見れば雑魚を3体でも、彼ら武術科から見れば、戦艦せんかん級ほどではなくとも、厄介やっかいな力をいだ非常に凶悪きょうあくなワームビースト達である。


『どうしてこれを見逃みのがした! 死ぬまで(ry以下略』と文句を言われるだろう。


 この程度の敵に殺される阿呆あほのことなんて、指差して笑ってやれるが――そもそもこんなクソ雑魚ナメクジごときのために、面倒めんどう事が増えるのも、あまり愉快ゆかいな話ではない。


「はいはい、やればいいんだろ、やれば」


 苛立いらだちをすと、エネルギーコアに向けてReXをる。


邪魔じゃまだ、死ね! り」


 新たなる王の誕生を守るべく、わらわらと20体ほどのワームビーストがたかってくるが、ビームソードを起動して、邪魔するゴミを斬りつける。


「なっ!?」


 揺ら斬りによって、今度は5体ほど斬り損ねたことにおどろきながら、せまり来る2体を斬りはらう。


うそだろ?」


 取りこぼしの動揺をおさえ切れぬまま、おそいくる2体に向けて加速すると、すれちがいざまに斬る。


「もしかして――」


 原因に心当たりを見つけ出すと、すでに後方へと置き去りにした、残り一体をいてけんす。


「ブラックホールのせいか?」


 久しぶりで、うでにぶっているだけかもと思っていたが、最初も今も、ブラックホールによる重力異常こそが、揺ら斬りで取り溢す原因――の気がする。


「まぁいいか」


 原因がなにであれ、すでにどうでもいい話。それよりも、共食いによって強化された、ワームビーストを倒す方が先決。

 グチャ――と、音が鳴るわけではないが、巨大きょだいなエネルギーコアを食い破って、中からワームビーストが姿をのぞかせる。


「うへぇ……これはグロい」


 非常にグロテスクな光景に、ラスターは不満を漏らす。


「帰りてぇ……」


 どうしようもなく本音。しかし、倒すタイミングとしては今が一番最適である。


「ちゃっちゃと殺すか」


 気持ちをえて、ビームソードを振りかぶる。


「……そういえば」

 

 ふと思い出だせれる命令――



『名前! を付けなさい』

『何に?』

 ぷっくりと不満げにほおふくらませた少女――ひめ様が文句を言う。


「技にです! 何を聞いても剣を振っただけなんてダメです」

「えぇ……」


 なんて理不尽りふじんな物言いかと、ラスターは困惑こんわくする。


「じゃあ、相手が勝手に当たっただけ……はい、ごめんなさい」


 目を三角にげて、本格的ないかりへと変わっていく様に、ラスターはすぐに謝る。


「そもそも、どういう時に技なんてつくんです?」


 ReXの剣技において、技名というのは存在しない――だれも学ばないため、一人二人が仮に乗れたところで、技名なんてものは後世にまで伝わらないのである。


「……すごいと思った時?」

「えっ?」


 なんて曖昧あいまいな条件――それは流石に、姫様自身も思ったのか、補足説明が入る。


「すごい技を使った時です! たとえば、強い敵を倒す時とか、いーっぱいの敵を倒す時とか!」

「って言われても、いきなりはな……」

「揺ら斬り」

「えっ?」

「さっきの技の名前です」


 ぷいっと顔をそっぽ向けながら、照れくさそうに言う。


「じゃあ――」

「次からはちゃんと付けるように! これは命令です」


 ビシッと指差して、姫様に命令される。

 命令されたのなら仕方ない。


「じゃあ――次からは、おれが考えておきますね」


 ぱぁああっと笑顔がかがやき、姫様はうれしそうにする。

『次からは剣を振っただけ禁止ね!』

了解りょうかいしました』

 うやうやしく頭を下げて、強い敵を倒す時には、技名をつけることが決まったのであった。



 ――っといっても。

 

「剣を振って敵を倒すだけなのに、技名とか言われても……」


 どうすればいいのかとなやむが、引き金を引くだけのじゅうにも、いくつか銃技と呼ばれる技があるのは知っている。


 難易度の高い動きであれば、技名をつけたくなるのが人情だというのも理解できる――なんなら、さっきのエネルギーだん回避かいひした方法であれば、名前をつけたいぐらいであった。


「……ローリングブラスト(回避技)」


 なぜかげるずかしさを振り払いつつ、この状況じょうきょうで、これからの技名について真面目に考え始める。


「これ――一応、強い敵に入るよな?」


 首をねじりながら、頭も捻っていく。

 ちなみに状況を説明すれば、ワームビーストがちょうどしているところである。

 武術科で習う常識として――習わなくても分かる常識に、戦闘せんとう中に気をらしてはならないと学ぶ。


 もちろん、そんなことを知らないラスターはガンガン気を逸らすし、そのせいで並みの人間なら、30%程で死にかねない状況を80%へと引き上げていく――もっともその程度では、危機の演出にすらならないが。


「揺ら斬りも使えないみたいだし、なんか、きてきたな……」


 馬鹿ばかな悩みをしている間に、半分ほど身を乗り出したワームビーストは、口元にエネルギーを集めて、極大のエネルギー弾を放つ。


「面倒だ、死ね」


 当たれば即死そくし間違いなしのエネルギー弾をビームで切り飛ばし、身を乗り出したワームビーストに向かって剣をひらめかせる。


「一閃!」


 一体のワームビーストを始末し終えると、反転して二体目を――倒す必要はなかった。


「断……空?」


 先程斬り込んだ空間に亀裂きれつが生じ、そして、体を引っ張るような重力の感触かんしょくが消えていく。

 ブラックホールランチャーによって生み出されたブラックホール――重力力場がビームソードによって切れたばかりか、剣筋にそって断層ができていた。


「どういう理屈りくつだ?」


 揺ら斬りが重力の影響えいきょうを受けてうまくいかないのなら、重力に乗せて斬ればいい。

 そんな浅い考えで振った剣は、上手くいかなかったどころか、最大限の効果を――理解不能な自体を引き起こした。


 倒すつもりであった三体はもちろんのこと、ブラックホールの射線にとらわれていた魑魅魍魎ちみもうりょうが黒い射線と一緒いっしょに、真っ二つに引き裂かれてずれているのである。


「終わっ……た?」


 この場所にいる敵の全てが死滅しめつしたわけではないが、戦艦級に生み出されたばかりの弱小ワームビーストは、このちょう常現象を前に全速力で遠くへと逃げていく。


 そうではない敵――最初にいた1500体の生き残りが、喧嘩けんかをふっかけてくるので、あっさり斬り飛ばすと、他の生き残りも蜘蛛くもの子散らすように逃げていく――ちなみに蜘蛛とナメクジはこの世界にいたりする。


「本当に終わったか」


 逃げた敵を追いかけてまではたつぶす理由はなく、そもそもそこまでバッテリーが持たない。

 先程のは一体なんなのか……カンラギあたりに聞けば、案外答えは返ってくるかもしれないが、そのための説明がうまくできると思えない。


「誰にも見てもらえないってのも案外……」


 つのさびしさに、ぽつりと漏らす。

 一人で戦いたいが、それでも一人で生きたいわけではない。

 かすかながらでも、共有できる相手というのが必要だったのだと、今更いまさらながら気付く。


「これまでは……」


 姫様が居てくれた。


 守るために、められるために、喜ばせるために、そして――近くにいるために。

 だから戦えた――今はもう近くにいない大事な人。

 やるせなさに座席へと身を投げ出し、ドスンと音を立てて座り込んだラスターは、視界のはじに白いスカートがなびくのをとらえる。


「姫様!?」


 シートベルトを一瞬いっしゅんで外すと、マナーをかなぐり捨てて椅子いすの上に飛び立つ。


「っ――な訳ないよな。そりゃ……」


 白いスカート――ではなく白いローブ。


 騎士きしのコスプレをさせられた時にまとっていた小道具だが、ReXの中では邪魔だったので、後部座席に置いていた――それが、振動に揺れてなびいていただけのこと。


「そうか……あー、やっぱ最悪だ」


 今はもう、姫様がいない。

 しかし! 武術科はいる。

 彼らは、仲間が死ぬ事を良しとしない。


 だというのに――迷惑極まりない事に、自分達の見せ場がない事も許さない。

『邪魔だから引っ込め、全て俺がやる!』を認めない器量の低いやつらの集まりである。


 強敵は全て排除はいじょしなければいけないが、決して殲滅せんめつをしてはいけない……


 気遣きづかう価値のない武術科への気遣いが足りないと、また不満たらたらの文句が言われることを思えば……脱力だつりょくしたラスターは殲滅の終えた宇宙で、帰ろうとする意欲を失った。

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