第36話 サブバッテリー
「よっと!」
目の前の敵を切り飛ばしながら、メニュー画面に指を
「クソが!」
そのまま順調に慣性
「んー、ReXや、燃料がなきゃ、ただの的」
この
「あっ?」
人生に見切りをつけ始めていると、ReXが勝手にインストールを始める。
「えっ? なになにどうした!?」
問題なく操縦はできるため、特筆して不都合なわけではないが、残りバッテリーが
そして、数あるモニターの正面下側に
「これ……は……?」
まさにホラーといった感じであるが、ラスターは死の
ザーッと走るノイズが引いていくと、ラスターは先程の恐怖体験より本当に恐ろしい――カンラギの姿に背筋が
「なっ、なんのつもりだ!」
このタイミングで助けを求めるのではなく、約束
もっとも、自ら
『はぁい』
モニターに映るカンラギは、ラスターの
優しい表情の中に、どこか他者を
「似合わんなぁ……」
非常に
『見えてるってことはうまくいったようね』
ニヤリと
「それで、なんのようだ」
こっちは大変だと言うのに、なんの要件があるのかと、
『あなたに新しい力を上げるわ』
「……はっ?」
スパッと目の前のワームビーストは割り切れても、現状は割り切れない。
「どういうこと?」
いきなり現れて意味の分からないことを言うカンラギに、ラスターは首を
『あなたにはもう言ったかしら? パルストランスシステムのことを』
したり顔でされる脈絡のわからない話に、ラスターは
『同期が
「どういう……意味だ?」
ヘッドフォンをさすりながら、どこか
だが、困惑するラスターを置いてけぼりで、話は進んでいく。
『新たにできたパルスの
さらに
内容にではなく状況に。
「録画か?」
こちらに対して反応らしい反応をせぬまま、一方的に話し続ける姿に加え、どこにいるのかもわからぬ背景である。
録画らしく――録画かどうかの
『フルパルスコネクトは脳波によってReXを自在に
「自在に……」
脳波による操作――彼女
まるで
『そして、シンクロアシストは――』
ラスターの行動を気にすることなく、カンラギは説明を続けている。
副会長であることを思えば、時間は取れても
そんなカンラギが話をしている場所――背景や音声からは、人の気配がなく、見覚えもない場所である。録画かどうか半信半疑だったのが確信へと変わた。
「たくっ、
レバーを引くことなく後ろに手を振ると、それに合わせてReXも
脳波の
相手の状況に関係なく勝手に再生して、気を散らさせてくるのは、
『あなたの
録画
「祈られてもなぁ……」
ステップを
「やばっ」
ワームビースト相手に危機を覚えたことはない――だが、目下の危機であるバッテリー残量は
20%からバッテリー消費に気を使い、つい先程まで14%だったというのに、フルパルスを使用してから
機能を止めるためにタッチパネルに手を
「いや……そうか」
カンラギがしていたように、歩きながらなんの素振りも見せずに脳波で操作するような器用な真似をラスターは出来ない。
しかし、これを作ったのはそんな
「これで!」
右手でメニュー画面からヘルプへと移行しつつ、左手に構えた剣をそのままに動かさないようにして、ブーストによる移動を脳波によって行う。
ReXは基本的に、やれることが増えるほどレバーなり操縦桿なりが増えるという、当たり前にして最大の欠点を
パイロットの力量は、その増えたレバーをいかに適切に
剣を振りながら、更にメニューを操作するといった芸当は不可能だが、そんな不可能を気にしない天才様の設計のおかげで、脳波によるReXの操作とメニューの操作を、同時並行することが可能な作りになっていた。
メニューを操作することで、ReXの右手が
「残り4%……
フルパルスコネクトやらを解除して、レバーでの操作に変えると、
もっとも、距離を取れば敵が居ないわけではなく……どれほどの知性が備わっているかは不明だが、ReXを見て強そうとは思わなくても、大量に殺された仲間を見て危険だと判断する知性ぐらいはあった。
そうして距離を取っている団体に近づくと、ビームソードを
「見つけた!」
その
「あっぶないな、おい」
システムダウン――では厳密になく、サブバッテリーによる
つまりReXの
残り2%でサブバッテリーに
シュバルツクロスにはそもそもサブバッテリーを積んでおらず、移行するタイミング自体ReXによって
てっきり0%での移行と思っていたが――どちらにしろ、目の前にいる残り一体を処理するのに、ビームが出なくても問題ない。
ワームビーストが体を不気味に揺らして近づいてくるが、下手くそな銃では命の危機だが、剣であれば問題なかった。
実体剣を振って見事バラバラに解体すると、向きを調整する。
「こっち来るなよ……」
これ以上はもう対処しきれない状態である。
そのことを理解できるワームビーストではないが、飛んでくるエネルギー弾はかなり恐怖であり、近づかれるとひとたまりもない。
それでもエネルギー残量的に、どうしようもないラスターは当たらないことを前提に行動へと移す。
ヘルプによって確認したバッテリーボックスの開け方に沿って、右側と左側の両方のレバーをゆっくりと内側に向けて倒してから中に押し込んでいく。
電気で運用されている六世代型と違い、七世代型ではワームビーストのエネルギーコアにあるエネルギー――生体電流をそのまま利用して稼働している。
七世代型に乗ったパイロットがバッテリー切れに
現状、そこまでの余裕はないので、小刻みに動いてビームを回避しながら、腹のあたりにあるバッテリーボックスを開いて、エネルギーコアだけになったワームビーストを抱え込むように取り込んでいく。
グジュリと響くなにかを
「これで! どう……だ……めか?」
相変わらずコックピット内部は暗く、
「くそ!
機械の調子が悪い時は再起動という、電子機器が生まれてから現代にまで続く鉄則に従って再起動をすると、サブバッテリーからの給電が再度開始される。
「……もう一回」
再度電源を落として、そして付ける。
「……ヤベェ」
とうとうサブバッテリーからの起動すらしない。
(まぁサブバッテリーで起動していた所でどうしようもないから、
意味のわからないポジティブ思考で現実
「それはまずい!」
コックピットから立ち上がると
そして反動によって後ろに飛んでいくも、
「うおっ」
エネルギー弾がReXにあたる
シートベルトをせずにエネルギー弾にあたると衝撃が大変なことになるが、内部で暴れたおかげで、コックピットに直撃するコースから少し外れることができていた。
稼働していない状態で、そんなところに当たれば大ピンチ間違いなしだが、ReXの体の向きぐらいは変わったおかげで、足回りの損害だけで済んでいる。
「結果オーライってやつか?」
衝撃によって、給電がうまくいったのだろうか?
ふーふーと息を
「これはあれか……中身を取り込むべきであって、皮ごと取り込んだのが失敗か」
皮を取り込むことで、中のジェルがうまく取り込めなかったのであろう。
では、中身だけを取り込むべきであったのか? と言われれば難しい所。
生体電流を帯びたジェルは皮を
ワームビーストから直接エネルギーを補充するというのは、第十世代における基本コンセプトであるが、そのためにジャックテイルが付いており、バッテリーボックスにそのままエネルギーコアを入れるわけではない。
それはつまり――
「二回目同じ事はできない……それどころか……」
ラスターは最初の段階で帰投しなかった罪の重さを理解してしまう。
「バッテリーボックスがここまで
七世代型の一番の利点は、エネルギーコアの中身を投入できるため、給電速度が速いことである。
そんな利点も、バッテリーボックスを勝手に開いて、皮だの塵だの――そして、マイクロワームビーストの死骸だのを
バッテリー残量――68%
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