第34話 バッテリー切れ

「んあ?」


 気持ちよく敵をり続けていたラスターは、警告音によって正気にもどる。


「バッテリー、残り20%か……」


 警告理由に納得すると、そのまま気にすることなく、ワームビーストを解体する。

 そして、右手をばすと側面にあるレバーを下ろす。

 

 スカッ!

 

「あれ?」


 特に見ることなく手を伸ばしたので、下ろし損ねたレバーをつかむべく右側に目をやる。

 まぁ、そんなところにレバーはないのだが……


「あれ?」


 こっちか? と思い、左側にも目をくれる……そちらにもない。


「あれ? あれ?」


 思っていたのとちがう内部構造に困惑こんわくしながら、やってきた敵を斬り飛ばす。


「もしかして……ジャックテイルがない?」


 お遊び気分のなんとなくで戦っていた精神状態をえて、冷静に思い返す。

 今乗っている機体――量産型であるヴォルフコルデーを改造によって、過去に乗っていたシュバルツクロスに匹敵ひってきするReXに乗っている。


 それはつまり――シュバルツクロスではない。


 性能は同等でも、機能が同じ訳ではない……そのことを、ラスターは完全に失念していた。


「そうか……これ……十世代型ではないんだ……」


 エネルギーに対する考えが違う量産型の改造品。

 コロニーがほこるパイロット――ブリュンセルたちに送られる第十世代型の機体に初めて搭載とうさいされた特殊とくしゅ装備がこの機体には存在しない。


「これ……どうやって勝つんだ?」


 そもそも、ラスターは負ける気がしないだけで、一人で勝つ方法なんてなかった。

 それを分かっているが故、『死ぬか、帰還きかんをするから、お前らは戦う準備しろよ!』とえらそうに言っていたわけである。


 だが、この機体の性能――シュバルツクロスかと思うほどの、圧倒的あっとうてき性能に応えるべきだと思ってしまった。

 生意気なくそ餓鬼がき――こう思っていたのは、なにも武術科や軍の人間だけでない。

 整備士達も感じていたことは知っている。

 あれをしろこれをしろと、年齢ねんれいをわきまえずに注文を付けるラスターに、辟易へきえきしながらも要求に答え続けた理由は、彼らのプライドに他ならない。


 だからこそラスターも、生意気な態度は変えずとも、要求した見返りには応えることをちかった。

 つまり――シュバルツクロスに乗ったのなら、戦艦せんかん級が倒せない……なんてのはありえない。


 実際、愛けんともいえるギャランレイズがなくても、このブラックホールランチャーソードモードがあれば、戦艦級ごとき倒せるとは思っている――シュバルツクロスだったのなら。


「やらかした……あれ? どうしよう」


 若き天才パイロット、ラスター=ブレイズであろうとも、機体のバッテリーがなくなれば生きて帰ることすらできない。

 どうしよう? どうしよう? となやみながら、近づいてくる敵をばっさばっさと斬りはらう。

 動揺どうようと行動が乖離かいりしているが――この程度の動揺が機体に現れるようでは、そもそも近接戦闘せんとうは不可能である。


「どうすればいいんだ?」


 だれも居ない空間に疑問を問いかけながら、戦い方を省エネモードに切り替える。

 実体剣をまわし、ほんのわずかなブーストで態勢を整えてむかつ。

 気をつけていれば、もう少し長い間戦えるだろうが、根本的解決にはなりえない。


「あー、これはまじで死ぬパターンか?」


 あれほど――あれほどイキり散らした上で死んだとくれば、武術科の連中はさぞかし痛烈つうれつ愉快ゆかいであろう。

 ラスターとしても、武術科の人間がいくら死んだ所で、まったく気にならないことを思えば、死者の冒涜ぼうとくを責める筋合いは一切ない。


 心残りがあるとすれば――


「いや、ないか? 死ぬにしても問題ないのか……」


 どこか投げやりに、しかし真面目に分析ぶんせきしながら状況じょうきょうを考える。


 この後どうやって戦うのかは不明だが、ラスターは戦術にこそくわしくないが、戦艦級についてはちゃんと詳しい。

 戦艦級の厄介やっかいな点は、体中からき散らされる大量のエネルギーだんにある――のだが、それは遠距離えんきょり射撃をする場合においての話である。

 近くで張り付いて戦っていると、戦艦級はワームビースト生成……出産? に尽力じんりょくを注ぐ。

 そうやって急増で生み出された10m程のワームビーストは、普通ふつうのビームライフルでも一撃でほうむれるといった特徴とくちょうがあり、なおかつ、出産のみを続けた戦艦級は、一定の時間を置かないとエネルギー弾が撃てなくなる。


 そうなれば最後、数の暴力によって射撃でめば、倒すことはそう難しくない。


 よほどの技量がなければ、そんな状況に持っていくことも、増え続けるワームビースト相手に近くに張り付いたまま、かわし続けることも不可能なので、知られていなければ、知ってもあまり意味のない方法である。


あきれられるなぁ……」


 武術科の人間相手なら、間抜まぬけな諸行をいくら知られた所で気にもならないが、それがもし、ひめ様の耳に入ればと思うと、泣きたくなるほどずかしい。

 なにより自分が最強の機体に乗ってなきゃ、あっさりと死んでしまう間抜けだったことなんて知りたくはなかった。


「いや……それは違うか。この機体も性能としては高いよなぁ……」


 なんせ、剣を振り回すことしか考えていないシュバルツクロスと違い、あくまでじゅう格戦技のための稼働かどう力、汎用はんよう性ではむしろこちらのほうに軍配は上がる。

 せいぜい後ちょっと……十世代型に改造してくれていれば……なんてのはおこがましい話である。


「……ん?」


 むかし、軍の人間が自慢じまんげに語っていた内容――バッテリーが切れたピンチの時に、対処した方法。]


 それが使えたのは――


「第七世代の機体なら……出来るんだっけか?」


 エース機として充電じゅうでん速度の見直しのために、この機体が改造されているということをベラベラと話された覚えがある。


「方法は……えっと」


 記憶きおくをほじくり返しながら、メニュー画面を開くが、相変わらずうじゃうじゃとワームビーストは途切とぎれることなくやってくる。


「ちっ、もし生きて帰ったら。このUIに絶対文句言ってやるうううう」


 ユーザーインターフェース――メニューの操作性に文句を言いながら、せまりくるワームビーストをあいも変わらず倒し続けるのであった。



 バッテリーが20%を切ったことを知らせる警告音を盗聴とうちょうしに聞きながら、カンラギはスマホを手に取っていく。


 すでに準備は万端ばんたん。スカイミュール――ブラックホールランチャーを運ばせた運搬うんぱん機に、今はエナジーバッテリーを取り付けていた。

 あとは指先一つで指示すればラスターの元へ飛んでいく――周りに人が居ないをいいことに口元がゆるんでいるのがわかる。

 盗聴を疑われるリスクはあるが、そんなもの、事前に予測しておいたで誤魔化せる自信はある。


 それに、こうやって借りを作る方が大事であろう。


 後で借りは返してもらわないといけないわけだが、貸し借りなんてのは精算してもらうために作るのではなく、それを足掛あしがかりに仲を深めるためのツールである。


「……ジャックテイル?」


 取らぬたぬきの皮算用をしながら、ニマニマとしていたカンラギは、ラスターの様子がおかしいことに気づく。

 そして……致命ちめい的な問題に気付く。


 ――エナジーバッテリーをどうやって受け取ってもらうんだ?

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