第27話 カメラマン
(……なんでないんだっけ?)
気にもとめていないことを、いきなり
――そして、原因を思い出す。
「そうか……カメラマンがいなかったからだ」
「はっ?」
なぜ写真が、動画がないのか……それは、カメラマンが居なかったから。
「ほぉおおお」
笑おうとした顔を
「ぞうが、ガメラマンが……」
「だから……
「あぁ!」
――ぎいいいいいい
歯の間から
カンラギですら外聞をかなぐり捨てて、ラスターの胸元で震えている。
もっとも、その男こそが、
「お前らのコロニーでは、
「そんな訳ないだろ……」
他人の持ち物は
夜明け後にきた政治家やらなんやらは、まず
ちなみに携帯を持つ=カメラを持つである。
一眼レフのような話になると、それこそカメラマンですら持たない人がちらほらいるほどには
まぁ、昨今のカメラ事情なんてのは非常にどうでもいい話である。
今すべき話は……カメラマンがいなかったから、証拠なんてのはないといった話である。
――めんどくせぇ
なんだかんだ言っても、そもそもラスターはなんでここまで
相手の怒りになんとか納得――思いっきり誤解すると、会話することが間違いだと判断し、一人語り大好き研究者さながら、言いたいことを
「お前はカメラマンって見たことあるか?」
「はぁ?」
「
「……」
完全に本題さよならの話が始まったことに対してガレスは
「俺が、病院で見たカメラマンは、難病を
当時を思い出したラスターは苦そうな顔をする。
「そいつは、そんな汚い足を毎日毎日、そして何回にも分けて、写真に収めていった。やろうと思えば、同じ病気に
……意外と静かだなぁ。
観客はもちろん目の前のガレスまで、普通に聞くため、どこか居心地を悪く感じながらも話を続ける。
「当時は子供だったからな。今思えばかなり失礼な質問だが『なんでそんなことするのか?』って聞いたもんさ。
これは別に、カメラマンってスゲーという話より、その道のプロってすごい! そのようにラスターが初めて思った話である。
「その人は別に、自分の足が腐っていくのを楽しくって撮っているわけではない。気持ち悪くて、
カメラマンというより、ジャーナリストと言った方が正解かもしれない。
ラスターの知るジャーナリストは基本的に
「どんなに気持ちの悪い、目の背けたい光景であっても、それを直視して、写真に収める――それは、存外難しいことで、プロだからこそできるものなんだなぁって」
そして――ラスターの話は終わる。
当然だが、こんな所で終わっても、誰も意味がわからない。
夜明けの
しかし、
ほんの少しの
「……つまりは?」
「つまりって言われても……」
すごいなぁと言った話である。
言いたいことを言い終えたラスターは
それから病院に行く理由はなくなったこともあり、カメラマンがどうなったのかは知らない。そして、今周りにいる人たちはそんな部分はたいして気にしていない。
(あれ? そもそもなんでこんな話を?)
ようやく正気を
「つまりは、そういうことなんだよ」
「あぁ?」
いつになったら本題に入るのかと聞き流していたガレスは不快そうに聞き返すが、そんな様子を気にすることなくラスターは続ける。
「言っただろ? どんなに気持ちの悪い光景であっても、そんな写真や動画――つまり、カメラを向けることができるのはね? プロだからこそできる技なんだよ」
まだイマイチピンときていないガレスを見て、ひっそりと笑い――そして、周りどころか、カンラギですら、この言葉の意味を理解できていないことに気づいて少し
「夜明け、つまり俺がおこなったのは、ワームビーストが
ひっという悲鳴がどこからか漏れる。
戦争や
せいぜい、
「誤解しないで欲しいのは、そもそも救助活動の
これは後からわかったことだけど、ラスターが付け加える。
シェルターとはすなわち、民間人にとっての最終防衛ラインであり、ワームビーストにとって最高の
シェルターにいた人は、どこへ逃げるのか――ワームビーストが繁殖し始めている一般市街へ飛び出したであろうことは、誰もが簡単に想像できてしまう。
「その中には、うまく建物の中に
そしてそのものたちが――どうなったのか。
光が消えて、何も見えない真っ
それが実際どう見えたのかはわからない――なぜなら、その場にいたものはラスターを除いて全員死んだのだから。
「そうして周りにあるもの全部壊してから、コロニーに灯りをつけたんだよ。それが終わってやってきた人達の中には……多分、夜明けの写真を撮るつもりがあったものもいたと思うよ?」
証拠なんてものが必要でもなければ、興味がないラスターは撮ろうとは思わなかったが。
「だが、その中にカメラマンいなかった。いたら撮ってくれたのかな? ワームビーストの
宇宙初であるコロニーの救済。結局、情報が隠されなかったのは、実態を知らない人達が大喜びしたからである。
夜明けを直接見た人の中には、死者を
それらの後に取られた写真からは夜明けの
「夜明けをおこなえる者は正直俺以外にもいるよ。だが……夜明けをおこなったものは俺以外にはいない。なぜなら、夜明けとは単なるエコロジーでしかないからさ」
宇宙環境――というのは少なからず大事であるが、それでも千年も前に言われていた地球環境とは規模が違う。
そもそも、『ワームビーストに
三日三晩もかけてワームビーストを殺し続け、人が再度住める
それでも――
「夜明けを
そもそもの目的は、姫の願いを
「そんなちょっとしたエコ活動のお
「そう……か」
結局、証明そのものはされなかったが、語られた内容を周りの部下たちは受け入れ始めていた。
人類が宇宙で暮らし、ワームビーストと戦い続けて約500年。
数多の伝説が生まれ、今世代にとってはリトルナイト――つまりは夜明けの騎士こそが一番注目を集めている伝説といえよう。
(そんな伝説をあえて
神聖視していたが故に、それが間違いだと告げられると、事象そのものにまで嘘のように感じてしまう。
伝説が嘘――すなわち、逆説的に夜明けそのものは本当に起こったと
(だからこそ、冷静にさせてはならないわけか)
こんなくだらない話を入念に打ち合わせでもしていたのかと考えると、ガレスは心の底から
当然と言えば当然だが、彼は知る由もない。
時間のかかった原因が打ち合わせなどではなく、
『俺は自分のことを夜明けの騎士と思っているだけのただの
『あなたが本物か偽物でも問題ないわ! 協力して欲しい!』
などという、誰が見ても意味不明な内容で
「それなら――エコなんかではなく、このコロニーを本当に救ってくれないか? 俺達は今、危機に
そう言ってガレスは手を差し出す。
「あぁ、そのために来た」
「今、
「知恵……ねぇ」
戦艦級に関する知識なら、ラスターはそこらの他人より多く持っているつもりだが、それにしてもなぜ戦わせたがらないのか?
自他ともに認めるリアリストのガレスだが、それは、冷静な思考から来るものではなく、ロマンに対する
そのため、目の前にいる相手が夜明けの騎士でありという事実に結びつける事ができず、カンラギの操り人形ないしは
そんな思考を理解できないラスターはどうすれば良いのか悩んでいると、ブザー音が
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