第26話 夜明けの騎士の証明
「……何してたんだ?」
「ちょうど用事が終わったのよ」
ヒーローメイカーの
「これが?」
190近くの長身で、黒色のマスクに真っ白なローブをした男。
「
不審者丸出しの男を
「夜明けの
「夜明けの騎士だぁあ?」
いきなりやってきた男が、夜明けの騎士と名乗っていれば、それはまず
「お前が?」
正体を
「
昔の手法を思い出したガレスは、カンラギを
過去の記録によると、今と同じ絶望的な
その男は当時有名なワームハンターで、ちょうど
直れば状況が好転するから、今だけは死力を
しかし、救世主が役立たずだったわけではない。
むしろ、彼は自分の無力さを
つまるところ、士気が高ければ危機は乗り越えられる……と言ってしまえばそれで終わりだが、この話には裏がある。
そもそも、救世主や壊れたReXなんてのはでまかせだったのだ。
彼らは存在しない希望を胸に
むしろ、
だが、その戦いでは多くの死者を出してしまった。
絶望よりも希望を持って戦った方が、良い結果が得られるという好例であると同時に、どれだけ努力しても死という結果を
武術科の生徒や、パイロットが
それでも――
「お前、死に急がせる
ヒーローメイカーを使えば、
しかし、死者は減らせるだろう。
だったら、どんな手段を使ってでも生き延びることが重要であると考えていた。
「あんな、
「御伽噺?」
「夜明けの騎士なんて――そんなもの
「それは……」
夜明けの騎士なんて証拠を持っていなければ、なぜここにいるかも知らない。
あくまで、いまは亡き元一番隊隊長の話から推測を積み上げていっただけに過ぎず、正体の確信についても
それでも、どうにか言いくるめなければならず、必死に頭を回しながらカンラギは口を開く。
「くだらない」
カンラギが何か言うよりも早く、ラスターが上から目線で口を
「安心しろよ。本物さ。だから
副会長のガレスを一笑に付すと、カンラギの
カンラギを抱きしめる夜明けの騎士――ラスターに対してガレスは血相を変える。
「てめぇ! 何してんだ!」
学術科相手だとあまり知られていないカンラギ副会長であるが、武術科相手には
美人であるというのもさることながら、ReXに対する
そんな武術科のアイドル的存在が、どこの馬の骨ともわからない男に、ベタベタとされているのを見過ごすわけにはいかない。
「お前ら、自分の立場分かってんのか?」
今は
その中で、気になる女性が知らない男に抱きしめられていて『さぁ!
なによりも、周りを
「あぁ、ちゃんとわかってるさ」
ガレスの考えがわからないまま、ラスターは自信満々に
ラスターの目的は
つまり――だからこそ、カンラギを抱きしめているのであった。
(絶対に
派手なマントにキザな話し方――誰かに見れたら
彼女だけは絶対に
もし、ここで見捨てられでもしたら……
あまりの
見た目だけなら、美女を抱く騎士に見えなくもないが、精神的には見捨てないでくれと女に縋り付く男と言った方が正しい。
そして――そんな内情をガレスが知る由もなく、
「お前のどこがわかってると言うんだ!」
「むしろ、わかっていないのはお前だろ。この俺が来たんだ。
「なっ!? お前はなにを言っているんだ?」
根本の認識からして違う二人の意見が噛み合うことはない。
「なにが夜明けの騎士だ――夜明けの騎士って言うのなら、その証明をしてみせろ!」
ガレスは部下のモチベーションを心配しながら
今はまだ戸惑いの方が大きく、
そんな中でモチベーションが下がってしまえば、ヒーローメイカーが認められたところで犬死にを量産しかねない。
「証明? そんなことできるわけないだろ」
ラスターはやれやれと言った態度で、ガレスを
「こんなことになるとは思っていなかったからな。なんで証明の準備をしていると思ったんだ?」
「証明できなければ、誰がお前のことを信じるっていうんだ?」
「好きにすれば? 信じないなら、それでいい」
「だったらお前は何しにきたんだ! カンラギ! いったいどういうつもりだ! 答えろ!」
これから
(……なんて言えばいいのかしら?)
呼ばれたところで返す言葉を持ち合わせていないカンラギはなんと言うべきか
ガレス側の意図も言い分のわかるのだが、意向のすり合わせは非常に難しい。
彼が求めるのはヒーローメイカーの使用。ただそれ一点に尽きるし、こちらとしては夜明けの騎士の投入を
(問題は、夜明けの騎士が入ればヒーローメイカーがいらないことね)
本物であると納得したなら、ガレスとて
だが、それ以外の場合において、認めてはくれない。
副会長としての自覚ともいうべきか、周りのモチベーションまで気にしている彼からすれば、状況は刻一刻と悪くなっている。
「あなたは本当に夜明けの騎士?」
カンラギはガレスではなくラスターに向かって声をかけた。
「はっっ……。そうだ!」
ラスターは知らないふりをして逃げるか
しかし、証明能力ゼロの
「誰が信じるっていうんだ。そんなこと!」
「でしたら、あなたはどのような証明を求めているの?」
「なに?」
カンラギはラスターの腰に
「本人が名乗ったところで納得しないのはわかるけど、では、どのようにすれば納得していただけるのかしら?」
「それは……」
思案するガレスを見て、カンラギはほっと一息つくとラスターに身を預けていく。
(しかし――意外としっかりしているのね)
身長が5cm以上も変わる厚底ブーツを
そのまま、さらに体重を預けると、相手に聞こえない小さな声でラスターに
「あとはあなたに全部お任せするわ」
「なっ!?」
あまりの投げっぱなしにラスターは言葉を失うが、カンラギがにっこりと笑って胸元へ
「
「そうかよ」
ラスターはカンラギを思いっきり――
「ひゃぁぁん」
力強く甘美な
(やらかした!)
ラスターとベタベタすることを部下のためにもガレスが許せないことは知っている。
集めていた注目はこれまで以上に増えていき、手に負えない可能性が見えるレベルにまで達していた。
(頑張って――夜明けの騎士様)
本来は証明を要求するガレスを大人しくさせる予定であったが、なんとしてでも
下手したら、団結なための
これからどのようになるのか、カンラギは特等席で高みの見物することに決めたのであった。
ちなみに、一番心臓に悪い席なのは言うまでもない。
ぎゅっと抱きついてくるカンラギを強く抱きしめ返したラスターは、ガレスの殺気が強まったことは理解していても、本質はなにも理解していない。
「お前のせいで死者が増えたら、お前が殺したようなもんだぞ……」
「死ぬ間抜けが悪いだろ」
「なっ!? てめぇは……てめぇは一体なんなんだよぉ!」
「あと何回同じやり取りをすれば気が済むんだ? 夜明けの騎士だ。もうこれ以上は流石に言う気はねーぞ?」
「お前の……お前のどこが夜明けの騎士なんだ……」
ギリギリと
状況判断に欠けた言動。
リトルナイト――夜明けの騎士とは似ても似つかぬ人間性。
「お前みたいな騎士がいるかよ……」
「眼の前にいるだろ。あんたの見識が
『そんな訳あるか!』と
見識が広いとか狭いとかの
「本当に騎士だというのなら、答えろ――なぜ証拠がないんだ?」
「同じ話を何度も――」
「お前にではない! なぜ! この世に! 証拠がないんだ!」
「写真や! 動画が! それを示す証拠が! なに一つないのはどうしてだ!」
夜明けをおこなったという伝説があり、リトルナイトに名前を変えて、コミカライズやノベライズ、映画化までおこなわれた夜明けの騎士だが、
その証明力のなさが、伝説であり、ロマンであり――そして、誰も本気にしない
――偽物の希望で、他者を
「本物だというのなら答えてみせろ! なぜ証拠がないんだ! ……いや、どこにならあるんだ?」
「んー?」
目を血走らせたガレスとは撃って変わり、ラスターは遠い目をして首を
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