第24話 パルストランスシステム
二つの足音を
一つはカンラギの足音――足の
そしてもう一つはラスター……ではない。
不安定な足場を、神経使いながら歩いているので、物の上に乗ったところで、カシャッと小さく鳴るぐらいであり、無音ではないが響いてもいない。
そして最後の一人――ではなく一つは全身ピンク色のクマのぬいぐるみ。
のっそのっそとガラクタの山の上を歩き、大きな足音を立てながら、ラスターの後ろを追い続ける。
「……なぁ、これなに?」
「ん? マークちゃんよ」
「そうか……」
研究所で聞いてもないことをベラベラと話し始めた
「パルストランスシステムって知ってる?」
まるで答え合わせのように、どこか
質問で会話を始めるのは、あの研究所に所属する人たちの
「はぁ……まぁ」
気のない返事で
「さすが、夜明けの
うっとりとした様子の
夜明けの騎士だから分かったわけでもない。
ブリュンセル――いわゆる、トリヴァスで十位以内の実力者として入った者として聞いたことがある。
そして、そのシステムはいわゆる――
「
もしかして
「そうよ。
あやしい思想に
「あれが欠陥品なんて言われる理由は、
早口で
「分かった?」
「うん!」
――何も分かっていない。
最初から知っている知識から、何一つとして増えていない。
「つまり、マークちゃんはその
どれ? といって聞けば、何も話を聞いていないことがバレるセリフをグッと飲み
「えっと……じゃあ、このマークちゃんとやらは自動
「えぇ、そうよ。これは私が制御してるの!」
「……そりゃスゲェ」
ラスターが知っているパルストランスシステムとは、脳波で機械を操作することである。
人が右手を上げる時、体の筋肉と同様に、脳波も右手を上げる時の波長を形成している――らしい。
一時期流行った乗り物では、行きたいと願った方向に進む機械があった。
それは、願いがわかる乗り物というわけではなく、行きたい方向へと本能的に動かす重心を察知して、それに合わせて動いているというだけである。
パルストランスシステムの場合だと、重心ではなく、脳みそから出ている脳波を察知して、動くという仕組みになる……らしい。
そして、そんな体を動かすことなく、考えるだけで、やりたいことが出来る夢のようなシステムは――夢のままに終わった。
動く――そのこと自体は可能であったが、誤作動が多く、当たり前だが、使う機械にも事前に対応させる準備が必要となる。
さらに対応機器が増えれば増えるほど、複雑すぎて誤作動だらけとなり、少なすぎると存在価値が消える。
それがReXに
「ねぇ、見てて」
そう言ってカンラギは少し
ふわりと
目が
ゆえに、その目を離した結果、ラスターはぬいぐるみの動きもばっちりと確認できてしまった。
「どう?」
――そうだな。
ふわりと舞うスカートにさらさらと振り乱れる
「まぁ、床にこれほど物が散らばっている状態でやることではないよな」
「確かに……転けちゃうかと思った」
テヘッと
――これは早く話を変えなければいけない。
好きな話にガードが
「これ、器用に動くんだな!」
ラスターは話を
持ち上げた人形は、ずっしりと中身が
「えぇ!
「そうか……」
不安定な足場の上を、片足で回ってのける機械――二足歩行ができるぬいぐるみなんて、よっぽど
「ちなみに、これは私が作ったんだからね」
嬉しそうな顔をしながら自分の頭――ではなくヘッドフォンのヘッドバンドを指差す。
それって自分で作るものなのか……? と疑問に思っていると、ようやく真相に気づく。
――なぜ、彼女は似合いもしないヘッドフォンをいつも持ち歩くのか?
「それって、もしかして脳波読み取り機なのか?」
「そうよ! だから、外しちゃうと――」
ガシャッと音を立てて、ぬいぐるみは
「マジかよ……」
冷静になったラスターは状況のおかしさに困惑する。
そもそも、後ろのぬいぐるみはずっと自動制御で動いていると思っていた。
だからこそ不可解な動きにも、気にすることなく流していたのだが……もしかして、最初からずっと操作し続けていたのか?
「きゅーい?」
「んふっ」「きゅーい」
ラスターは恥を
「もしかしてさ……こいつをあの中に入れたのって、時間
再度ヘッドフォンを
「もちろん!」
「やはりか……」
だからこそ、行こうとするタイミングで、気を引く行動をして、こちらの移動を
「……? でもどうやって、分かったんだ?」
「なにが?」
「パルストランスシステムって、脳波で操作するだけだろ? でも……お前、こっちを見てるよな?」
ぬいぐるみの行動を思い起こせば、明らかにこちらの行動を視界に入れている。
しかし、パルストランスシステムとは、脳波からの情報をアウトプットするだけの機械であり、インプットは不可能だったはずでは……
「えぇ! これで見ていたのよ」
そう言ってメガネを外すと、クルリと回して、中のレンズを見せてくれる。
レンズには映像が表示されており、ここからではさすがになんの映像かはわからないが、そこでラスターの動きを確認していたのだろう。
――なんと言いますか、こいつって……もしかして、あらゆる道具を電子機器にしたがる人種か!?
オシャレにしては無骨なメガネだと思ったりもしたが、まさかである。
「確か……
「やめなさい!
「おぉ……そうだな」
別製品と同じ名前を使うのはよろしくないな。表記は違うけど。
「そもそも、
「そう……か……」
それがどういう意味なのか、正確には理解していないが、深く問いただせば説明の
「それのお
――早すぎね?
ぬいぐるみに
「ま、まぁ、実質そうね。マークちゃん以外からも見てたけど……」
「へぇ……たとえば?」
「……」
カンラギは、つーんとそっぽを向いて、必死に
――あまり言いたくないものだろう。
あまり言いたくなくて、人が確認できるもの……その上、映像で確認して、彼女が副会長ということも加味すると?
「
「……まぁ見れないこともないわ」
副会長権限ってそんな気軽に行使していいもんじゃないよね?
どこか誤魔化した物言いだが、バツ悪そうな表情は、告白と同義である。
「それで、監視してたのか? ――保健室前を通り過ぎるかどうかを?」
「そうよ。向かい始めたのは、あなたがトイレの前を過ぎた時だけど」
「そうかい」
「他になんか小道具ってあるの?」
どこかびっくり箱でも見ているような気に陥り始めたラスターが聞く。
「もう、なにもないかな。でも――」
いたずらっ子のようにクスッと笑みを浮かべて、
「驚くのはこれからよ! さぁ、付いてきなさい!」
楽しそうに言うと、出口に向かって歩き出し――すぐに足を止めて、ぐるんとこちらに振り向く。
「あの……一応だけど、今からあなたを驚かせに行くんじゃなくて、ReXを
「そりゃそうだ」
話したいだけの話に付き合った結果がこれである。
そして――驚きはここでは終わらなかった。
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