第22話 暴かれた過去
「なんでここに」
「少し野暮用があってね」
ツンと
「走ってきました?」
「えぇ、マークちゃんを押しのけて、
乱れた
それはさながら湖の上を優雅に泳ぎながら、ばた
白鳥なんてこの世にいるかもわからなければ、そんなことよりも、気になることはごまんとあるが――いやほんと、なんでヘッドフォンをしている?
「……声、聞こえます?」
最初に気になるのはこれであった。
これまでの会話から、聞こえているのだろうと察しはつくが、いかんせん今の状態はなんのことやら。
ヘッドフォンを首ではなく耳にかけるのは
それはおしゃれ……かなぁ?
しかも、どうしてメガネまでかけているのか? 目が悪いのか、それともファッションなのか……後者だとしたら属性てんこ盛りを目指した
「青い光の時は、ちゃんと聞こえてるわよ!」
「青以外もあるんか……」
小声のツッコミだが、本当にちゃんと聞こえているらしく、こくりと
「この時は聞こえないわ」
あっさりそう言うと、青色に変える。
「このヘッドフォンは赤色の時が音声
「へー」
――外せば良くね? ってツッコミは野暮ってものだろうか? 常識といった気もするが。
「何しに来たんです?」
「それは、あなたこそ」
――確かに。
真っ当な切り返しに
「いえ、
真面目な顔で彼女の口から出た言葉が、想像だにしない内容のせいで、ラスターは思いっきり顔を
「……なんの話だ?」
「あなたが、夜明けの騎士よね?」
疑問系を装っているが、本人は確信しているだろう。
「それは……」
しどろもどろの言い訳は、
だが、そんな様子のラスターに、カンラギは別の名前まで出してくる。
「じゃあ……リトルナイト?」
「それはやめろ! マ! ジ! で! やめろおおお!」
隠すことを
当時は存在すらしなかった呼び名――十年も前の出来事をほじくり返して、クソ
「やっぱり、あなただったのね」
正解を知ったカンラギは
――やっぱりっておい!
ハッタリ
それでも、認める訳にはいかないラスターは全力で
「いや、お前の言い分は間違っている!」
「間違い?」
どこか理解しかねる顔をして、カンラギが聞く。
自白したも同然の反応をしながら、何をもって否定するのか……カンラギにはわけがわからなかった。
「そうだ、
「俺が、自分のことを夜明けの騎士だと思っている……ただの痛いやつだけの可能性があるからな!」
「えぇ……」
この世で、これほど恥ずかしい内容を堂々と言い切れる人間性の持ち主が、いったいどれだけいるだろうか?
「えっと……つまり?」
「つまり? ……えっと、つまりだな……俺は夜明けの騎士だと主張するには、
いたずらがばれた子供でも
100%の根拠はカンラギとて持っていない。
もしかして? の推論から、導き出した答えな訳であるが、この手の説得には滅法強い女であるカンラギは、ラスターの目をしっかりと見つめて答えていく。
「最初に言うとね……ちょっとだけ、知っていたの」
「何を?」
「リトルナイト――あのお話に出てくる騎士が実在したこと、そして、
「……あんな
二
「えぇ、フォビルくんが言ってたから――何十回も戦ったけど、小隊を率いて、なんとか一度だけ勝てたことが
「へー……
過去に負けた
「えっと、昨日話したでしょ? 元一番隊隊長で、その――半年前に亡くなった……」
「あぁ!」
確か昨日の雑談中に同じコロニー出身であったと言っていたことを思い出す。
大多数コロニーではただの創作物でも、同じコロニーなら元ネタが本当であることぐらいはわかるのだろう。
「そして、昨日見たのよ」
「……なにを?」
「私と別れた後、真っ直ぐに帰らずに、ここに寄って来ていたのを」
「うっ……」
正確には、寄っていた所そのものではなく、そこから帰る場面を見たのである。
それから、カンラギは何をしていたのか調べ、ReXの
「まぁ、確かに寄ったけど、それは証明にならんだろ」
勝手な
「ここにはいろんな機体があるわ――その中で普通これを選ぶ?」
「……あぁ! もちろん?」
言葉に
射撃を基本とするワームビーストの
しかし、決して変ではないのだ。自分のことを騎士と
「昨日の話と行動で、まさか? と思っていたのよ」
「そうか?」
そうなるもんか? とラスターは首を傾げるが、カンラギがそう思うにも理由があった。
それこそ、ラスター相手にフォビルのことを話していたからである。
リトルナイトのことについて教えてくれたフォビルのことを思い出す最中、見事に
「あとは実戦の様子ね」
「へー」
何か問題が? みたいな顔をするラスターに、演技なのか素なのかでカンラギは
「ワームビースト相手に無茶苦茶な位置取りで戦ったり、わざと主電源を落として見せたり?」
「うっ……」
気付かれていた事にラスターは
前者はとぼけられると
そして何よりも、フランを助けてくれたお礼を言うべきところであって、
「そもそも、今回のことはあなたに任せるべきじゃないことは、重々承知しているわ――あなたのおかげで、
「俺のおかげ?」
ラスターは思い出そうと
「どこから聞いていたか知らないけど……あなたが最初に『敵の数が多い』って言ったでしょ? 事は予定通りに進んでいて、
「それ……で?」
ラスターはワームビーストとの戦闘に際しての常識は知らないが、生態にはちゃんと
観測していない戦艦級の群れの一部が、今回の相手に合流したため、予定よりも敵の数が多くなったのだろう。
そして、ラスラーが
よくぞ気付いたと
しかしながら――
どこかおかしな、言い知れぬ違和感。
はっきり言って戦場に放り込まれた素人が言っていてもおかしくない――いや、さらにおかしいことは……
「それにね? あなたが夜明けの騎士かどうかは実のところ、問題ではないの」
「あぁ……おぉ、そうか、そうなのか?」
「えぇ、そうよ。あなたが自分の意思で、ここに来てくれるのが一番重要だもの」
ラスターの両手を
「あなたは保健室に行ったってよかったのに……それなのに、こちらへ来てくれた」
「……!?」
ようやく気付く違和感。こいつは、いつから――
「な、なぁ……」
「なに?」
「お前が戦艦級の存在を知ったのはいつだ?」
「あなたが戦っている最中よ」
驚きながら聞くラスターに対して、カンラギはあっさりと答える。
「それはどう言う……ことだ」
ラスターは……ラスターは、カンラギの戦艦級に驚く悲鳴が聞こえたからここに来たのである。
「戦艦級の存在を知ってから、私はあなたに
そして、悲鳴を聞いたラスターは彼女の思惑通りに、ここにやってきたわけである。
「不快にさせたなら、ごめんなさい。でも、私達はあなたに力を貸して欲しいの。そのためにはどうしてもあなたの意思が必要よ。
――お願いではなく、自分の意思で選ばせる。
これは戦いを
「それに――あなたの武功を武術科のみんなが評価しているわ。そんなあなただからこそ――」
「
「えっ?」
どこか遠くを見つめながら、はっきりとされる否定に、カンラギは戸惑い……そして、受け入れた。
「そう……ね。信じていない人もいるわ」
夜明けの騎士という存在――つまりは、リトルナイトの登場人物が実在していると信じる人なんているはずもなく、
夜明けとは――文字通り夜が明けること。
人類の生活が地球からコロニーへと変わったことで、消えていった言葉がある。
『陽はまた
雨を降らせるには
また、陽はまた昇るに関しては少し違い、確かに事象としては存在する。
コロニーの進行方向から見て、左側から太陽に相当する光が差し込んで、右側へ移り消えていく。
コロニーによって差異はあるが、このスーデンイリアでは六時から二十時までの十四時間が光の差している時間である。
しかし、それはただの事象。
希望を太陽の光と解き、絶望を夜の暗闇と暗示した場合――明けない夜がある。
一番ありきたりな話が、ワームビーストに
エネルギーを吸い
そんなはずの世界で、当時八才の騎士は、コロニーに巣食うワームビーストを、72時間かけて全て倒し、コロニーに光をつけた――まさしく夜明けを行ったためについた名前が夜明けの騎士――ちなみにリトルナイトとは、そんな夜明けの騎士を元に製作された作品の名前だったりする。
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