第20話 ヒーローメイカー
「はっははは!」
「何が面白い!」
いきなり
「面白いじゃねーか、
「どれだけ損害が出ているのかわかっているのか!」
「二人とも、落ち着きなさい」
この
「ガレスくん、何か手があるのですか?」
「えぇ、カンラギ副会長――とても良い手がありますよ」
ニタァといやらしい笑みを
「ヒーローメイカーの使用許可を」
「ふざけるな!」
言うが早いかシズハラが秒で切れ、周囲の人間は顔をこわばらせ、怒りとまではいかないまでも、
ヒーローメイカー――いわゆる危険薬物である。中毒性、
正しい使い方をすれば、
それこそ――まさにヒーローのような能力。
通常とは
もっとも、
「そんなこと、認められるわけがないだろ!」
「認められるわけがない? 他の手段もないのに?
「そうは言ってない!」
「そう言ってんだよ!」
「やめないか」
すぐに
この仲の悪さこそ、彼がナルギ=シェーンに代理を
「でも……他に方法はないですよね」
ボソッとナルギが想いを溢す。
仲が良い方ではあるが、彼女も決して、シズハラのイエスマンではない。
命令には従うが、意見がないわけではなく、そしてシズハラはその言葉に目を見張る。
「そんな……ことはない。みんなでやれば――」
「みんなで
ガレスの意見に全員が
餌になれとは言えずとも武術科が逃げたら、それはコロニーの終わり。
そして、そんなことをすれば、一体何のための武術科であるかもわからなくなる。
進むも
それは、ガレスとて状況的に同じだが、ヒーローメイカーが意味する重みは少しばかり
基本的には違法――非常時にのみ使用される危険薬物であっても、コロニーごとによって法やルールに違いはある。
彼のコロニーは合法とまでは言えずとも、他コロニーより、使用に対する制限の
その分、独自の
だが、人間というの生き物は肉体だけでなく心も弱い。副作用が抑えられると、今度はヒーローメイカーが持つ
そして、その薬を使用するには彼のコロニーで生きていくしかない――ガレスにとってはヒーローメイカーの使用は自コロニーの人材補強にもつながる。
であればこその提案――彼にとってこの状況は商売の一部でもあった。
個人の
ガレスを除く全員が、苦しそうな顔でこれからの
「……カンラギ?」
眼鏡型
「えぇ……なに?」
「なにって……」
外からでは映像を表示させていることがわかりにくいタイプということもあり、ヒヤマ以外はカンラギがかけている眼鏡が、どう言ったものであるかはわかっていない。
その事について、
「おい会長さんよぉ。ヒーローメイカーの使用を許可してくれるよなぁ?」
第一、第二と付くように、生徒会としての権限は第一の会長が一番高い。当然、
「戦艦級との戦域範囲にはいつ
「えっと……三時間以内かと」
カンラギは観測班に予定を聞く。
ちなみに光速航行の準備にはワームビーストは約一日かかり、
もっとも、光速航行の予測自体も絶えず行われているので、実際一日を持ちこたえたところで来てくれるとは限らない。
退治、ないしは
「そう。だったら、二時間ほど
「……はっ?」
カンラギの意見に全員絶句する。
「いや、まだ敵はビュンビュン飛んでいますが?」
ガレスが
「そんなことをしている場合か?」
シズハラも
「もちろん、全員じゃないわ。一番隊と五番隊、七から十一番から半数以上を
「……過半数以上の隊ではないか?」
計算弱めのシズハラさんがおずおずと
「隊数はね、でも隊員の半分は残って
「ふーん」
ガレスはカンラギ副会長からゆっくりとシズハラ会長へと目を移し、再度カンラギ副会長へと目を向ける。
「おやさしいこって」
相変わらず皮肉げに言うと、ガレスはふぅーっと一息つく。
「まぁいいさ。ヒーローメイカーの許可をしてくれるんならそれでもかまわねぇよ」
「そうは言ってないわ」
「なに!?」
「今言ったのは、あくまで今すべきことよ。ヒーローメイカーの使用自体、二時間後に決めて問題ないでしょ」
ピシャリと言ってのけるカンラギ副会長の意図を理解しかねるガレスは、
効果の都合上、三十分前には飲む必要があるとはいえ、その決議をわざわざ先延ばしにする事は彼の性に合わない――それはカンラギにしても同じことであるとガレスは見ていた。
口先では否定しながらも、しれっと
「また、
「大事な話よ」
口先だけの
「何か手段があるのか?」
そんなのは絶対にない。そう言うつもりでの質問であったが、カンラギ副会長は肩をすくめながらも
「保証はないけど、二時間以内に
「わかったよ」
カンラギ副会長を信用するヒヤマはあっさりと受け入れるが、ガレスの方はそうはいかない。
「待てよ」
「時間がないんだけど?」
「何するつもりか知らねーが、三回目の出撃からは十番隊を外せ」
「……なんで?」
「当然、ヒーローメイカーの服用候補だからだ」
「……なんで?」
疑問に
「こちらこそがなんで? って話だ」
ガレスが
「リーフに使わせてるあれを、薬の力で底上げしてやれば……お前も内心思ったことがあるんじゃねーのか?」
「そんなことないわ」
素っ気なく
「一番隊の出撃には賛成してやる。だが、いくら使用を許可された所で、戦艦級を
「ありえないわ。そもそもヒーローメイカーの使用を仮に許可したとしても、強制はしないわ――もちろん説得もね」
「やれやれ、いくら子飼いの隊が可愛いからと過保護はいかがなものかと」
ガレスは
「まぁ……だとしても
「っ――」
回りくどい言い回しに、カンラギはガレスの
だらだらとくだらない、こちらがやるはずもないことを抜かし続けたのは、この本命を通すため――リーフ=アルビデのヒーローメイカー服用を邪魔させないためである。
何を言われたとしても、カンラギはリーフへ薬を飲ませるつもりなどなかった
しかし、誠実さが災いして、飲んでくれと
カンラギとガレスは
つけているメガネに表示されている画像は、視線
そして、このどこかミスマッチなヘッドフォンは、音質を上げる努力を
ガレスに目線を固定した視界の
「そう……ね……」
これから、ガレス副会長を
そして――
「邪魔はしないわ。リーフくんが飲むっていうのなら……その
覚悟を決めた表情で言うカンラギに、ガレスは喜色満面の笑みを浮かべていく。
「それでも、二時間後の決議までは、まだ決まってないからね」
しっかりと
「手があるってのならやってみるといい。
思い通りになることを、確信しているガレスを
その道中、彼女が
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