第17話 外れるビーム

 たよりにならないAI補助を反省して再度ねらいを定めると、ビームが一本――そしてもう一本降り注ぎ、スカッ、スカッと二発とも外れる。


「……すまん、しんどくてな」


 先程の操縦はかなり疲弊ひへいするのであろう。隊長にまで選ばれておいて、そこそこ近い距離きょりで外してしまった事を隊長が申し訳なさそうに謝る。


 それでも、ラスターは気を取り直し、相手に狙いを定めて……


 次は下から飛んできたビームがワームの体をつらぬいていく。


「へっ! ラスター大丈夫だいじょうぶだったか?」


 下側の応援おうえんに行っていたケニスがこちらにやってきて助けてくれたようだ。

 

 ――まぁ? もうここまでくれば当てれましたけどね!

 

 疲労によりポンコツと化したリーフ隊長は大きく距離を取り、残り五体程となったワームビーストが近づいてくる。


 問題なくたおせる――はずであった。


 二発も外したリーフ隊長のせい……だけでなく、ヨレヨレの雑魚相手に外しすぎたラスターも悪い。

 想像よりも機敏きびんに動くワームビーストにラスター達は戸惑とまどい、さらにビームを外してしまう。


 今の数発程度ぐらいはすでに問題ないのだが、これまでにったビームの残りかすで成長してのけたワームビーストが彼らをおそっていくる。


「くっそ、当たらない」


 これまでに撃ったビームの残り滓で体力を回復したワームビーストがエネルギーだんを放ちながら、ラスターに向けて飛んでくる。

 しかし、それは近づくと言うこと――つまり、非常に狙い打ちやすい。


「ここだ!」


 連射モードにえたラスターは数発外しながらも、なんとか敵にビームを浴びせ続けることに成功する。

 そして――


「きゃー」

「フラン!」


 残りの二体は両方ともフランの元へ。


 ケニスとの距離が未だ遠く、他二人もその場から離れたため、フランがおとりとなってしまっていた。

 ワームビーストに襲われたフランは、全力で距離を取ろうと一直線にげるが、一度張り付いた二体のワームビーストは離れない。


 いく人もの相手をほうむったかまのような前足をまわし、ReXの装甲そうこう徐々じょじょけずられていく。

 もがくようにしながら苦しむフランを助けるべく、ラスターはビームライフルを撃ちまくる。


 しかし、悲しいぐらいに当たらない――というか当たらなすぎた。


「なんか……無駄むだに動かね?」


 フランが――ではなく自分が。


 評価項目こうもくにおいての安定性――つまり、姿勢制御せいぎょの評価は低くとも、ラスターは苦手としていない。

 それでもなぜか撃つたびに姿勢にずれが生じる。

 未熟なうでが悪いと言えばそれまでだが、だとしても、例え失敗したところでAIによる照準の補助を考えれば、この距離では当たらずとも、ビームが明後日の方向に飛んでいくのはおかしい。


 コックピットにひびくフランの悲鳴に焦燥しょうそう感をられるが、ラスターの腕では何度やってもかすりすらしなかった。


「いや、逆か!? 補正のせいか!」


 照準の自動補正は敵に当たるようにするためだけでなく、味方に当たらないようにするためでもあるとようやく気づく。


「くそっ! だったら!」


 ブーストをかして、フランの元へと飛ぶ。


「やめろ! 左から来るぞ!」


 フランの悲鳴と一緒いっしょに、リーフ隊長が無鉄砲むてっぽうむラスターへ危機を告げる。

 なりふり構わない突撃は左から来ていたワームビーストにとって格好の的であった。


 ラスターは再度、連写モードに切り替え、左からめてくるワームビーストに弾をたたむと、そのまま左に移動して死骸しがいとなったワームビーストと接触せっしょくする。


「ラスター!」


 リーフ隊長のさけぶ声が聞こえるが問題はない。


 実際の所、触れた瞬間しゅんかんに無理やり引いたレバーのせいで、態勢がくずれたように見えるだけである。


 本題はここから。


 ラスターはコックピットの左にあるメンテナンス用のふたを開き、そこからケーブルを適当に一本く。

 メインバッテリーとの接続が切れたReXはほんの数秒後にサブバッテリーへと移行する。


「これで!」


 サブバッテリーでは容量が低いため、一部にしか電気が回されない――AIによる照準の補助も、電力がまかなわれないシステムの一部であった。

 フランにまつわりつくワームビーストに狙いを定めると、引き金をひく。


「くっ……」


 一体は倒したものの、もう一体が倒し切れない。しかし、ワームビーストと距離ができたフランは残りの敵を振り切ろうと加速させる。

 そして、ラスターは二発目、三発目と撃つが……補助がない所為で、追いかける敵に根本的に当たられない。


「これ以上は、バッテリーが……」


 ビームライフルのビームはReXからの給電によっておこなわれるが、撃つタイミングに行われている訳ではない。

 ラグを減らすために事前にある程度までは貯めているため、給電の行われないサブバッテリーでもビームを撃つことができるが、バカスカ撃てば一瞬で電池切れになる。


「……何を?」


 二番隊隊長――ガレスの乗った機体がフランの機体に向けて鉄球を向ける。


「間引き……か?」


 人間はワームビーストのえさとなり、だからこそ、われそうになるぐらいなら……殺してしまえの考え方。


「やめろおお!」


 叫ぶラスターの意見はむなしく、鉄球から放たれたビームがフランの機体に当たる。


「フラン! ……ん?」


 フランが乗った機体からワームビーストは引きがされたものの、バッテリー部分は露出ろしゅつしており、事切れたように動かない。

 つまりは最悪の状態。このままでは無惨むざんに食い殺される運命が待ち受けている。


「いや、そう言うことか!」


 多分、隊長機には、照準補助が付いておらず、そして何より、ガレス隊長の戦い方は、多量のビームを無差別にぶっ放すと言う性質上、一発一発の威力いりょくは低い。

 端微塵ぱみじん破壊はかいによる間引きではなく、低い威力での攻撃で、動きを止めるのが目的である。


 動かないフラン機に、ワームビーストは動力部に向かって、エネルギーを吸収しにい寄っていく。


「そこだ!」


 動きが読みやすくなったワームビーストにラスターは狙い撃つ。

 

 スカッ――

 

 フランに当てるヘマは犯さなかったものの、狙いを見抜くのが一足おそいラスターは、あわてて撃ったビームをあっけなく外してしまう。

 だが、二発目を撃つよりも早くに三本のビームがワームビーストを点で交わり、敵を撃破する。


 だれかわからない一人――二番隊の誰かであろう機体と、ケニスにリーフ隊長の三人がものの見事に命中させて、ワームビーストを撃ち倒す。

 ラスターは一息つくと、メンテ用の蓋を開けて、無理やり引っこ抜いたケーブルを差していく。


 ぶぅううんと音を立てて再起動すると、暗くなっていたコックピットに光が灯り、通信機に通信が入った。


「フラン、大丈夫か?」

「えぇ……って言っても動かないけど」

「ラスター! 君こそ大丈夫か?」


 ラスターがフランの心配をしていると、リーフ隊長はラスターの心配をする。


「あっ、はい。おかげさまで……」


 何がおかげさまかはわからないが、補正機能を切るためとは言え、通信もろくにできない状態にしてしまったのは失態であった。

 補正機能はまだしも、通信機能が使えないのは引っ張った場所が悪い。


「とりあえず一旦いったん帰投するぞ」

「駄目だ」


 リーフ隊長の言葉に、ガレス隊長が口をはさむ。


「お前までもどるのは許さん。そこの女のいは別の者にやらせろ」


 言ったが最後、二番隊の隊員と一緒に別の場所へと飛んでいく。


「くっ、気をつけろ。ラスターそしてケニス、二人で帰投しろ。特にラスターは今回の報告忘れるな。整備班に異常がないかのチェックをさせろ」

了解りょうかいしました」

「了解! 隊長」


 ケニスはフラン機の腕をつかむと、そのまま下の方へ飛んでいき、ラスターもその後ろを追う。


「気をつけろよ……」


 バチバチとなるバッテリーの火花に、リーフは不安を覚えるのであった。

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