第16話 十番隊―戦闘開始

 基本的にコロニー付近でビームライフルをまわす八M級とはちがい、小隊メンバーはそれよりも前方でワームビーストに向けてち続ける。


「多いな……」


 想像していたよりも数が減っていないワームビーストにラスターがつぶやく。

 やつらは人間を食べることで急激に成長するが、それ以外でも成長をすることができる。


 宇宙に散らばるちりや、放電したエネルギー。かなりの雑食性をほこるため、あらゆる物を食べてかてにする。


 そう、厄介やっかいな事に外したビームでも成長してしまう。


 具体的には、シズハラ大隊長が発射していた連結式ライフルから放たれたビームが敵に当たる事なく拡散すると、五回程で一体ぐらいは増えるのであった。


 一方、八M級に搭載とうさいされるビームライフルであれば、エネルギーとしてもビームの収束率にしても低い――つまりは威力いりょくが低く、拡散したエネルギーは相手が吸収するよりも早く消えていく。百発で一体増えるかどうかである。


 つまり五百体の敵に対し、増えるのも計算に入れて、一回の出撃で二百体ずつ、合計六百体の討伐とうばつ予定であった。

 だというのに、目算では百体ぐらいしか減ってはいないように見える。


 今いる四百体の半分を散らしても、残るのは半分以上……


 失い続ける戦力にどれだけこたえられるのか不安にななりながらも今は敵をたおす事に集中していく。


「フォーメーションα」

了解りょうかい


 各自、十番隊の守備範囲はんいに展開し、持ち場にて掃射そうしゃを開始した。


「切りわりの時が一番だりぃ、マジでビームライフルの焼けつきだけには気をつけとけよ!」


 ケニスのアドバイスを聞きながら、ラスターはビームライフルを撃ち始める。

 射線をピッタリと合わせているのなら、連射モードを使ってもいいのだが、基本は単射を連続して撃つ方が、より多くのビームを撃てるのであった。


 そして今は、下手な射撃も数撃つしかない。奇数きすう番隊から偶数ぐうすう番隊の切り替えのタイミングは、敵の数が一番多い状態で相対するので、撃てば撃つだけ当たる。


「やべ、なんかおれのところに集まってきてねーか?」


 危機を感じたケニスが戸惑とまどいをこぼす。


 フランは一体一体集中して落とし続けており、ラスターに関してはリーフ隊長のアシストが入るため、目の前にいる敵の数はそこそこ減っている。


 結果として、倒した量が少ないために、弱点だと思われたケニスの所にどんどんワームビーストは増えていく。


「ラスター、ケニーを中心にフォーメーションδ」

「了解」


 ラスターとフランは徐々じょじょに、徐々にケニスの方へとにじり寄っていき、自分の射撃範囲に入ったケニスの範囲の敵に向けてビームを飛ばす。


「ありがたいけど圧がヤベェ」


 三人分のワームビーストが合流したため、ケニスから見ても、量として倍以上には増えてしまうのであった。


弾幕だんまくを張って!」


 ラスター達はフランの指示に従い、ビームライフルの引き金を引き続ける。


「このタイミングが一番心臓にヤバい」


 敵を撃ち倒しながらも、徐々に戦線を下げさせられてうめいていると、リーフ隊長からの通信が入った。


「いや、今が一番楽かもしれんぞ」

「楽?」


 疑問符ぎもんふかべるメンバーの通信機に、通信相手が増えたことを示すノイズが入る。


「俺様のお通りだぁ!」


 突如とつじょ、かなりの音量で通信にまれると目の前の敵――ワームビーストに鉄球が打ち込まれていく。


 ボコッ……と音はしないが、悲惨ひさんへこみ方を見せたワームビーストは、中にまれて、さらには鉄球から多量のビームがき散らされる。


「残りは任せろ!」


 通信機からは更に女の声が――シズハラ大隊長の声と共に、ワームビーストに向けてビームが雨霰あめあられと降り注ぐ。

 二人の隊長によって、目の前の敵が一瞬いっしゅんのうちに蹴散らされると、更に深くへと放たれた鉄球が道を切り開き、シズハラが散らばったワームビーストを一掃する。


「ヤベェな。うん、ヤベェ」

「ヤベェしか言えないの?」


 ヤベェを連呼するケニスに、フランが辛辣しんらつに突っ込む。


「では諸君、健闘けんとういのる」


 そう言い残すと、シズハラ大隊長はコロニーへと帰っていき、二番隊隊長のガレスも別の戦場へとけていく。


「こっからが正念場だぞ」

「了解」


 隊長のげきに気を取り直すと、彼らは再度散らばる。

 敵が近づき、リーフ隊長が先行してはたき、数を減らしたところを小隊メンバーがビームライフルでけずる。余った敵は八M級の防衛もうが弾幕を張って全滅ぜんめつさせていく。


「大隊長によって戦術は変わるんだな……」


 ラスターが感心したように呟きながら、近くの敵を排除はいじょする。

 シズハラ隊長の場合は、後ろに陣取じんどって狙撃そげきによって援助えんじょし、取りこぼた敵を二丁拳銃けんじゅうによって一掃するスタイル。


 ガレス隊長の場合は前線におもむき、ビーム兵器の鉄球によって敵をえぐり飛ばすと、取りこぼしを気にする事なく、別の場所へと向かうスタイル。

 狙撃がやりやすいように、立ち回りを考えなくてはならないシズハラ大隊長。

 散り散りの敵を撃ち倒し、場合によっては後方援護に入らねばならないガレス二番隊隊長。


 どちらかと言えば、ラスターは後者の方が楽に感じる――なんたって考えることが少ない。

 やってくる敵をせっせと処理しているラスターに、フランがするどさけぶ。


「あなた! 通信範囲しぼりすぎ! sの7に敵よ! えっと……下側!」


 下側の方で集結しているワームビーストに対して、周りのものが援護として向かう中、棒立ちのラスターに向けて叱咤しったが飛んでくる。

 通信範囲を広げてず、報告を聞かずに無視をしていれば当然であろう。

 だが――報告は聞いてはいないが、気づいていない訳ではない。


「上から……bの2あたりにも敵が来てるんですがどうします」

「えっ?」

「ちょっと距離きょりありますけど……」


 率先切って急ぐほどではないが、下の三十体あまりに対して、過剰かじょう戦力でむかとうとしているように見える。


 それどころか、そちらにかまけていると上側の対処がおくれてしまう。


 百体におそわれても大丈夫だいじょうぶであるという理屈りくつは、シェルターの中に避難ひなんした人の話であり、コロニーと戦場を行き来する兵士からすれば、コロニーが襲われる位置次第だが、五体もいれば十分恐怖きょうふであった。


(でも、この位置なら放置すべきなのか?)


 闇雲やみくもに近くにいる敵を狙うべきでもないが、倒すべき順序がどちらにあるのか、判断しあぐねていると、リーフ隊長のおどろいた声がひびく。


「マジだ……」


 レーダーを走らせていたリーフはかすかにとらえたワームビーストの反応に、思わず声をらす。

 十番隊の守備範囲からは外れているが、補助は必要な範囲であった。


「ラスター、フラン、我々は座標b2の敵を処理する」

「了解」

「りょ、了解!」


 そして、三機は上側に向けてブーストをかせる。


「どうかしたんです?」


 近くにいた八M級のReXの操縦者の不思議そうな声が通信機から響く。


「ワームが二十体以上接近している」

「えっ!?」


 他のメンバーは逆の方向へ、二番隊の隊長機も別の場所で応戦している。


「二人とも、援護してくれ。行ってくる!」


 そういうと同時に、リーフ隊長は敵陣へと飛んでいく。


 近づいたと言っても、ラスターが最初に邂逅かいこうしたような、すれ違う距離ではなく、すぐにげられる距離を確保しながら、自身の射程圏内けんないに捉える。


 その後ろから、ラスターは追いかけると、ワームビースト十体に赤色の光――レーザーポインターで照準に捉えていることに気づく。


 十本の細く長い光がワームビーストをつらぬくと、くるくると動きながら焼き滅ぼす。

 近くの敵までついでとばかりに焼いていくと、フランの楽しそうな声が響く。


「雑魚処理行くわよ!」


 楽しそうな声でフランが言うと、ビームを撃ちまくる。

 普通ふつうは数発ぐらいは当てなければ倒せないワームビーストが当たると同時に死骸しがいへと変わっていく。


「当てるなぁ……」


 フランの命中率はざっと九割。


 AI補正のおかげでワームビーストに近づけばラスターでも九割を狙う事は不可能でないが、これほど距離があると五割えればおんであった。

 よろよろと近づくワームビーストに向けて、ラスターも撃つのだがふわりとかわされてしまう。


「……疲弊ひへいした状態へのアルゴリズムはないってわけか」


 補助にたよりすぎたつけがあらわれ、ラスターは舌打ちをするのであった。

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