第12話 研究所にご案内
明日の午前十時から始まるワームビースト約五百体との戦い。
もしかしたら人生最後になるかもしれない今日の学校はお休み――いつもの午前授業がないのだが、武術科は最後のミーティングがあり、ラスターもそれに参加させられていた。
そして、ミーテイング終わりの昼過ぎ――
「ラスタァ! 十五時までダメだからね」
「お、おぉ……」
「それまで来ちゃダメだかんね!」
ぷりぷりと
「でも十五時半ならもう別に来ていいんだからね。って言うか来なさいよ!」
「わかったわかった」
よちよちと頭を
「来ちゃダメだからね!」
言い捨てると、タタタッと走り去っていく。
場所の説明ぐらい言うべきであろう……いやまぁユリウスの家であるってのは知っているのだが。
特に
そして、サプライズであることを
「さてどうしようか?」
家に帰るにはめんどうで、とはいえ行き場がどこにもない
事前にわかっているサプライズパーティーを
「おっ……」
遠目からでもわかるカンラギ副会長が、告白されている現場を
この場所からは、何と言っているのか聞こえないが、この手の時期は思い残すことがないようにと告白が増えるらしいとは聞いたことがある。
「……告白ではないのか?」
カンラギ副会長に見送られる男の方は、想像以上に笑顔で別れていく。
付き合えたから笑顔という可能性もあるが……このタイミングで付き合えたのなら
「さてと、どうしようか……」
あと二時間ほど暇をどう
「昨日はごめんね」
「えっ? 何の話です?」
いつのまにか近くにやってきたカンラギ副会長は
「私のわがままでつらい思いをさせて……ごめんなさい」
ラスターの手を取ると、申し訳なさそうに謝る。
「あぁ、いや別に気にしてませんよ」
――昨日……? ザファールの話だろうか?
細長い指がラスターの手をさすり、申し訳なさそうにするカンラギ副会長からはどこか
「暇そう……ね?」
どこか探るような目つきで、カンラギが聞く。
「まぁおモテになる副会長に比べたら、
「……見てたの?」
どこか
「男の方はえらく笑顔で去っていきましたね……」
「そりゃ……ね」
「お付き合いされたんですか!?」
「ん? どこから見てたの?」
不思議そうな顔をするカンラギにラスターは
「まじ?」
「んー? 別に付き合ってはないわよ」
「えっと、見かけたのはついさっきですけど、断ったにして相手は結構笑顔だったなぁ~と」
「そりゃね。好きじゃないからお断りさせてもらったけど、せっかく好きになってくれた人をわざわざ悲しませたくないじゃない?」
「彼らも思い出づくりみたいな所もあるからね。くどければ、バッサリとお断りさせていただくけど」
クスクスと笑いながらも、きっぱりとした意志を見せてくる。
(彼ら――ねぇ)
流石おモテになる副会長は、された告白はあれだけじゃないようだ。
「じゃあね。何か必要なものがあったらぜひ教えて?
そういうと、どこか歩いて行こうとして、三歩ぐらい
「もし暇なら、ちょっと付き合う?」
いたずらをしたそうな小悪魔的な笑みで、カンラギがラスターを
「どこにです?」
「研究所」
色っぽく返された色気のない
「みんな順調?」
「カンラギさん!」
ごちゃごちゃとした計器が乱雑に置かれた、研究所とやらに案内されたラスターは、ふらふらと周りを見渡しながらカンラギ副会長の後ろを歩いていく。
「その人は
和やかに見えた
十人程の男たちがこちらを見ながら、どこか
ここで
「こちらの方はラスター=ブレイズくん、学術科だけど明日の作戦に参加することになったわ」
なったというか、させられた――という文句は胸の内にしまっておく。
「初めまして、
白衣を
「どうも、ご紹介にあずかりました。ラスター=ブレイズです」
ぐいっと近づく男から、心の
じっとり
面倒事に
ちなみに、仲間内四人で頭の良さを順に表すと、ミレイ、ユリウスの順に並び、そこから離れてルーナ、ラスターと並ぶ。
訳の分からないデータを見たところで、ラスターが意味を理解できるはずもないが――多分、ミレイですらこの専門性についていけるかは
「ここってReXについて研究してるんですね」
仕組みは何一つ理解できないが、物としてなら理解はできる。
ReXの新世代
「そうね。特にReX関連の研究、開発の多くはここでやっているわ」
どこか
「カンラギ副会長も関わっているんです?」
「えぇそうよ。もっとも資金面だけの話で、私の
「そうなんですか……」
資金面と言うのがどう言うことか気にして良いのか悩む。
この場合における資金とやらが、単純な個人資産によるものか、権力によるものかどちらなのか――学園コロニーでの副会長からの後ろ
我が物顔で歩き、様子を見て口を出す様は、女王様と
「なんです? これ」
五
「よくぞ、聞いてくれました!」
「あぁ、はい」
近くにいたカンラギ副会長に聞いたのだが、どこからともなく現れた小さい研究員――白衣を着たおチビさんが語り始める。
「これは重力発生装置を応用した
長々と語る事になるであろう説明が、ここにいる人にしか通じないという事を
「正式
助けを求める合図に気づいたカンラギ副会長は相手に解説をやめさせて、別のことを言わせる。
「ブラックホールランチャー!」
「ブラックホール!? そんなの可能なのか?」
これまで一度として聞いたことのない兵器にラスターは驚く。
「可能です! なぜなら――」
ただし、なぜかを語り始める男の主張は、右の耳にも左の耳にも入れることなく放置する。
可能と言っているのなら可能であろう。いくら聞いたところでなぜ可能かが分かることはラスターには不可能である。
「これから、こういうのが時代を作るんですねー」
「はい!」
わざわざビーム兵器を捨ててブラックホールを攻撃手段にする理由はわからないが、相手はいい笑顔で喜ぶ。
満足して去っていく男を見送りながら、ふと気になったことをカンラギ副会長に聞く。
「これ、今回の作戦で使うんですか?」
「まさか……技術として面白いだけよ」
バッサリと切り捨てている割に、彼女の表情からは暖かみを感じる。
「まぁビーム兵器でいいですもんね……」
特に深い意味もなく
「一応、ビーム兵器にはない利点があるのよ?」
「そ、そうなんですか」
めんどうな雰囲気を感じてしまったが、ここで助けを求められるのは――目の前で暴走しそうな彼女しかいないという不具合が発生していた。
「ビームってワームビースト相手にはまず
「そう……ですね」
ワームビーストをいかに効率良く倒すか――それは全人類の課題。
そして、ビーム兵器こそが現状もっとも効率が良い倒し方である。
ビームによってワームビーストを倒し、体のエネルギーコアを
このサイクルには、当然ビーム兵器の
熟練の者ほど新しい物を渡してもらい、古い物は新人に――そして、その中で使いまわされていく間に、人とReXの両方が散っていく。
「でもね、これは違うの。たった一発で! 理論上百体以上が倒せるわ」
「つまり五発打てば今回の作戦は――」
終わる訳ないよな~と思いながら聞いてみると、カンラギの目線はすーっと遠くに向く。
「まぁ理論上……だし」
「それに使わないってことは、問題もあるんですよね?」
「……そうね。まず現行のReXエネルギーバッテリーを四分の三も使うわ。行って撃って帰ってが、ギリギリできるかできないかぐらいね」
「そうですか……それが改善できるまで実戦投入は遠いと」
「だったらよかったんだけどねー」
やけくそじみた様子でケラケラと笑いながら、カンラギは否定する。
「エネルギー消費も大きな課題だけど、問題はそこだけじゃないのがね……そこだけなら、無理やり使ってみるのもありなんだけど」
「これは……複雑な話をしても仕方ないわね。単純に相手を
遠くで打てばエネルギー不足、近くで打てばコロニーを危険に追いやる
「でもこれ……完成してません?」
戦術として欠陥があるのは理解できたが、武器としては……どうなのだろうか? いきなり説明を始めた研究者Aの様子やカンラギを見ているに、撃てそうな気もした。
「ふふっ、もちろんしてるわよ」
非常に
「そもそも、こういうくだらない研究・開発・制作をするためにあるのが、学園コロニーでしょ? 世界で役立つ必要なことだけに力を費やし、やりたいことを
「確かに……そうですね」
欠陥と分かっている武器をわざわざ費用や資源を消費してまで作らせてはもらえない。
コロニーの存続に必要なものは色々あり、ワームビーストを
家電製品の製造を他コロニーに
そして、そんな小さな世界を存続させるためには、多くの人間の協力が必要となる。
やりたいことが、そのコロニーに必要なことであれば問題ないのだが、ロマン
そのために、学園コロニーなどで学びに来るものがいる。
別に
「だから、君もなにかしたいことがあれば教えて? 話を聞くぐらいはしてあげるわ」
ついでに、周りの殺気が一段階増えたように感じるのは気のせいだと思いたい。
「いえ、特にはないです」
「ほんと? 気になることでもいいわよ?」
「えっと……」
気になると言えば……つい先程の光景を思い出してしまう。
「えっと、カンラギ副会長って彼氏いるんです?」
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