第10話 大規模作戦に向けて
学術科としての授業を終えた後、ラスターは武術科の訓練室へと向かう。
訓練前の
大規模作戦まで残り一週間、他の武術科生徒が作戦に向けての最終調整を行う中、学術科から集められた予備兵は体力作りが行われていた。
ReXに乗るには想像を
「コラ貴様! 何してる」
パイロットスーツではなく、教官服を着たシズハラがラスターを
「……パンツを見せようとされている?」
「見せとらんわ!」
シズハラ大隊長は怒りに身を任せて、
「暴力を
「言っていいことと悪いことがあるわ!」
「悪いことを言えば、あらゆる暴力が許されるのか……」
しみじみと言った口調で目を開けられない――開けたところで
「物事には限度があるんだ馬鹿者!」
「都合のいい限度だなぁ。そもそも、そんな服で寝転がる男の近くに立って、パンツの中が見えないと思ったのですか? ――もしかして、
「履いとるわ! それ以上ふざけたら次はタダじゃ済まさんぞ!」
「周りを見ろ。走り終えたからといって
「ギャグかな?」
ゼイゼイと息を切らながら、ちょうど二キロを走り――走っているつもりの歩きを終えた学術科の生徒達が
「なっ!? コラ! 貴様ら! まだ終わっていなかったのか! ……じゃなくて、今はまだ
きゃんきゃんと
「単に怒鳴りたいだけじゃねーのか? ――やっぱ武術科の人間は
ちなみに積極的に関わりにいくわけではないので、ラスターは別に武術科から嫌われていない――存在を知られていないだけだが。
「撃ち方準備……撃て!」
リーフ隊長が号令をかけ、パァンとなる多数の音が演習場に
ラスターも号令の後に続いて撃ちまくっていき、的に穴をあけていく。
「筋がいいな」
「どうもです」
後ろに立ったリーフ隊長は、的に当てた割合を見て、ラスターを
「実戦でも、そうやって当たるといいな」
「下手なんで
動き回るワームビーストに当てるのと、動かない的に当てるのとでは難易度が全く
「あー、でも最近の射撃補正なら
昨日のゲーム――
あのレベルの機体に乗せてもらえたのなら、射撃の力量などあまり問題にならない。
それ以上に、ここに居るのがほとんどヘタクソだらけであることを考えれば、射撃補正がかかる機体に乗せなければ役に立たないし、乗せてもらえるとしたのなら、今の訓練は一体なんなのかという疑問にぶち当たるが――気にしないことにした。
「君の事はほんの少しだが聞いた。災難だったな」
「はは……いや、ほんと……」
笑い飛ばそうとするが、冷静に考えると笑えない。どうしてこうなった?
「
パァンと音を鳴らし、的に向かって撃った
その結果にラスターは顔を
パァンとなる次弾は、的の中央からほんの少し右にずれた場所にヒットした。
「
最後の弾ぐらいビシッと真ん中に当てて終わりたかったのだが、うまくいかなかったラスターは不満をこぼす。
「……君、武術科に居てたことあるよね」
「ここではずっと学術科ですよ」
成績は悪いですけど――とつまらない補足情報を加えていく。
「ザファールでの乗り方、
ザファールとは、ワームビーストとの
「そうですか、まぁお遊びでReXに乗っていたことはありましたよ。それに、一時期
反応を
周りが射撃練習でうるさい中で振る話か? とも思うが、それでもペラペラと話しそうになるのは多分この隊長の
「でも昔の話ですよ。武術科の連中と
本音オンリーではいけないと気付いたラスターは
リーフ隊長は優しげな笑みをクスリと笑って
「君ならこれからも武術科でやっていけると思うんだがな」
「無理ですよ」
出来る出来ないの問題ではなく――やらない。
「そうか――でも、今回の作戦は危険だが……だからこそ、平穏な生活のためにも力を貸してくれ!」
「――よろこんで」
目の前に差し出された手を、これからのためにとラスターも
残り三日目からは、これからの長いシェルター生活の可能性を考えて短縮授業となり、戦闘希望の学術科――
ちなみに学術科生徒がわざわざ大規模作戦に参加する理由はいくつかあり、毎日
あとは、今回の大規模作戦の参加に際して用意された
ラスターは単位と金のためである――別に不運な巡り合わせがなければ、出る必要はないのだが……
「テンション上がるな!」
「静かにしろ」
「でもわかる~」
一番隊から十二番隊の全てを合わせて大隊、三分の一で中隊、一つ一つを小隊と呼ぶ。
そして各小隊は十人前後の人がおり、十番隊にはラスターを含め十一人。
その中で現在の演習メンバーは六人――十番隊での演習時間を前半と後半で分け、隊長が二回、他のメンバーが一回ずつの予定となっていた。
現在の飛行メンバーは隊長のリーフ=アルビデを筆頭に、
今回の
おちゃらけた
快活で真っ直ぐな女性――フラン=ディーシア
熱血で
優しいが
この六人である。
「ラスター、
「問題ありません」
「よし、それならいい」
静かにしているラスターに、リーフ隊長が様子を聞く。
「他のみんなもいいな」
「問題ありません! 早くやろうぜ!」「問題なし!」「行けるぜ!」「はい」
「では、これより演習を始める」
通常の宇宙飛行モードから、演習の模擬戦闘用モードへと移行すると、疑似ワームビーストを探知した検知器がワーム接近を告げる音を鳴らす。
「ワームの
「
ボヤァッと光り、
「間違ってもデブリには当たるなよ!」
そして、彼らの演習が始まった。
「全体的に数値が低いわね――やっぱ
モニターに表示されている数値――安定性、命中精度、集中力etc.……様々な
「そうですね……」
「それに比べて――リーフくんは高いわねぇ」
ピクッと面白いほどに
そんな彼女の耳元へ近づき、カンラギはボソッとささやく。
「人気あるみたいね――彼」
ピシッと動きを止め、
そんな彼女――ユズリハ=ノイルの耳元でカンラギはからかうように
「それに彼、まだ彼女いないんだってさ」
クスッと色っぽく笑いながら言うカンラギに、ユズリハの血の気が引いていく。
あわあわ、わなわなと震えるが、慌ててもどうにもならないし、文句を言うにもそのような権利などない。
同級生で同じ
「どんな子が好きかは知らないけど……ぼやぼやしてると誰かに取られちゃうわよ」
誰かって誰! といった悲鳴が見て取れるが、口はパクパクと開いたり閉じたりするだけで、カンラギは見ていて
「その、カンラギ副会長は……もしかして……」
「私はもう好きな人がいるからね」
肩をすくめてさらりと言うと、ふーっと息を吐き、ユズリハは安心した様子を見せる。
「でも、これからなにがあるかわからないんだから……ね?」
「で、でも……」
もじもじと恥ずかしそうにする少女――同級生をカンラギはギューッと
「もーかわいいなぁ!」
「この数値をリーフくんに教えてあげるのよ! 細かいことを知っておくのも隊長にとっては重要なことだしね。嫌っていうのなら私が――」
「やります!」
「じゃあよろしくね」
恥ずかしがりやではあるが、必要な業務はまっとうにこなせる彼女に、しれっと事務処理に加えて、メンタルケアの諸々まで丸投げした。
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