第9話 仲間との安息

 ラスターは学校から遠い自宅へ――ではなく、ユリウスの家にお邪魔じゃまさせてもらう。


「リンゴパーティーだ!」「リンゴー!」


 ラスターとルーナは他人の家ではしゃぎながら、人の家のリビングで自室のごとくダラダラする。


「なにが食べたい?」

「今すぐ何かを――」

「はいはい」


 ダラダラというより、グッタリとしたラスターはミレアにたのむ。


「あたしもー」


 元気いっぱいダラダラしながら、ルーナもおねだりをする。


「あなた達は……」


 やれやれと言った様子でミレアが台所へ入っていく。

 ちなみに全員一人暮らしである関係上、一応全員とも料理は出来る。


 その中でも、料理のうではミレアが一番高い。他はあまり大差ないが、強いて挙げればユリウス、ルーナ、ラスターの順だろうか?

 ユリウスもミレアの料理を手伝い、仲良く料理する二人の背中を見ながらゴロゴロしていると、食べやすく切られたリンゴが差し出される。


「これでも、食べときなさい」

「ありがと」


 二人はお礼を言うと、リンゴを口の中にほうんでいき、ミレアは台所へともどっていく。


「ねぇ、ラスタァ……」

「ん?」


 シャクシャクとリンゴを頬張ほおばりながら、どこかつらそうな顔をルーナがする。


「大規模作戦って……大丈夫だいじょうぶなんだよね?」

「大丈夫だろ」


 あっさりと答えるラスターにルーナは微妙びみょうそうな表情をかべた。

 不安だ! と言われても困るが、あっけらかんと大丈夫と言われても、それはそれで――それで納得できるのならば、そもそも聞いたりしないのである。


「でも、ワームビーストが五百体もいるんでしょ?」


 ちなみにコロニーは、百体ほどのワームビーストにおそわれたら陥落かんらくすると言われている。

 つまるところ、四百体より多くたおせれば、万が一ReXが全滅ぜんめつしたとしても、理論上は大丈夫であった。さすがに暴論ではあるが。


「どちらかと言うと、マイクロワームビーストが、実は市街地にひそんでいたと言う方がかなりこわいよ。だから大丈夫だ」


 だから――というのははげましであって、因果関係としてはなにも正しくないが、気付かれにくいマイクロワームビーストは実際にかなりの脅威きょういであった。

 コロニーにめてくるのなら100体まで大丈夫でも、コロニー内に母胎ぼたいを持つワームビーストが十体いれば、そのコロニーは滅びると言われている。


 九体倒しても、一体でも残っていればすぐに増える上、十体を完璧かんぺきに倒すつもりで攻撃こうげきすれば、その代償だいしょうはコロニーの損壊そんかいによって致命ちめい的な被害ひがいをもたらす。

 施設しせつが壊れたのであれば、だれかが泣くだけで済むのだが、コロニーが壊れれば人は生きていけない。

 ワームビーストを倒しきれなければ――結局、人は生きていけない。


「だから、安心しろって」


 くりくりっとした目を向けてルーナがラスターをじっと見つめる。

 何か言いたげな眼差しをするルーナの頭を優しくでると、ねこのように顔をこすり寄せ、撫でやすいポジションへと収まっていく。

 そんなルーナをよしよしと撫でていると、いきなりガバッと立ち上がる。


「あたしもなんか作ってあげる!」

「えー、ダラダラしてようぜ!」


 ミレアとユリウスの二人の中をおもんばかって――ではなく、周りみんなが頑張がんばっている中、ラスターだけがだらけるのは良心が痛むという理由により、ルーナを躊躇ちゅうちょなく悪の道へとさそう。


「ラスタァはつかれてるだろうから、そこで静かにしてていいよ!」


 しかし、なぜか燃え始めたルーナはラスターの誘いを断って、台所へとけてゆく。


「たいして疲れてないから、罪悪感がまさるんだよな……」


 仲間のいなくなってしまったラスターも、仕方無しに手伝いを始めるのであった。

 

「ごめんね」


 料理を手伝い始めたラスターに、殊勝しゅしょうな顔をしてミレアが謝る。


「……あぁ、うん、まぁ、そのなんだ。たっぷり感謝しろよ。謝礼は安くしといてやるよ!」

「うん、ほんとごめんね。食事の準備に言ってるわけじゃないからね」


 ケラケラと笑うラスターに、ミレアはあきれながらくぎす。


「そうじゃなくて……」


 暗い顔をして、ミレアが苦しそうにする。


「私のせいで、大変な目に合わせてごめんね」

「……おう、気にすんな。ちょっとぐらいげた所で、美味しくいただいてやるよ」

「うん、ごめんね。ちゃんとはっきり言うから、積極的に誤解しに行くのはやめてね」

「えー、誤解をおそれぬ積極性を評価してあげようぜ」

「するか!」


 馬鹿ばかな誤解の原因に何を言ってるのかと頭をかかえるが、苦しそうにしていた顔は少しずつゆるんでいく。


「シェルターでね、ちゃんと説明したのよ。マイクロワームビーストってのは知らなかったけど、そういう異常があったから、その……したって」


 最初の段階で説明しなかったのは、優先順位の問題。

 あの状況じょうきょうでは、すでに手の打ちようがない半死体よりも、自分達のシェルター内での居場所を確保するほうが重要となる。


 四人で同じ場所を確保するとしたら、さっさと入って一人一枚もらえるシートを、いて置かないとバラバラになってしまう。

 ラスターはシェルターの中に入った瞬間しゅんかんから、腕を切り落としたモブのことは忘れ去っていたが、ミレアはそうではない。


 ボランティアに参加した時に、事情説明を行なっていたりする。

 それでも完璧な説明が出来るはずもなく――結局、武術科ぎらいのラスターがいざこざの責任を負わされ、ReXに乗らされる羽目になったことを申し訳なく思っていた。


「まじで、くだらねぇ」


 そんな様子のミレアの頭を、ラスターはコツンとグーでつつき、誤解していたほうがマシだったと呆れ返る。


「悪いのはあんなものをコロニーに入れたやつらや、ナンパした奴、あとは処理を投げ捨てた生徒会共だろ……お前は何も悪くないじゃん」


 ――ついでに、自分も悪くない。

 腕を切り落としたことについて、ラスターは必要事項じこうであったと割り切っているし、他にも手段はあったかもしれないが、ラスターはその手段を探す理由もなかった。

 すぐに忘れたくだらないことで、友達がグジグジと……しかも、本人が悪くもなんともない所でなやんでいるのは、非常に歯がゆいものである。


「だけど……」

「そんなくだらないことに悩むひまがあったら、明日からの宿題をどう助けてあげるか考えてあげろ……まじでどうすんだよほんと、放課後から訓練だぞ」


 記憶きおくする価値もないはずのことで、勉強時間が減ったことをラスターは気にする……当然と補足するまでもないが、訓練がなければ勉強をしていた訳ではない。


「手伝うわよ……でも、丸写しは駄目だめよ?」

「えー」

「えー、じゃない!」

「うー、うー」

「ルーナ! そのうーうー言うのをやめなさい!」


 いつの間にかやってきたルーナが、宿題を見せてとごねる。


「ったく、ほら、ご飯よ!」


 そうして四人のご飯が始まった。

 

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