第6話 真相の行方

我々われわれ不祥事ふしょうじってなんです?」

「お前には関係ない」


 ラスターは話が進まないシズハラを視界から外すと、同じ質問をナルギにする。


「えーっと、その……」

「昨日はすまなかったな!」


 謝罪にしては高圧的な物言いながら、あっさりとシズハラが謝り始めた。


「我々の模擬もぎ演習中、不覚にもまぎれたワームビーストが市街地への潜入せんにゅうを許してしまった事はびよう。だが、それは調べればちゃんと出てくるはずだが?」


 なんで不手際を出した相手がこんなにもえらそうなのか……詳細しょうさいに聞いていたら一生話は進まないだろう。


「ほんとか?」

「えっ!? あっ……ちょっと待って」


 ラスターがミレアに聞くと、シズハラの言ったことを調べ始める。


「演習終了しゅうりょう後に一体のワームビーストが紛れたことにより緊急きんきゅう警報を発令だってさ」

「そうか……では、別の質問をするが、なんでおれ片腕かたうでを取ったと思った? それこそ、ワームビーストがいる証拠しょうこだろ」


 説明した通りの理由以外で、普通ふつうはあんな凶行きょうこうに走るはずはないのだが、シズハラは強気の態度をくずさないままでいた。


「そこのミレア=フォードに対して、四番隊に所属するアシタカ=ハロードが声けをしたそうじゃないか、それに対して君が腕を――」

「それマジで言ってんのか?」


 ラスターがねらったのは、安い挑発ちょうはつによる暴力沙汰さたである。

 それを元に不祥事を告発するという……それはそれでどうなの? と言われる事であるが、武術科生命を断ち切るという点では同じでも、それでも再起不能までは望んでいない。


「証拠ならある!」

「そうかよ――どこに?」

目撃もくげき者がいる……それにアシタカ本人も証言している」

「……というか、その本人どこだよ」


 だんだんきてきたラスターはひどく投げやりな気分におちいりながら、背もたれに体を預けて聞く。


「彼は今入院中だ。貴様のせいでな」

「入院してようが、しっかり話は聞けると思うんだがなぁ! それともやつがこの俺、ラスター=ブレイズがナンパにキレて腕を切り飛ばしたって言ったのか? 頭まで外した覚えはないんですけどねぇ!」


 ラスターの態度が、秒を追うごとにガンガン悪くなっていくが、それに呼応して、シズハラの苛立いらだちをどんどんつのらせていく。


「彼は入院してからほとんどの時間をて過ごしているんだぞ! 貴様のせいでな!」

「腕を切っただけで、ずっと寝てるのはおかしいと思わんのか? ……いやおかしくないのか?」


 自分で言った後、ラスターは首をかしげる。

 寝ている理由はワームビーストにおそわれた事による痛みや、急激な出血等であろう。

 腕を切られただけで寝込ねこむかと言われると、ラスターはこの時間になっても寝込み続けるとは思わない。

 しかし、ユリウスが……と考えると話は変わる。一週間ぐらい寝込んでも、そりゃそうだという気はしてしまう。


「めんどくせぇ。俺の言い分はすでに言った。後はそのガタガタとやらが起きた後に判断しろ!」

「アシタカだ!」

「知らねーよ。そんなモブCみたいなやつ覚えてられねーよ。結局何がしたかったんだ? お前」

「……」


 ギリギリと歯を食いしばってにらみつけてくるが、何も言わない。


面倒めんどうごとを早く済ませたいってだけでしょ。一応、報告の裏付けもしたかったんだろうし」


 膠着こうちゃく状態に陥った二人に、カンラギがたすぶねを出す。


「……そうなのか?」

「何がおかしい?」


 それを聞いたラスターは胡散臭うさんくささをかくすことなく、シズハラに聞く。


「裏付けをする気はあったのか? お前の妄想もうそうを一方的に並べ立てられたようなものだが?」

みにくい言い訳をする奴の話なんて聞く必要がない!」

「自分に都合のいい話以外聞くつもりないの間違まちがいだろお前……」


 あきかえるばかりであるが、彼女の脳内にあるストーリーはだいたい理解した……つまる話が、付き合うだけ無駄むだと言う訳だ。


「会話のできねー奴が人を呼ぶんじゃねーよ。全く時間を無駄にしたぜ……じゃあな」

「な、待て!」

「待ちなさい」


 立ち上がり、帰ろうとした足をピクリと止める。

 今更いまさら、シズハラの言うことを聞くつもりもないが、カンラギ副会長の言うことであれば話は別。


「なんのようです?」


 話す価値のない人間から目を切ると、できるだけ平静を装いながら、カンラギ副会長に話しかける。


「今この場で帰るのは感心しないわ。あなたの言うことがいくら正しいとしても――簡単に間違いに変えれるのよ? なんせ証拠をアシタカ君しか持っていないのだから……」


 うっすらとげられるくちびるを見ながら、言葉の意味を考えていく。


「――ちっ、面倒な」


 相手のやりたいこと――では、あの性格上ないだろう。

 ただ、やりかねない事としては理解した。


捏造ねつぞうするってわけか……面倒だな」

「そんなことするわけ――」

「捏造しますって公言するやつなんか、この世にいないんだよ」


 寝言を言おうとするシズハラをピシャリとだまらせる。

 あの時、確かに周りに人はいたが、わざわざ聞き込みをしてくれるとは思わない。個人でやったところで、うそだととおされたら負けてしまう。

 しかも、肝心かんじんのワームビーストの出所は他所に持っていかれている。

 

 どうすれば――

 

「あの! あたし、見ました。アシタカって人の腕が食べられているところを」


 ルーナがアシタカ以外の証人として口を出すが、そもそも仲間内の発言にどれほど価値があるかはあやしい。

 その上、タイミングとしても捏造の話に入ってからであり、話を聞かないシズハラが納得するはずもなかった。


「まず、マイクロワームビーストは母胎ぼたいの中以外では動けない」


 シズハラが『はぁ~』と長いため息をつくと、赤子を言いくるめるかのように呆れ混じりに言う。


「そして、お前らが問題を起こした場所では、発見位置がずれ過ぎている。仮にそうだとしたのなら、もう一ひきいるはずだと言うのに――」


 かたをすくめると呆れた様子で言い切る。


「ならなぜ、あれから被害ひがいが出とらんのだ?」

「でも……」

かばいたいのはわかる。こちらに非があったことも認めよう――だがしかし、過剰かじょう防衛の域をえ過ぎているとは思わんか? ましてや君たちとは違い我々は武術科はだな――」

「発見位置がズレ過ぎているとはどう言うことです?」


 ユリウスが落ち着いた様子で、じっとシズハラを見つめながら聞く。


「ふんっ、単純な話さ。ワームビーストはそんなに早く動かん」

「えっ? でもワームビーストって確か光速航行が可能では――」

「それは大量の人間を捕食ほしょくした戦艦せんかん級ぐらいになってからの話だ。それも非戦闘せんとう時のみに限る」


 ユリウスの疑問はピシャリと切って捨てられた。


「つまり君たちの話は矛盾むじゅんしてるんだよ」

「それが、お前らの勘違かんちがいの原因か?」

「何?」


 ラスターの質問にシズハラがいぶかしげな目を向ける。


「いや……証明してみろと言われると困るんだが、発見位置のズレに矛盾がなきゃ、こっち話を真面目に聞くつもりになるってことでいいんだな」

「そうは言ってない」

「そうね」


 シズハラ会長とカンラギ副会長が全く別の意見を出す。


「そもそもお前らの話が信憑しんぴょう性に欠けるんだ!」


 カンラギのことをキッと睨みながらシズハラが糾弾きゅうだんするが、ラスターはすでにシズハラを眼中に入れていない。


「それがこれまでの沈黙ちんもくの理由ですか?」

「それはちょっと違うわ。でも、確かに不思議ではあるわね」

「不思議も何も嘘を――」

「お前らは宇宙で戦ってる。だが、今回発見された場所はコロニー内だ」


 やれやれとため息をつきながら、口をはさんできた馬鹿ばかと、沈黙を守りながらも手を貸しあぐねていたカンラギ副会長に向けて説明する。


「マイクロワームビーストは母胎と共にしか動けない、ワームビーストの動きはそこまで早くない――それは羽根が意味をなさないからだ」

「羽根?」


 不思議そうな顔で聞くカンラギに、ラスターはじっくりと見据みすえて、ふざけること無く真面目に話す。


「えぇ……知りません? ワームビーストの起源が何処にあるのか? って言う話を」


 ワームビースト――それが最初に確認されたのが地球のロシアだと言われている。

 しかし、どのように生まれたのか? 記録には一切なく、すべて不明であった。


 宇宙からの侵略しんりゃく者論や、地球発祥の化け物。


 様々な考察があるが、そのうち、後者の理由については体についた羽根が根拠に挙げられる。

 宇宙での移動に際し、全く役に立たない羽根を所持しているのは、地球のように空気がある環境かんきょう下での移動のためと考えられている。


 だが、宇宙からの侵略説が考えられる理由としては、成長したワームビーストが母胎と呼ばれる黄色の球――別名、エネルギーコアを持つことにある。


 エネルギーコア内で発生させた生体電流による磁界を利用して、自由自在な移動ができ、たくわえたエネルギーのおかげで宇宙空間での生命活動を可能にしている。

 また、人間を捕食することでも、体が大きくなり、コア内に大量のエネルギーが発生することから、宇宙から人間をえさに侵略してきたとも考えられたりしている。


 真偽しんぎは不明のままだが、人類が宇宙で活動できる理由は皮肉にもワームビーストのおかげだったりする。

 エネルギーコアを手に入れることで、消費するエネルギーを補い、また数多くの製品が科学の進歩だけではなく、ワームビーストの頑丈がんじょうな体を素材にすることで、様々な製品を制作することができたのであった。


「早い話、羽根があるんですから、空気のあるコロニー内でならマイクロワームビーストは動けるし、普通のワームにおいてもかなり素早く動けますよ? って話ですが」

「なっ……」


 もっとも、まったく心当たりのなかったらしいシズハラがうめく。

 カンラギ副会長も、反応こそうすいが動揺どうようを隠しきれていない。

 なまじに詳しく、それでいて宇宙での戦闘経験しかないため、コロニー内でのワームビーストは詳しくなかったようである。


「逆になんで、ナンパの目撃証言まであって、ここまでこじれるかが全然わかんないんですが? その証人は本当に信じれるんです?」

「そうね……その証人は本当に信じれるの? ねぇ、シズハラ=テンキさん? 私も気になるわ」

「――証人お前かよ!」


 カンラギ副会長に責められるシズハラ会長に、ラスターは無遠慮ぶえんりょんでしまう。


「わ、私は見たぞ――お前らがナンパされているそこの女を守るために話しかけていた所を!」

「その後すぐ暴力沙汰に発展したんですが、お前何やってたんだよ」

「私にも用事があったんだ。そもそもいくら、あやつでも気軽に暴力なんてらん」

「気軽じゃなきゃ振るってわかってんじゃん」

「そんなの――」

「無駄話は、そこまでにしなさい」


 話の論点が彼方へと飛び立とうとする前に、カンラギが強引に止める。


「つまり、本当にワームビーストがいたと言いたいわけね」

「そういうことだ。なんなら、腕一本の犠牲ぎせいで済ませたことをめてくれてもいいぞ」


 ラスターが傲慢ごうまんな態度で謝礼の要求するが、シズハラの辞書には謝礼も謝罪も存在しない――厄介やっかい者として、ご立派お見事としか言いようがなかった。


「もし仮に、万が一貴様の言うことが本当だったとすると、もう一匹ワームビーストがいることになるんだぞ!」

「だからどうした? そんなことで俺をおこるのは筋違いだろ?」


 ……そもそも、2体のワームビーストが同一個体ではないのかとラスターは首を傾げるが、シズハラ怒りに目をたぎらせたまま立ち上がる。


「貴様ァ……、ナルギ、行くぞ!」

「あっ、はい」

「行くな!」


 第二の副会長を連れて、行こうとしたシズハラ会長を、カンラギ副会長が呼び止めた。


「話はまだ終わってないわよ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る