第5話 生徒会の呼び出し

「それで、おれ達になんの用ですか?」

「私に用はないんだけどね。あなた達に用事がある人がいてね」

「それ、聞かなきゃ駄目だめなんですか?」


 くだらない用事であれば、聞く耳持たずに帰るつもりであることをかくすことなくぶつける。


「そうね……」


 うーん、と首をかたげて考えている素振そぶりをみせながらも、足を止める様子はない。


「駄目かどうかで言えば、帰っていいかもしれないけど……あまりオススメはしないかな?」


 ニコリと笑った顔で振り向くが、その顔に『手間を取らせるな』と書いてあることをなんとなく察したラスターは素直に後ろに付いていく。

 カンザキ=アマネの後ろに並んで、案内されるがままに生徒会室へ入ると、中にはすでに先客がいた。

 明らかに武術科であろう女子生徒一人と、そのとなりに座る女子生徒――取っ付きやすい雰囲気ふんいきではあるが、立ち位置的に武術科のように見える。

 そして真ん中に居座る男子生徒はラスターも見た事があった。生徒会長であり、名前は……あれ? なんだっけ?


おそい」


 ラスターが生徒会長の名前を思い出そうとしていると苛立いらだち混じりの文句がつけられる。

 眉間みけんしわを寄せ、武人のような雰囲気をまとう女子生徒の不機嫌きげんは簡単に伝播でんぱし、びくりとふるえたルーナは小さな体をさらに小さくしてラスターにしがみつく。


「遅くなって、すみません」

「ごめんなさい」


 ミレアと、それに続いてユリウスが即座そくざに謝る。

 ルーナに首をすくめながら、謝っているのか、かみらしたいのかよくわからない謝罪をおこなう。


「こちらは色々いろいろいそがしいんだがな!」

「じゃあ呼ばなきゃいいのでは?」

「何か言ったか?」


 ギロリ、と擬音ぎおんが聞こえて聞こえそうなほどの目力をめて、相手がラスターをにらむ。


「いえ、色々と忙しいようで、時間を取らせてはいけないと思い、今から帰るだけです。では――」

「待たんか!」


 相手がドン! と机をたたいて立ち上がると、おびえたルーナの手に込もる力が一段と上がる。


「まぁ、まずは自己紹介しょうかいから入りましょ?」


 最悪レベルにまで達した雰囲気を払拭ふっしょくするように副会長が提案した。

 不機嫌丸出しの女はこぶしにぎりしめて、いかりをわにするが、育ちの良さが垣間見かいまみえる様子で椅子いすに座ると、よく通る声で自己紹介をする。


「第二生徒会会長シズハラ=テンキ」

「私は第二生徒会副会長ナルギ=シェーンです。よろしく!」


 会長とちがい、副会長は印象道理に思える人物であるが……


「第二?」


 聞き覚えのない言葉に疑問を持っていると、ここまで連れてきた美人が振り向く。


「そうよ。そして私が第一生徒会副会長のカンザキ=アマネ――って自己紹介はさっきしたわね。それで彼が!」

「えっ? あっ、はい。第一生徒会会長ヒヤマ=ソウジです。一応朝礼とかで知ってるかな?」

「はぁ、まぁ」


 ラスターをふくめ他のみんなも曖昧あいまいうなずく――知っているか知らないかでいえば知っているが、ぶっちゃけ名前も覚えてないほどには知らない。


「結局、第二って?」

「この学園コロニーは、普通ふつうの学校よりはるかに生徒会の仕事が多いのよ」

「はぁ……でしょうね」

「そして学術科の第一生徒会と武術科の第二生徒会が存在するのよ」


 ということは、先程からギラギラと殺気を飛ばし続けているのと、その隣の女性は武術科と言うことで間違い無いだろう。

 学園コロニーにおける行政の権限はかなり小さい。

 一応、警察やら役所やらに相当するものはあるが、それらは少数の世捨て人みたいな大人と、学園の生徒によって運営されているため、多くの問題に生徒会が介入せざるを得なかった。

 教師を含めても、大人の数が極端きょくたんに少ない学園コロニーにおいては、自治の多くを生徒会がっている。


「えっ!? 女の人が武術科の生徒会長!?」

「女が会長で悪いか?」

「きゃうん」


 カンザキの説明を理解したルーナはおどろくが、える第二生徒会長――シズハラによって、再度ラスターのかげに隠れて子鹿こじかのように震えていく。


「良い悪いではなく――めずらしいですよね?」


 ルーナの代わりにラスターは不愉快ふゆかいそうに聞いた。


「……」

「まぁ色々とあったのよ。色々と……武術科はほら……ね?」


 だまるシズハラに代わり、カンザキが意味ありげに言うと、シズハラは黙りながらも怒気をふくれ上がらせる。


「そうですか……すみませんでした」

「色々って?」


 ルーナが小声で聞き、ラスターは言うかどうかで迷い、面倒めんどう配慮はいりょを投げ捨てた。


「あるというよりは、まぁ亡くなったんだろ」

「っ――」


 それであっても、二人共女性というのは珍しいパターンだが、それはそれで色々あったのだろう。


「なぜ呼び出されたのか分かってるな?」

「いえ、全く全然。教えてくれませんでした!」


 一切の躊躇ちゅうちょいもなく、ラスターはここに連れてきた副会長を売り飛ばす。


「私もたいして聞いてないから、実のところ知らないのよね~」


 説明不足の責任を押し付けられた副会長は、あっさりと言ってのける。


「ふざけているのか! 昨日貴様らがやったことだ!」

「……あぁ、リンゴパーティ?」

「失敗しただろ」


 答えを理解すると同時に、不快指数も増大したラスターはボケに走り、ユリウスがどこかずれた苦言をていした。


「ふざけるな!」


 昨日のことを思い出すラスターに、第二生徒会長のシズハラがブチ切れる。


「四番隊のメンバーの片腕かたうでを切り落としたという報告がこちらには上がっている。うそか本当かで答えよ!」


 金切り声でさけばれる質問はどう答えても怒られる様にしか見えない。


「本当ですがなにか? 問題でも?」

「なっ」「貴様ぁああああああ!」


 第二副会長は驚きを見せると同時に一瞬いっしゅんで椅子を引く。そして、吠えた生徒会長は椅子をばしながら立ち上がると、机に拳を叩きつけて"く"の字に曲げてのけた。


「……備品の損害は請求させてもらうわね」

「ふざけているのか貴様らああああ」


 吠えっぱなしでのどつぶれないか心配――ではなく、疑問に思うほどの声を上げながら、相手はブチ切れる。


「よくも……よくも!」

「そういや、俺たちに椅子とかって用意されないんですか?」

「そんな場合か!」

「そうね。そこに座って頂戴ちょうだい。それに紅茶も出しましょう――コーヒーの方が好みかしら?」

「……至れりことごとくせりですね」

「いい仕事は、良い豆と茶葉からできるって言うのよ」

「それは初耳です。紅茶をもらいますね」

「なっ……なっ……なっ!?」


 副会長に言われるがままにラスターは座席に座り、当の副会長は他のメンバーにも紅茶かコーヒーかのリクエストを取り始めていく。


「ふっ、ふざけている場合か?」


 あまりに予想外の事態にシズハラは裏声になりながも、怒りをにじませて叫ぶ。

 ラスター以外の他三人は静かに息を殺して椅子に座り、わたされる紅茶に感謝の言葉を告げながらも、手をばさずに状況じょうきょうを見守る。


「そうですね。いい加減真面目にする時だとわかって頂けましたでしょうか――第二生徒会長殿ながとの?」

「何を!」

「話を聞く気もなく、ただ吠え叫ぶだけのししとコミュニケーションをとってくれるのは、ブリーダーぐらいですよ?」


 そういうと、ラスターは余裕綽々よゆうしゃくしゃくと紅茶を飲んでからカップを置き、『美味しいですね』とカンザキ副会長に雑談を振る。

 にっこり笑って『でしょ?』と言うやりとりは、それはそれで周りと完全に次元がズレていた。


「えっと……いいっすか?」

「はい、構いませんよ」


 絶句しすぎて、口から何も出てこない第二の生徒会長に代わって、第二生徒会副会長――ナルギ=シェーンが質問する。


「えっと……やっぱずっと気になってたんですけど、腕を切り落とした理由って何かあるんですか?」


 もっともな質問にラスターはチラリと女会長の方に視線を移す。

 もしかして道楽で腕を切り落としたと思われているのか不思議に思いながらも、第二の副会長に向き合う。


「そうですね。まぁ、隠してもしょうがないのではっきり言いますが――」

「隠す?」


 ピクリと反応する女会長を無視してラスターは話し続ける。


「マイクロワームビーストが現れて近くにおられた……なんでしたっけ? どこぞのだれかさんの腕が、おわれにおなさったので、全身が喰われる前に切り落としました」

「……まじっ?」


 あんぐりと口を開けてナルギが聞き返す。


「そんな報告は受けてない!」


 なんとか立ち直ったシズハラも、ギャアギャアと糾弾きゅうだんし始める――人の話に同意すると死ぬのだろうか?


「昨日、ワームビーストが出現したはずですが……ご存知ない?」

「それになんの関係がある! 確かにあれは、我々の不祥事ふしょうじだが、その嘘に対して強引すぎるぞ――何より場所が違う」


 意気揚々いきようようとノリに乗っている相手に、どうやって説得するのか――き始めたラスターは周りを見渡した。

 他三人は……役立たずとは言わないが、威圧いあつされただけで有る事無い事を認めさせられかねないので任せるわけにはいかない。

 第一の会長はどちらの味方でも敵でもなさそうな様子でじっくり見守っている。

 そして――第二生徒会副会長ことカンザキ=アマネはニヤリと笑って口を開く。

 

『テヲカソウカ』

 

 口パクで、手を貸そうか? と聞いてくる彼女に投げていいものかどうか……

 妖艶ようえんな雰囲気を纏う美女――カンザキ相手に、面倒な借りを作るのが果たして得策かどうかは疑問が尽きない。

 とりあえず、味方がいることはわかったので、ラスターは八方塞はっぽうふさがりになるまで話を進めてみることにした。

 

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