第55話 シルザールの街で気が付いてしまった
「ボワール伯爵の居場所を知っている様だな」
ダンテの感は鋭いし正確だ。俺に協力的なこと以外は普通の優秀な魔法士に見える。
「判った。『赤い太陽の雫』はワリスさんは持っていないと思うし、俺が説得してみるから城で待っててくれないか?ちゃんと連れて行くから」
そんな提案を受け入れるべき理由はダンテには無い。
「いいだろう。ちゃんと連れて来いよ。言っておくが私はボワール伯爵のような魔法使いではない人は探せないが、お前のような巨大なマナの魔法使いはシルザールに居ればすぐに判るという事を覚えておけ」
なんだよ、俺の居場所は丸判りなのか。それで初対面なのに俺のことを何だか知っているかのような反応だったのか?マシューあたりには出来ない芸当なのかもしれない。ダンテ、我が儘マシューの配下にしておくには勿体ない優秀な魔法使いだ、三顧の礼で引き抜くかな。
「勿論判っているとも。では少しだけ時間をくれ。先に城に戻っててくれ」
俺はダンテの馬車が屋敷を出て行くのを確認してからワリスさんのところを訪れた。
「あなたは伯爵を売ったのですか?」
キサラが睨みつけている。さっきの上での会話を聞いていたのだ。キサラの存在も気が付いていたのに城に戻って行ったダンテは、ちょっと何考えているのか判らなくなってくるな。
「ちゃんと聞いていたか?伯爵が犯人ではないということを言ってただろ?」
「キサラ、いいよ。そろそろ出ていく頃合いだと思っていたから、まあちょうどいい。コータロー君、一緒に城に出向こうか」
「旦那様、よいのですか?」
ルアーノ執事が心配顔で主人に問う。
「いいんだ。ずっとここに居る訳にも行かないだろう。ベルドアも私のことを無碍にはしないと思う」
それなら何故隠れたりしたんだ?という疑問が残るが、話が急展開したので情報収集や商人として色々と手を打つ時間を稼ぎたかった、というところか。俺の中ではワリス黒幕説がまだ消えてはいないのだが考えても仕方ない。簡単に尻尾を掴ませる玉ではない。
俺はワリスさんの従者ということで一緒にベルドア・シルザールの居城へと向かった。
「お待ちしておりましたボワール伯爵様、どうぞこちらへ」
城に着くと直ぐにダンテが現れて客間の一つに通された。しばらくここで待つように、とのことだ。
「ワリスさん、大丈夫ですか?」
色んないみで、大丈夫なのか、を聞いてみた。
「大丈夫だよ。何も問題ない」
ワリスさんは笑顔で応える。全て大丈夫のようだ。
「ボワール伯爵様、どうぞ、ご領主様がお待ちです」
俺とルアーノ執事がついて行こうとするとダンテに泊められた。伯爵お一人で、ということらしい。仕方なしに俺たちは通された部屋で待っていた。
抜け出して城の中でジョシュアやセリスを探そうと思ったがルアーノに止められた。主人が無事戻ってからにしてほしい、ということだ。俺は素直に従った。迷惑は掛けられない。
1時間少し経ったとき、ワリスさんが戻って来た。
「帰ろうか」
少し疲れた何とも不思議な表情で帰宅を促した。領主との話は上手く行ったのだろうか。
ルアーノは全く口を開かず馬車を駆って主人を乗せて屋敷へと向かう。帰宅する間も一言も発しない。その空気に俺も飲まれてしまって何も話せず何も聞けなかった。
屋敷に戻ると
「疲れてので、これで休ませてもらうよ」
ワリスさんはそう言うと自室に引き込んだ。屋敷には既に使用人やメイドたちが戻ってきている。俺が居た時と何一つ変わらない風だった。ただ魔法士はキサラ以外は誰も戻っていない。
オメガ・サトリームが『赤い太陽の雫』を盗んだ犯人だと特定されたことにより、叛意が無いことを示すため一人を残して全員を解雇せざるを得なかったのだ。
「ワリスさんは大丈夫なんですかね?」
ルアーノに問いかけると、執事の顔色が暗くなった。
「何も仰ってくださいますな。何もお聞きくださいますな。私もこれで休ませていただきます」
そういうと執事も自室に戻ってしまった。
仕方なしに俺も元居た部屋に戻る。とこでやっと気が付いた。
「あっ」
ベルドア・シルザールとワリス・ボワールとの関係。そうか、そうだったのか。年齢は10歳ほどは離れていそうだが、そういうことか。確かに男色だとは聞いていたが。
二人の関係がそういうことであるのなら、元々問題は無かったのかも知れない。
ベルドアが正妻としてシンシア・ウォーレンを迎え第二夫人としてセリス・ウォーレンを迎えたことは二人の関係に亀裂を入れなかったか。二人の間のことは二人にしか判らない、と俺は考えることを止めた。
いずれにしても、やはり男色家として名を馳せていたベルドアが正妻や第二夫人を迎えたことには違和感がある。何か別の理由があるように思える。
ジョシュアとセリスを探すついでに、その辺りのことも探る必要がありそうだ。セリスの姉シンシアにしても納得して嫁いできた訳ではないだろう。
ベルドアの本当の目的が知りたい。それによっては正式にセリスを開放してもらえる可能性も出てくるはずだ。
「お屋敷が元に戻ったのはあなたのお陰です、ありがとうございました」
キサラからお礼を言われた。お礼を言われるには俺のやった事は割と自分勝手で自分の都合でやった事でしかない。
「何も大してことはしていない。君は主人思いのいい魔法使いだね」
本心からの言葉だった。
「伯爵様は孤児だった私を引き取って魔法の修行をするよう手配してくださったのです。私はその恩に報いるため魔法の修行に励んでいるのです。オメガ様や他の魔法使いの方は全然私の相手をしてくださいませんでしたが。私にはあまり才能がないといつも言われていました」
ワリスさんがキサラを引き取って育てた理由はよく判らない。ボワール家に勤めていた魔法使いたちからも疎まれていたようだ。俺から見ると若くて可愛い、守ってあげたくなるような魔法使いなんだが。
「俺が魔法を教えてあげようか?」
ついついそんなことを言ってしまう気になる子だった。
「本当ですか」
「いや、実は俺もまだまだ修行中の身だから教えられることなんてあまりないけどね」
「それでもいいです。宜しくお願いします」
お願いされたら仕方がない。ただし、セリスの件をなんとか解決してから、ということになるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます