第54話 シルザールの街でダンテと再会した

(私は先に戻ります)


 キサラの気配が消えた。慌てて屋敷に戻ったのだろう。俺も後を追う。屋敷には直ぐに着いた。門が開いていて中に馬車が1台停まっている。ダンテはまだ居る様だ。


 馬車の御者を含めて一行は全員見当たらなかった。多分ワリスの住んでいた屋敷だと当たりを付けて向かう。居た、ダンテだ。


「よぉダンテ」


 俺は普通に声を掛けた。初対面風過ぎても形式ばっても仕方ない。


「なんだ、お前は誰だ?なぜここに入って来た?」


 当然の疑問だ。


「あんたに用があったからだよダンテ」


「なぜ私の名前を知っている。見覚えのある顔ではないが、どこかで会ったのか?」


 このやり取りは今後何回やらなければならないのだろう、とゲンナリするが仕方ない。


「ちょっと待て、そのバカみたいなマナの量、見覚えがあるぞ。まさかあの時の」


「そう。あんたに城から逃がしてもらった沢渡幸太郎だよ」


「まさか、顔が違うじゃないか。年齢も違う」


「若返りの魔法、って知っているか?」


「聞いたことはあるが、実際に使った者を見たことは無い。若返ったというのか?」


「実際には若返ったんじゃなくて若い別人になった、ということらしい」


 簡単に信じられたり納得できることではなかった。ただ確かに目の前の人物のマナの量には覚えがある。このマナの量はヴァルドア・サンザールよりも多く、先日王都から来たエル・ドアンに匹敵するものだ。ダンテの主人であるマシューよりは随分多い。


 ダンテは魔法使いのマナの量を正確に把握する能力を持っていた。他言はしていないのでマシューも含めて他人は誰も知らない。マシューは領主が王都から呼び寄せたエル・ドアンを敵視していたが、その能力やマナの量は結構な差があるとダンテは見ている。本人には言えない。


「お前がコータローということは、まあ理解しよう。それで、そのコータローがここで何をしている?」


「ダンテがボワール家に入って行くのが見えたので、入って来てみたんだ。一度来た時には、ここには誰も居なかったから、どうしたんだろうと思ってね」


 誰も居ないと思ったら実は地下に居た、と言う部分は省いた。


「そうか。確かこの屋敷に滞在していたんだったな。匿われていたということか。何か隠れられる場所とかの記憶は無いか?」


「俺はただの闖入者だよ、屋敷に詳しいわけがないじゃないか」


 何もおかしい所は無い筈だ。


「それもそうだな。私はここにボワール伯爵様の行方の手掛りが無いか探しに来たのだ」


「伯爵は逃げているのか?」


「そうだな。お前と一緒だ。手配書は見たか?『赤い太陽の雫』は今お前が持っていることになっているぞ」


「冤罪だよ」


「まあ、そうだろうな。あの時の状況からするとお前の手に渡ることはなさそうだ。そうじゃなければ今ここでお前を捕まえなければならない」


 どうもダンテは俺のことをある意味信用してくれているようだ。理由は判らないが。


「で、俺は沢渡幸太郎と信じてくれた上で、俺を捕まえないということでいいかな?」


「まあ、そういうことでいい。見た目お前がコータローだとは誰も思わないからな。手配書もちゃんとしていたから都合がいい。お前のマナの量を把握しているのは多分マシュー様でも無理だろうから問題ない」


 ダンテは自分の主人をどう思っているのだろうか。


「ダンテがそういうなら俺はいいが」


「それでワリス・ボワール伯爵の居場所は本当に知らないのか?」


 俺はちょっと迷った。ワリスさんを庇ってダンテを騙すか、ワリスさんのことをバラしてダンテの信用を得た方がいいのか。


「ダンテはなんでワリスさんを探しているんだ?」


「それは『赤い太陽の雫』の行方をご存知ではないかと思っているのだ。私が直接お聞きしたいのだよ」


 オメガが持っていなければ雇い主のワリスさんが持っている可能性が高い、ということか。まあ安易ではあるが当然の発想だな。


「なるほどな。でもワリスさんは持っていないと思うぞ」


「なんだ、お前は誰が持っているのか知っているのか?」


 ここで俺は師匠を売ることにした。あの師匠なら大丈夫だろうし多分若返りの魔法を成功させれば捕まることは無くなるはずだ。


 そして若返れば最早『赤い太陽の雫』は不要だろう。なんとか上手く『赤い太陽の雫』をもとあった場所に知れっと戻してもらうこともできるかも知れない。

 

「知っている訳ではないが、持っているかも知れない人物の心当たりはある」


「それは誰だ。その話が本当であればお前の手配書は直ぐに破棄させることもできる」


「多分師匠が持っていると思うんだが」


「師匠とはヴァルドア様のことか」


「そうだ。オメガから奪い取れるのは師匠くらいのもんだろう。もしかしたらエル・ドアンってこともあるかもな」


「それは無い。エル・ドアンは自分のマナの量には興味がなさそうだった。自身で把握もしていないようだった」


 天才は些細な事には興味がない、ということか。


「それにオメガがお前に渡したと嘘を吐いたのは、多分直接ヴァルドア様の名前を出せばヴァルドア様を敵に回してしまうと思ったのではないか。ただ手掛りとして弟子であるお前の名前を出せば誰かが真実に至れると考えたのだろう」


 複雑なことを考えるものだな。まあ、それが真実かどうかは判らないが。


「それでヴァルドア様の居場所は知っているのだろうな?」


「いやいや、俺は城から出てつい昨日戻ったばかりなんだ。その間師匠には会ってない」


「本当か?」


 これは本当だから問題ない。ただ行先の当てはあるが

そこは不確定なので示唆しない、ということだ。


「本当だ。勿論連絡も取っていない。だから居なかった間の情報が欲しいと思っていたんだ。オメガが捕まった時のことも全く情報がないんだ」


「ちょっと待て。よく考えると数日前に戻ったお前がなぜオメガが捕まった事やエル・ドアンが捕まえたことを知っている?そんな情報は一般には流れていない筈だ」


 しまった、失敗した。情報ソースを明かすことは出来ないが、どう誤魔化したものか。いや『赤い太陽の雫』がワリスの手元にないことがハッキリすれば問題ないのか。

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