第53話 シルザールの街で事情を聞いた

「なんとなく事情は判りました。多分今ごろ師匠はロングウッドの森でしょう。俺と入れ違いになっていると思います。それからあと、領主様のところに第二夫人が来られたと聞いたのですが、事情はご存知ですか?」


 ワリスならもしかしたら詳細を掴んでいるかも知れない。


「セリス様のことかね。確かに数日前王都アステアールからセリス様がシルザールに入られた、ということは聞いている。それが何か?」


 俺はセリスたちとの事情を話した。師匠との出会いはあまり詳しくは話せていなかったのだ。


「なるほど。確かにセリス様はアステアールで見つかったらしい。見つけたのはエル・ドアンとかいう特級魔法士のようです」


 またエル・ドアンか。余程優秀なようだ。本当に15歳なのか?


「でもまたどうしてエル・ドアンが」


 ベルドアがオメガを探すために王都から呼び寄せて、オメガを直ぐ見つけてくれたので、こんどは攫われたセリス様を探して欲しいと依頼したのだ。


 エル・ドアンはルスカナに一度訪れて、そして王都に一旦戻ると捜索を始めたのだが直ぐに王都で発見した、ということらしい。何かの魔法を使ったようだが、よく判らない。


 セリスをシルザールに送り届けてエル・ドアンはまた王都に戻って行ったのだが、シルザールに居なくてよかった、と安心した。何かを起こすにしても、そんな天才がいるとやり難くてしょうがない。


「セリスと一緒に若い男が捕まって来ませんでしたか?」


「若い男?ああ、その誘拐した、じゃなくて一緒に逃げた人だね、それは聞いてはいないがもしかしたら同じように捕まっているかもね」


 ワリスさんはジョシュアの情報は持っていないようだ。俺はやはり責任があるのでなんとか消息を探りたい。セリスも本人の意思に反しているのなら、もう一度逃げる手助けをしたい。


「ワリスさんは、それでこれからどうされるつもりですか?」


 いつまでも地下に隠れている訳にも行かないだろう。


「そうだね、ベルドアとも一度話をする必要はあると考えてはいるんだけど、ちょっとまだ早いかな。今のところ商売の方はちゃんとできているので、困っていないから。もしベルドアが私の商売に手を出すのなら黙っている訳には行かないけれどね」


「そうですか、判りました。でもお気を付けください、何が起こるか分かりませんから。ワリスさんもまさかオメガが犯人だとは思っていなかった筈です」


「確かに彼が犯人だとは思っていなかったけれど、オメガは向上心というか名誉欲というか、自身の魔法士としての地位をもっと上げたい、評価されたいと思っていたことは知っていたから。それをうちの屋敷で使用していたこと、それも私が生粋の貴族ではなく金で爵位を買った人間という事に不満を持っていたのだろうね」


 オメガは当然納得して雇われていたはずだし、それ相応の報酬も貰っていたはずだ。なのに雇い主に迷惑を掛けてしまったことについては、どう思っているのだろう。


 屋敷に居た使用人たちの多くは、ワリス伯爵の領地にある屋敷に移動させて、今ここには執事であるルアーノとメイド数人が居るだけだった。オメガ以外のお抱え魔法士は、とりあえずは一人を残して他は全員解雇したらしい。


 残った魔法士はキサラ・ショーノ中級魔法士、今の俺の外見年齢とほぼ同じくらいの若い女魔法士だ。俺が外で何かの行動を起こすことになった場合、彼女を連絡係などに使うことを提案された。俺は快諾する。


「俺はとりあえず城に行ってこようと思います。セリスとも話がしたいですし」


「危なくないかい?まあ、君なら大丈夫だとは思うけれど」


「エル・ドアンとかいう魔法士が居なければ大丈夫でしょう。城の魔法士の何人かは知っていますし、その力量も大体判っています。ただ見た目がこれですから、まずそこを理解してもらうのが問題でしょう」


「確かに、初めて見たが凄い魔法だね」


「でも師匠も同じ魔法を掛けられているんですよ」


「そうなのか。でも私が出会った時からヴァルドアはずっとあのままだが」


「それは師匠に対しての魔法が失敗したからです。若い別人になるはずが、ただ歳を取ってしまう結果になったのです」


「失敗することもあるのか。やり直しは聞かないのかな?」


 ワリスはやはり何か商売に結び付かないかという観点から若返りの魔法をみているようだ。ただマナの量の問題が解決しないことには無理だろう。そうか、それを解決するものが『赤い太陽の雫』か。


「まさか」


「ん?どうかしたか?」


「いえ、なんでもありません」


 思わず声に出してしまった。オメガの裏で手を引いていたのがワリス・ボワール伯爵、なんてことはないよな?最初から全部知っていた?師匠も騙されていたりして。怖い、怖い。ここで潜伏しているのも実は黒幕だとバレたら本当に捕まってしまうからか。


「やり直しというか、短期間で大量のマナを消費することが身体にどんな影響を与えるか判らないので十分間を空けて使っている、と言ってました。それが多分数十年という単位で期間を空けるので師匠はずっとあのままなんだと思います」


「そうなのか。私が出会った時には失敗した後だった、ということになるのかな」


「かも知れませんね。ではそろそろ城に行ってきます」


「気を付けて。城の中には入れないけれど外にキサラを待機させておくので何かあったらすぐ外に逃げてくださいね」


「判りました。ではワリスさんも気を付けて」


 俺はここにいることも、もしかして危険なのかもしれないと思い始めていたので、そそくさと屋敷を出た。


 城に向かって歩いているとシルザール守護隊の詰所があった。詰所の前に手配書が貼ってある。俺の顔だ。似顔絵だが結構似ている。何かそういった魔法があるのかも知れない。


 手配書には『赤い太陽の雫』の窃盗犯と書いてあると思ったが違った。『赤い太陽の雫』が書かれていない。シルザール家の家宝とも言うべき『赤い太陽の雫』が盗まれたことは極秘事項なのだ。


 城の正門を通り過ぎる。流石に正面からは入れない。


 すると中から一台の馬車が出てきた。中が見える馬車だったので誰が乗っているのかと見ていたら見知った顔の人物が乗っていた。ダンテ・ノルンだ。


 俺はすぐに後を追うことにした。飛翔魔法と隠形魔法の組み合わせが出来ればいいのだが、俺はまだ飛べなかった。ちゃんと修行したいものだ。


(キサラ、居る?)


 俺はキサラに追ってもらうことにした。思念だけで伝える魔法は割と初歩だったので俺も今では使える。ただ、相手の意に反して相手の思考を読むようなことはまだ出来ない。


(判りました。あの馬車の行先をつきとめればいいんですね)


(頼んだ)


 キサラは何処に居たのか知らないが、俺には姿を見せないまま、気配はもうどこにも無かった。


(コータロー様)


(どうだった?)


キサラが戻ってきたようだ。


(拙いことになりました。あの馬車はお屋敷に入って行きました)


(お屋敷、ってボワール家か?)


(そうです。中に入ったのは一人でした)


 ダンテが一人でボワール家に?目的は何だろうか。俺かボワール伯爵を探している?俺は直ぐに屋敷に戻ることにした。



  



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