第5章 展開する物語の章
第52話 シルザールの街で探検した
地図のところに行くと別段何もなかった。俺が居た当時と何も変わらない感じだ。
「ん?」
前に居た時には気が付かなかったが、壁に少し違和感がある。壁の一部が不自然に膨らんでいるように見える。よく見ないと判らない程度ではあるが。
もっとよく調べてみると壁に押せば引っ込むところがある。うん、隠し扉だ。アリガチだがワクワクするな。
俺はその引っ込むところをグイッと押してみた。
ガゴゴゴゴゴ。
壁全体が扉になっているようで奥に人一人が入れるくらい引っ込んだ。そして、横に地下に降りる階段が顕われた。隠し部屋だ。
恐る恐るではなくワクワクしながら俺は階段を下りる。
ガゴゴゴゴゴ。
今度は後ろで扉が閉まる音がする。灯が点いているので階段は降りられる。階段を降り切ると扉があった。躊躇いもなく俺は開けた。
「おかえりなさい、コータローさん。よく戻りましたね」
そこにはボワール家執事のルアーノ・アンバーが居た。
「ルアーノさん、お久しぶりです。でもよく俺が判りましたね。顔かたちが変わっていると思うのですが」
「ヴァルドア様からもしかしたらコータロー様が別人になって戻るかも知れないと、お聞きしていましたから。それで侵入者を発見したのですぐにコータロー様がいらっしゃったお部屋にメモを置いてみたのです。コータロー様ならきっと直ぐにお部屋に行かれるのではないかと」
「なるほど。それで一体この状況はどうしたって言うのですか?」
「それは主人の口からお話ししていただきます。どうぞこちらへ」
「えっ、ワリスさんは無事でしたか。てっきり捕まってしまったのかと」
俺はそのままルアーノさんに導かれて別の部屋へと通された。そこには確かにワリス・ボワール伯爵が居た。
「ワリスさん、無事だったんですね。よかった」
「君も無事だったんですね。見た目は随分変わってしまいましたが。心配していたのですよ」
「申し訳ありません。オメガさんと城に行って、そのまま捕まってしまいそうだったのでシルザールからは遠ざかっていたんです。でもこの風貌になったので戻ってきました」
「なるほどそうでしたか。オメガの件はご迷惑をおかけしました。うちのお抱え魔法士か犯人だったとはヴァルドアにも悪いことをしたと思っています」
「その辺りのことをお聞きできますか。俺が居なかった間のことは全然判らないので」
「判りました。では順を追ってお話ししましょう」
俺がシルザール公爵の城を出てすぐにオメガに追ってが掛かったらしい。『赤い太陽の雫』を盗んだ犯人だとして特定されたのだ。
それでヴァルドアにはオメガ捜索の手伝いの依頼があったので、一応捜索をする体で城を回ったが、結果見つからなかったとして開放されたのだ。
ヴァルドアがボワール家に戻ると、もぬけの殻だった。オメガの雇人としてワリスにも追手が掛かったのだ。
実は領主ベルドアの友人でもあるワリスには参考人として事情を聞くだけ、という事だったようだがワリスはそれを良しとはしなかった。領主から呼び出しを前に家人も含めて全員を避難させ自らはこの地下施設に隠れたのだ。
その辺りの領主との関係は俺には判らなかったが、二人だけにしか判らないことがあるのだろう。
地下に引っ込んだ後師匠が戻ったが、ワリスは師匠を巻き込まない様に居場所を明かさなかった。接触していないので師匠とオメガがどうなったのかは詳細が判らないらしい。
ただ、ルアーノが入手した情報を総合するとオメガは結局捕まったらしい。但し捕まえたのはシルザール家の魔法士ではなく師匠でもない、王都から来たエル・ドアンという特級魔法士だったらしい。
確か、その名前はオメガが言ってなかったかな?違うな、マシュー・エンロールが言ってたやつだ。15歳だっけか、天才魔法士のマシューが嫉妬するほどの天才、ってやつか。オメガでは歯が立たなかった、ってことか。
問題はオメガが『赤い太陽の雫』を持っていなかったこと、えっ、それはもしかして拙いんじゃないか?
「まさか、師匠が?」
「その可能性は否定できない。ヴァルドアは最近自らのマナの量の減少に悩んでいた。何かの魔法に必要な量が足りなくなってしまうかも知れない、とか言っていたな。それを補うには『赤い太陽の雫』しかなかったのかも知れない」
若返りの魔法か。一度失敗して歳を取ってしまったので、そろそろ若返らないと、ということか。
「それでオメガは『赤い太陽の雫』をどうしたと言っていたんでしょうか」
「オメガは君に渡した、と言っていたようだ」
えっ、俺?・・・?
「俺ですか?」
「君というよりは正確にはヴァルドア本人ではなくヴァルドアの弟子に使い方を含めて調べてもらうために渡したと言ったらしい」
なんだ、その絵にかいたような冤罪は。
「それでヴァルドアは弟子の不始末の責任を取って君を捕まえる為に行方の分からない君を追って旅に出た、ということらしい。それでケルンに向かったと聞いている」
なるほどロングウッドとは真逆の東、ケルンの方角に向かって色々と誤魔化そうとしたのか、師匠らしい。
「判りました。でも師匠は多分西ですよ」
「そうなのか?」
「多分ですけど。若返りの魔法に大量のマナが必要なので『赤い太陽の雫』を持って若返りの魔法が使えるナーザレスが居るロングウッドの森に向かったはずです。俺はそのロングウッドの森でナーザレスに若返りというか若い別人になる魔法を掛けてもらってこんなことになっています」
「なるほどな。私もヴァルドアから聞いていなかったら今の目の前にいる君がコータロー君だとは信じられなかったからね。でも本当にあるのだな、その若返りの魔法というものは」
ワリスさんは何か良からぬことを考えていそうだ。
「でも若い別人になってしまう魔法、ということですし、消費するマナの量は半端ないですよ。普通の魔法士では無理だと思います」
「それを補うのが『赤い太陽の雫』といことだよね。それを今はヴァルドアが持っていると」
うん、ワリスさんはやはりやり手の商人らしい。何かを思いついたようだが聞かないようにしよう。何か大変なことに巻き込まれてしまいそうだから近寄らないようにしないと。
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