第51話 ロングウッドの森を後にした
「なんだか顔が別人ってのは、どうなんだ?」
「仕方ないわ、若返りの魔法じゃないんだもの」
「えっ、違うのか?」
「正確には別人になる魔法、ね。若い別人になる、ってこと」
若返りとはちょっと違ったみたいだ。確かに若い肉体にはなったが、自分のまま若返るのではなかった。
「クマさん、情報は正確に伝えてくれないと」
「なんだ、若返ったのが不満か?」
「不満というか、まあ、別にいいか」
俺もいい加減なものだ。別人になったことをそれほど驚きもしないし残念にも思っていない。ただ、問題は今まで出会った人にどう説明するか、だ。
「ルナの見た目も毎回変わっているのか?」
「そうね、毎回変わっているわ。もう最初の顔は自分でも覚えていないもの」
ルナも一度受け入れてしまうとあとは気にしないタイプだ。
「師匠もそうなんだな」
「ヴァルドアはちょっと違うかも。前回逆に歳を取ってしまったけど顔は単純に歳を取っただけだったわ。そういった法則があるのかもね。事例が少なすぎて検証できないけれど」
なるほど、もしかしたら失敗して歳を取る時は別人ではなくそのまま歳を取るのかも知れない。師匠の一例だけなので確実ではないが。
「どうだ、これでシルザールに戻れるだろう」
確かにこの見た目なら誰も俺だと認識は出来ないだろう。
「確かに。今まで覚えて魔法やマナの量がそのままなのはとても大事なのでありがたい」
「そうだろう、そうだろう。もっと我に感謝するがよいぞ」
クマさんは自慢げに言う。少し過剰気味だ。
「そりゃ、まあ感謝はしてるけどね」
「なんだ、やっぱり不満か?」
「不満と言うか。まあいいや、とりあえずシルザールに戻ってみるよ。師匠のことも一応気になるし」
「一応、なんですね。まあ、あの人は放って置いても大丈夫だとは思いますが、連絡が何もないのは少し心配です」
「そうだね。師匠のことが判ったら、直ぐにルナさんとクマさんに報告するよ」
「我は特に気にしてないがな」
そう言いながらも実は心配していそうなクマさんだった。
「じゃあ行きます。ルナさん、戻ったら修行の方もよろしくお願いします」
「判ったわ。ヴァルドアのことはお願いね」
俺は直ぐにロングウッドの森を出立した。ロングウッドからシルザールは約40km、2日も歩けば着く。
前回シルザールを出てからもう一か月ほど経っている。状況が全く判らない俺は、とりあえずワリス・ボワール伯爵家を訪ねることにした。
ワリスが捕まっていなければいいのだが、少なくとも執事のルアーノでもいれば何か判るかもしれないと期待していた。
屋敷を訪れるとなんだか閑散としていた。門は閉まっている。裏口も閉まっていた。壁を抜ければいいのだが、中の様子もよく判らないので、とりあえず先に街で情報を聞いてみることにした。
口の軽そうなチンピラを見つけて声を掛ける。
「景気はどうだい?」
「どうだい?なんか歳の割に言葉使いが古臭いな」
しまった、見た目は二十代だった。
「いや、最近の景気はどうですか?」
「景気なんていい訳ないだろう。なんだ、旅人か?」
「そうなんですよ、今日シルザールについたところなんです。なんか面白い話はないですかね?」
「面白い話なんてそうそうあるもんじゃないさ。でも、そうだな、ちょうど昨日持ちきりだったのが」
「うんうん、持ちきりだったのが?」
「セリス・ウォーレン様が姉のシンシア様に続いてご領主様のところに第二夫人として来られたことだな」
えっ?セリスが第二夫人として来た?何がどうなってる?
「へぇ、そうなんだ。ルスカナのウォーレン侯爵様のご令嬢でしたっけ。でも確か行方不明って聞いたけど」
「それだよ。なんでも誘拐されたんだが王都で見つかったらしいぜ」
ジョシュアとセリスは逃げるなら人が一番多い王都がいいだろう、という俺のアドバイスをそのまま受け入れて王都に行ったようだ。そこで見つかってしまったという訳か。
セリスは連れ戻されたとしてジョシュアはどうなったんだろう。もしかすると、もう生きてないかもな。
「それは中々面白い話だね。他には何かないかい?」
「他にはか。お兄さん、何か調べたりしているんじゃないだろうな?」
「何か調べるって、そんな訳ないじゃないか。ただ噂が好きなだけさ。面白い話をありがとう、これで酒でも飲んでおくれ」
俺は少しの金を渡して、何かを疑い出した男の元を離れた。下手に通報でもされると厄介だ。
俺はワリスの屋敷に戻ることにした。
見つからないように壁抜けをして中に入ると、やはり中には人の気配が無い。少なくとも建物の外には誰も居なかった。
ワリスが暮らしていた建物に着いて扉を開けようとしたが開かない。仕方なしにまた壁を抜ける。
建物の中に入っても閑散として人の気配が無かった。俺が居た時は数十人はいたであろう屋敷に誰も居ないのだ。お抱え魔法士だったオメガの所為でワリスも捕まり
屋敷に居た人々も居なくなってしまったのか。
俺は滞在時に与えられていた部屋に入った。するとテーブルの上にメモが置いてあった。メモというか、地図だ。見るとこの屋敷の間取りが書いてある。この屋敷の1階の間取りだ。そこに一か所星印が付いていた。
誰か置いたメモかは判らなかったが、この部屋に置いてあったことを考えると俺宛ではないかと思えた。
とりあえず俺はその星印のところに行ってみることにした。
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