愛していると言え!!

あさの

愛していると言え!!

 人は生きている内に、何度「愛している」と言えるだろう?

 人は生きている内に、何度大切なものを手に入れられるだろう?

 人は生きている内に……。

「おーい」

人は……。

「未春、おーい」

 七子の声で目が覚める。気づいたら眠ってしまっていたようだ。古典の時間はいつもこうだ。

「あ、起きた。置いていこうかと思ったよ」

 そうは言っても起きるまで待っていてくれるところが七子の優しいところだ。

「七子、おはよう」

「はいはい、おはよう。こんなのが学年首位とはね。才能って怖いわ」

 珍しく七子が誉めてくれている。私は夢かと思い自分の頬をつねった。

「なにやってんの。次、体育だよ。遅れちゃう」

「うーん、持病が……。」

 痛てて……。と、私は頭を抱える。頭痛持ちなことを利用して、体育は最低限しか出ないつもりだ。

「はあ。またですか。今日は私、出たかったのに。高跳び得意だから」

「またの機会がありますよ。さー、さぼろーっ」

 私は付き添いの人としていつも七子を休ませていた。そしてありがたいことに病欠者は保健室待機ということになっていた。


「全く、良いご身分ね」

 養護教諭の早苗先生が言う。確かに良いご身分だ。季節は夏。生徒達はグラウンド。私たちはクーラーの下だ。

「早苗ちゃんはずっとここじゃん。私たちはクーラーのない教室へ戻るんだよ」

 七子が口を尖らせて言う。

「そうだぞー」

 私も調子を合わせる。

「私はね、職員室とか、グラウンドとか、呼ばれたらどこでも行ってるんだから……噂をすればだわ。ちょっと空けるわね」

 私達を信頼しているから、早苗ちゃんはよく保健室を空ける。今日もそうだった。

「はーい」

「あいあい」

 早苗ちゃんは忙しく保健室を後にした。

「早苗ちゃんって彼氏いるのかな?」

 七子が言った。

「さあ? もう結婚してたりして」

「まさかあ」

 私は何気なく机の引き出しを開ける。先生の事務机だ。入っているのは書類、ハンコ、お菓子……。少し整頓したらと言いたくなるような中に、目を引くものがあった。写真だ。

「ねえ、見て七子」

 そこに写っていたのは若い頃の早苗先生と、同い年くらいの少女だった。

「この人、見覚えが」

「これ、古典の宮下先生じゃない? そうだよ、ホクロとか」

「寝てるのによく覚えてるね」

「まあね。でもどうして」

「裏になにか書いてあるよ」

   愛していると言え!! 夕貴

「「わあ」」

 夕貴は、宮下先生の下の名前だ。つまりそういうことだろうと私達は結論に至り、写真をもとの場所にそっと戻した。


「イイね。愛していると言え!だって」

「私ならもっと上手く告白するね」

「何それ。何て言うの?」

 七子に詰め寄られて私は珍しく赤面してしまった。

「例えば……。」

「いいじゃん」

委員長が席に着くように促す。七子は自分の席に戻っていった。ちなみに、二年後、私が七子の卒アルに「愛していると言え!!」と書いたのを早苗ちゃんに見られてこっぴどく叱られる。二人は結婚していた。


   あなたの他を、私は知らないわ

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愛していると言え!! あさの @asanopanfuwa

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