第4話 窮地

「駄目〜〜っ! その作戦は却下だ、却下っ!」


 ……俺は発言前の挙手も忘れて叫んだ。


 作戦参謀が「何故なにゆえ? ……ターゲットも学徒も、全てが『ツガイ』になれば、万事解決するではないか! 閣下が反対する理由をお聞かせ願いたい」と言った。


 ……以前(前作『鬼の兵団』をご参照頂けましたら幸甚でございます!)、衛鬼兵団こいつらが凝らした軍議では『ターゲット以外の人類殲滅』とか『脅迫して無理やり恋人にする』とか、かなり物騒な作戦を定石通りセオリーとして進めようとしていた。 ……それと比べれば、かなり平和的な作戦を提示して来たと言えるかも知れない。 しかし、まだまだ俺たちの世界でのセオリーを理解していないようだ。


「俺たち人類が『恋人』……すなわち『つがい』になるためには、お互いが相手を『好き』になるというのが最低条件なのです!」


「ならば、お互いが好意を持つように『洗脳』すれば万事解決だ!」


「駄目駄目っ! 洗脳なんてもってのほか! 今後、安易な使用は禁止します!」


「閣下に申し上げる。 衛鬼兵団われわれは勝つ為なら如何なる手段をも躊躇無く行使する準備がある。 我々は『勝利』が最低条件だ!」


 ……作戦参謀が言っている事も理解出来なくはない。 100%の勝利を収める為には人間の『心』や『考え』のような不安定で不確実なものは排除したいだろう。


 しかし! 第三者が洗脳によって人々の考えを勝手に捻じ曲げてしまうなんて、人間として到底容認出来ない! 俺は、この作戦には断固反対の意志を示した。


 作戦参謀は『確実な勝利』を手にする為の実力行使を撤回する気は無いと言う。


 互いに一歩も引かない状況が続き、業を煮やした俺が少し頭を冷やそうと辺りを見渡すと、すぐ隣の席で嬉しそうにこちらを見ていたユイと目が合った。


 ……こいつは体細胞の配列を変えて14歳位の『美少女』に見えるが、やはり本質は『衛鬼兵団』を率いる、いくさ好きの異世界人……俺と作戦参謀が舌戦を繰り広げているのを見るのが楽しいのだろう。


 ……そんなユイだが、前作をお読み戴いた読者の方々は、ユイが人体を完璧にコピーしている為、恋愛の幾許いくばくかを理解し始めているのに気付いてられるだろう。 その総司令ユイが協力してくれれば、文字通り『鬼に金棒』だ!


 俺は「おい! このままじゃらちが明かない……頼む! お前からも何か言ってやってくれよ!」と、小声で加勢を求めた。


 ……ところがユイは「総司令は貴様あにだ。 何とか説き伏せてみせい」……と言って、いつもの不敵な笑みを浮かべた。


 ちぇっ、冷たいなぁ!


 ……となると……残る希望は……


 情報参謀!


 衛鬼兵団では、ユイの次に俺たちの事を理解してくれている、ヒョロ長だけど……変な声だけど……でも、とっても頼りになるのが、この情報参謀だ!


 俺は挙手して


「……人類の『恋愛』に関して理解をお示しの貴方あなたは、本作戦をどう思われますか?」……と情報参謀に意見を求めた。


「はい。 ワタクシも皆さんがシアワセになれる本作戦には大賛成デス! 何故に総司令閣下が反対されるのカ、理解に苦しんでおりマス……」


 情報参謀よ……お前もか……


『孤立無援』『四面楚歌』『前門の虎、後門の狼』『八方塞がり』『五里霧中』……この言葉を考えた人たちは、みんなこんな気持ちだったんだろうな……(泣)


 既に俺をせいしたつもりの作戦参謀が……


「参謀諸君、今思い付いたのだが、この作戦が実行されるのであれば、この世界の全ての人民を洗脳し、徴兵して我が兵団に加え、一大戦闘国家を興す事も不可能では無い!」と、のたまった。


 更に、勝ち誇ったようにこちらを向いて……


「閣下も、鷹音ようおん野華ひろか支配下に置ければ、今のお考えを改められるのではあるまいか?」


 ……


 …………


 ………………


 おい……


 ……今、なんて言った……?

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