第4話 ゴミの日
今日はゴミの日だったようだ。
男は朝食後に、ゴミをまとめて『行ってきます。』と、玄関まで付いてきた烏の頭をひとなでしてから出勤していく。
烏はテレビでも見ようと向きを変えようと、脱衣場の扉が少し開いている事に気が付いた。
そろそろと中を覗いてみる。
昨日覗いた時は何もなかった。
人の声や気配がしたのはやはりお化けの類いかも…。
『うぅ…。』
今日も声が聞こえる。
脱衣場ではなく、奥のお風呂場から。
お風呂場の扉も少し開いている。
烏は思いきって覗いてみる。
声の主は『河野 愛子』だった。
烏はパニックながらも『河野 愛子』に向かってカァカァと話し掛ける。
『大丈夫?何があったの?今、助けてあげるから。頑張って!私!』
私、『河野 愛子』は両手両足を縛られていて、口には声が出せないようにかタオルを巻かれている。
目隠しはされていないが、薬でも飲まされているのか、うつろな目をしている。
浴槽の中に布団と毛布が敷いてあり、身体を折り畳むように寝かされている。
烏はカァカァと鳴いて『河野 愛子』の意識をはっきりとさせて、一刻も早くここから逃げて欲しかった。
『やっぱりな。おかしいと思ったんだ。』
烏が振り返ると、仕事に行った筈の男が脱衣場に立っていた。
『お前、普通の烏じゃないだろ?軍か警察で訓練された烏とか?とにかくばれるとまずいんだよ。』
男は烏をむんずと掴み、烏の鼻と口にタオルを押し付けた。
薬を嗅がされている?烏は翼や、足をバタバタして抵抗するも羽が抜けるだけで、なんの抵抗も出来なかった。
意識が薄れる中、男の顔を何処で見たか思い出す。
あぁ、ゲーセンの店員かぁ…。
ぼかっ!
『河野 愛子』が思い切り男の腹を蹴飛ばす。
烏が一生懸命嘴と足でロープと格闘した甲斐があったのだ。
気が付くと、伸びた男の横に烏が横たわっている。
私は手を伸ばして烏を抱き締めようとした。が、手はロープに縛られていて、烏に届かない。
私はぼんやりと自分の手を見つめる。手、私の人間の、女性の手だ。
私はハッとして、身をよじって浴槽から這い出した。
足がガクガクするし、目眩もして吐きそうだが、這いつくばってさっきまで私の意識が入っていた烏の元へ辿り着く。
良かった。息をしている。
烏を抱き抱えて、壁を利用して何とか立ち上がり脱衣場の鏡を見つめる。
やはり薬を飲まされているのだろう。目がおかしい。口元のタオルを剥がすと幾分楽になった。
早くここから逃げないと。
何とか玄関まで辿り着く。
履いていたピンヒールは男を蹴飛ばした時に脱げたようで裸足だった。
下駄箱に履ける靴があるだろうか?
男の靴を履くのは嫌だが、足元がおぼつかないのに裸足で外には出たくない。
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