第3話 留守番

けたたましい音で目を覚ます。

烏なので目覚まし時計を止める事が出来ない。

男が早く起きれば良いのに。と、寝返りをうった男を見つめる。

暫くして携帯のアラームの何度目かで、やっと男が起き、慌ただしく着替え出す。

『ほら、朝飯。』

昨日の残りのピザと、牛乳を用意してくれる。

『良い子にしてろよ。』

男はピザを口に押し込みながら玄関の扉をガチャリと閉めた後、階段をバタバタと降りていく音がした。


さて、男は何時頃帰宅するのだろうか?

その間に、烏の私に出来る事は何かあるだろうか?

烏は世話になった男の為に掃除や、洗濯が出来れば良いのに。と、思った。

やはり私は人間だったのだろうか?

翼をバサバサと動かして飛ぶ練習もした。

飛べない。そもそも飛び方がわからない。

男が消し忘れたテレビを観ながら、朝食を終えた。


男の部屋を探検してみる。部屋の間取りは1LDK。典型的な独り暮らしの部屋といった感じだ。

男の名前は『鈴木 圭吾』郵便物を見てわかった。

年は二十代半ば位だろうか?

本棚には私でも知っている漫画が全巻揃っている。

つけっぱなしのテレビから、聞き覚えのある名前が聞こえてくる。

ニュースでは『河野 愛子』という女性が行方不明になったと伝えている。

『河野 愛子』これは私の事だと確信する。

独り暮らしの37歳の女性が行方不明だと伝えたきりニュースは、違う話題に移ってしまった。

烏はリモコンが置いてある場所までピョンピョンと移動して、チャンネルをパチパチと変えていく。

他のチャンネルでも『河野 愛子』はニュースになっていた。どうやら金曜の夜から行方不明になり、月曜日に行方不明届けが出されたようだ。


どうゆうことだろう?

私『河野 愛子』が死んで、烏に産まれ変わったのだろうか?

それとも『河野 愛子』の意識が烏に移ったのだろうか?

それか、今まで普通に烏として生きてきて急に人間の言葉がわかるようになっただけで、自分は『河野 愛子』だと思い込んでいるだけとか…。

わからない。

思い出せないのだ。


ゴトゴト。

玄関の方から音がした。

ポストに配布物でも入ったのだろうか?

烏は、ピョコピョコと玄関まで見に行く。

ガタガタ。

玄関ではなく、手前の脱衣場の方で音がする。

何かが落ちたのだろうか?

扉は閉まっている為中を確認する事は出来ない。

それ以上物音はしなかった為、烏はその場を離れようとした。

『うぅ…。』

人の声が聞こえる。

気のせいかと思ったが、呻き声のような声がその後も聞こえてきた。

玄関には男物の靴しかないし、部屋も典型的な男の一人暮らしの荷物しかない。

昨日から男と烏しかいないはずなのに、何かがいる気配は確かにする。

烏は男が脱ぎ捨てたパジャマにくるまって聴こえない振りをした。


まるでお化け屋敷に置いてけぼりにされた気分だ。

烏は男に早く帰ってきて欲しかった。




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