第2話 ゲームセンター

『お兄ちゃん、こっちメダル補充してくれる。』

いつもの客に呼ばれてメダルを補充しに行く。

平日の昼間は年寄りや小さな子連れが多く、メダルゲームコーナーは賑わっている。

土日祝の方が客はもちろん多いが、平日は従業員が少ないため意外とやることが多い。


『鈴木、今日の飲み会の後カラオケ行く?』

今日は新人の歓迎会があったんだった。

男はカラオケは辞めておきます。と答えた後に、それでも何時頃帰れるんだろう。と、今朝の事を思い出していた。

昨日の夜は中々眠れなくて、朝はバタバタで出てきてしまったのだ。

テレビを消した覚えはないし、烏がそこら辺でトイレしても良いように新聞紙をひいてこようと思っていたのに時間が無くて出来なかった。

あぁ、部屋がうんこだらけだったらどうしよう。


『烏って、頭良かったですよね?』

男は同僚に聞いてみる。

『何だよ急に。5歳児並みに頭良いじゃなかったっけ?』

うちのばあちゃん家で飼っていた烏は喋ったりしてたよ。いや、あれは九官鳥だったっけ?

自分から質問したくせに、男はあまり聞いていなかった。


アパートの鍵を開けると、烏がピョコピョコと玄関までやってきた。

烏がカァカァと、翼をバタバタしながら何かを訴えようとしている。

『もう遅いから大きな声で鳴かないで。』

男はしぃっと指を口元に持って行くと、烏は理解したようにピタリと鳴き止んだ。


男は荷物と上着を廊下に置いてから、脱衣場の洗面所で手や顔を洗った。

鏡越しに烏が覗いている。

『お前も顔洗うか?』

声をかけると烏は脱衣場から逃げて行った。


スーパーで買ってきた弁当を烏と食べながら、男はマジマジと烏を観察する。

部屋はうんこだらけではなかった。

何処にも排泄物がなかったのだ。

やっぱり何かの病気が原因で、うんこも出ないし、飛べないのだろうか?

烏のお腹を撫でてみる。

烏は一瞬びくっとするが、嫌がる素振りはせずに、食べるのを中断してもっと撫でで欲しそうに男に近付いてくる。

昨日頭を触った時にも感じたが、前にもこうしたことがあるような気がする。

実家で鳥を飼っていた時があったっけ?

もうひとつ、気になることがある。

男は冷蔵庫からプリンを取り出し、『プリン食べる?』と烏に聞く。

烏は首を縦に振る。

プリンを食べる烏を見ながら男は、この烏はやっぱり言葉がわかるのではないかと思った。


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