飛べない烏とピザを喰う
@BrightWin
第1話 漆黒の嫌われもの
今、私はコンビニの自動ドアの前で立ちつくしている。
周りの人は我関せずといった感じで、私の直ぐ横を通り過ぎて行き、時たま立ちつくしている私が邪魔なのか、舌打ちしたり、横を通り過ぎた後で振り返る人もいる。
『しっしっ!あっちへ行け!』
店員と思われる男が、箒で私を退かそうとしているが、私が怖いらしく声が震えている。
私は溜め息をひとつつき、しょうがなくその場から離れる。
匂いに釣られてピザ屋の前まで来た。
私はピザが好きだったのだろうか?
丁度ピザ屋から出てくる男とぶつかりそうになり、私は焦ってピョコピョコとその場を離れる。
『怪我でもしているのか?』
思いがけず話し掛けられ、びっくりして私は立ち止まる。
こんな私に話し掛ける人がいるなんて。
『噛むなよ。』
男はヒョイと私を持ち上げて、そのまま私はピザと一緒にテイクアウトされた。
『もう1枚喰う?』
私はハッと、我にかえった。
あまりにもピザが美味しく、がっついてしまっていたらしい。恥ずかしい。
私の為にビールも注いでくれている男には見覚えがあった。
何処で見たんだっけ?
もっさりとした黒髪、黒ぶち眼鏡。お洒落とは無縁なスウェットの上下。
男は私の視線に気付いたのか、ニコリとしてからティッシュで私の口元を拭いてくれる。
誰なのか思い出せないが、私みたいな嫌われものにも優しくしてくれるのだから、好い人には違いない。
『動物病院では見て貰えないみたいだから、飛べるようになるまでうちにいるか?』
男は私の頭をワシャワシャと撫でてくれる。
帰宅してからはピザも食べずに、携帯で私の事を色々と調べてくれていたらしい。
男がシャワーを浴びている間に、色々とここ数日の事を整理して考えてみる。
私は人の言葉がわかるが、話すことは出来ない。
鳥の言葉はわからないし、何故か飛ぶ事も出来ない。
飛び方がわからないだけなのかもしれないが。
『一緒に寝る?』
男は布団をめくり、ポンポンと敷き布団を叩く。
流石に一緒に寝るのは駄目なような気がして私は首を横に振り、部屋の隅で寝る事にする。
『烏は布団に入って寝ないのかな。おやすみ。』
私はここ数日殆ど寝れていなかったのを思い出し、あっという間に深い眠りについてしまったので、いつまでも男が私をじっと観察するように見つめていた事には気が付かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます