第93話
それに……。住むところがあれば、秘密のあるキュイちゃんと一緒に長くいられるかも……。
獣人だと思われていたとしても差別されちゃうんだよね。それが、魔物だと知られたら……。
「人里からちょっと離れた場所がいいです」
私一人の問題なら住むところを世話してもらおうとは思わなかったかもしれません。
ですけど、グレイルさんの名誉と、キュイちゃんの秘密がかかっています。
「分かった。用意するよ。どれだけ離れていようと、俺はいつでも転移できるから」
にこにこと笑っています。素直に住むところを用意してもらうことにしてよかったです。
「他に、希望はないか?」
希望ですか?
家の大きさは小さくて構わないです。……が、普通の家には台所も風呂もなさそうですよね……。そのあたりは自分で何とかしていきましょう。森の中での料理でもなんとかなるんです。
あ、そうだ。一つだけ、必要な物がありました。
ミック君に種を作ってもらっても、育てる場所がないとだめです。
「えーっと、土地が欲しいです。平らで気候がよいと嬉しいです」
これ、大事です。平じゃないと、山とかだと畑にするのは大変です。平でも砂漠みたいなところでは作物がよく育ちません。
「土地……?土地が欲しい?それは……えーっと……うん、そうか……結婚しないということはそういうことだよな……」
ん?結婚しないと土地に何か関係が?
「分かった。さっそくいろいろ手配する。仕事が残っているから、もう帰るけれど……えーっと、その泥水はなんだ?」
泥水?
言われて振り返ると、さっき作ったミルクココアがありました。
「さっき作ったんです」
「泥水を?フライパンで?わざわざ?」
いや、泥水じゃないんですけど。
チョコを泥団子と言われたくらいですから、ココアは泥水ですか……。この世界の人たちは……。
「ああ、そうだ。指輪はもう隠しておけ」
グレイルさんの手が、私の手に伸びました。
そして、指輪に触れる直前に手が止まります。
「この指輪……俺の渡したものじゃないな」
グレイルさんの顔が青ざめます。
ん?
「あ、間違えました。こっちはワーシュさんにもらったものです」
「他の男から指輪を貰ったのか?」
グレイルさんがわなわなと小刻みに震えています。相当ショックを受けているようです。
あれ?もしかして……。
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