第94話

「やっぱり、あの、指輪って、高級品なんじゃ……気軽に貰っちゃダメな品ってことですか?」

「気軽に……誰が一体リツに渡したんだ……リツ……」

 グレイルさんが私の言葉を否定しません。ということは、やっぱり高級品!

「ひゃー!すいません、グレイルさんっ。やっぱり気軽にあげたりもらったりできるような物じゃないんですね!高級品なんですね!すいません、返します、返しますっ!グレイルさん、返します!」

 グレイルさんにもらった指輪を抜いて渡そうとするんですが、指輪が抜けません。

「グレイルさん、抜けないです……」

 焦れば焦るほど指から抜けません。

「俺からの指輪が……迷惑ということか?」

 グレイルさんが頭を大きく横に振っています。

「迷惑とかじゃなくて、だって、その、そんな高級な品物いただいても……何もお返しできませんし……」

 グレイルさんが必死に指輪を引き抜こうとしている私の手をぎゅっと握りました。

「やめてくれっ。他の男からもらった指輪をしたまま、俺の指輪をはずすなんて……俺は何かの見返りが欲しくて指輪を渡したんじゃない……俺は、俺はリツが……」

 えーっと。

「もしかして、グレイルさんは私のこと……心配してくれてるんですよね?異世界から来て困ることがあるんじゃないかって……だから、様子をときどき見に来てくれる……連絡が取れるようにってこれを……」

 グレイルさんに握られた手から、ぬくもりが伝わってきます。

「は?……あ、ああ、そうだ、そうなんだ。リツのことが心配……そう、心配なんだ。その……」

 グレイルさんに目の輝きが戻ってきました。なんだかさっきまでショックを受けすぎて死んだ魚のような目になっていたのです。

「どこの馬の骨ともわからぬ男から指輪をもらうなんて心配なんだ。魔力がしみ込んだ指輪……いつでも連絡が取れる。その、悪用しようとすれば悪用ができるから……」

「悪用?」

 いつでも連絡が取れるなんて、携帯電話みたいなものってことですよね。

 みんな、普通に携帯電話は持っていましたし、そこまで別に警戒するようなものでもないですよね?

 指輪を持っている人とその魔力の主としか連絡取れないというなら、電話番号が拡散されて知らない人からも電話がかかってくるとかがないんですよね?むしろ、携帯電話よりも安全なのでは?

 首をかしげると、グレイスさんが大慌てで否定しました。

「お、俺は、悪用したりしないからな?いくらリツの位置が分かってリツのところにすぐに転移できるからって、夜中に突然現れて襲ったりとか、そんな悪いことしたりしないからっ」

 ふふふ。

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